第22話
まず、こういう形で告げることになったことを許してほしい。
本当は、夜の公園でお前と対峙していたときに(寒い中、長話に付き合ってくれて感謝している)話すべきだったのだと思う。だが、俺にそこまでの勇気はなかった。このことを聞かされて、お前がどんな反応を見せるのか、怖かったというのもある。
回りくどい話はいいか。本題に入る。結論から書く。
城ヶ崎遙香は、妊娠していた。
解剖で明らかになった事実だ。ご両親には伝えられたはずだが、恐らく、「このことは公表しないでほしい」と頼まれたのだろう。が、人の口に戸は立てられない。どこかから情報が漏れて、俺の叔父の耳にも入ることになったのだと思う。
妊娠はごく初期の段階だったから、見た目に変化が現れるほどではなかった。この段階では、本人にも自分が妊娠したという自覚がないことも多いらしい。
父親が誰なのか、そこまでは分からない。ご両親が鑑定を希望しなかったためだ。
城ヶ崎が藤野と付き合っていることは、家族にも知られていたそうだ。自宅に招いたことも何回かあり、両親も、ひとりいる妹さんも、藤野のことは気に入って、歓迎していたそうだ。もしかしたら、両親が子供の父親を探るべきか悩んでいるあいだに、藤野が死んでしまったことも影響しているのかもしれない。
このことが、城ヶ崎の自殺(公園で話した状況から、こう断言してもいいと俺は思う)の原因、あるいは一因になっていたのか、そうでないのか、それは――俺にも、そして、お前もそうだろう――誰にも分からない。ただ、そういう事実があるというだけだ。書いたように、城ヶ崎自身が、それを自覚していなかったという可能性もあるからな。
藤野も死んだ今、この謎に答えが出ることは永遠にない。
それと、もうひとつ。
登録した未成年者とデートの斡旋をする、いわゆるデートクラブのひとつが近く摘発される。これも叔父からの情報だ。どうしてこんなことを書くのかというと、そのデートクラブの活動範囲にこの街も含まれていて、押収した登録者名簿に、城ヶ崎遙香の名前があったからだ。このことは当然、絶対に公表されることはないが、お前にだけは教えておきたいと思った。顧客名簿も押収されたから、そちらにも捜査の手は伸びる。結構な逮捕者が出ることになるだろう。もしも、クラブの規約を破って、未成年者と行為に及んでいたようなやつがいたら、社会的に抹殺されることは免れないだろうな。まあ、知ったことではないが。ちなみに、記録によれば、城ヶ崎が顧客とのデートビジネスに応じたのは一回きりだったそうだ。
伝えたかったことは以上だ。
恐らく、お前がこの手紙を見つけるのは、卒業式の日の朝になるだろう。大事な日だというのに、こういうものを読ませることになってしまい、済まなく思っている。許してほしい。
ここに書いたことを、桐林、宝田に教えるかどうかは、お前に任せたい。俺のほうから、このことを誰かに言うつもりはない。出来ることなら記憶から消してしまいたいとも思っている。叔父にも、それだけは念入りに(脅しをかけても)口止めさせる。伝手を使って、可能な限り業界全体にも手を回す。
卒業式で話をする機会があるか分からないし(たぶん、お前のほうで俺を避けるんじゃないかと思う)、公園でも言ったが、卒業したら俺とお前が会うことは、もう、ないと思う。俺のほうは、お前だけでなく、桐林、宝田、他のクラスメイトとも、二度と会うことはないだろう。だから、最後に言っておく。
ありがとう。色々とあったが(というか、何もなかったと言ったほうがいいか)高校生活最後の一年間、お前たちと一緒のクラスになれて楽しかった。
さようなら。
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