0-2 君には、教えてあげない。
くすんだ窓ガラスから見る朝日は、それでも美しかった。
「良い朝だ」
吸血鬼の弱点が陽光だなんて誰が言ったのだろう。ゾンビが白昼堂々と出歩くのと同じように、その光は俺にとって何ら脅威になることはない。それどころか、見ているだけでこんなにも心を揺さぶられることに自分でも意外に思った。
差し込む光がキラキラと、空気中に漂う
そこに比較的綺麗な状態で残されていたソファに腰掛けて、俺は窓の外を眺めていた。
同上のローテーブルの上、カセットコンロで沸かしたやかんの湯をカップに注ぐ。
こんな爽やかな朝はコーヒーが飲みたくなる。その苦味とカフェインで、寝惚けた身体に一日の始まりを知らせるのだ。
欲を言えばインスタントでなくきちんとフィルターで淹れたものが良いが、それは流石にこの状況では贅沢に過ぎるというもの。
今はこの一杯に感謝して、ゆっくりと味わいながら新しい朝の到来を祝福しよう。……なんて、思っていたのだけど。
「無粋だなぁ」
ぽそり、呟くと同時にソファを蹴立てるようにしてその場から飛び退る。直後、ぴしりと朝焼けの空に亀裂が走った。窓ガラスを貫き飛来した弾丸が、先程まで俺が座っていたソファの背もたれに突き刺さる。
「コーヒー一杯分の猶予くらい与えてくれてもいいんじゃない? ……ねぇ、アイちゃん」
途端、ひび割れた世界にトドメを刺すが如く、窓ガラスを突き破って白い軍服の男が転がり込んできた。
飛び散るガラス片の中、瞬きもせず真っ直ぐにこちらを見据える黒い瞳。オールバックの黒い短髪。二メートル越えの巨体の持ち主、アイちゃんことアインスは、いつものように精悍な顔立ちに硬い表情を浮かべていた。
今しがた挨拶代わりに一発くれたアサルトライフルは銃口を下に向けている。話す意思はあるようだ。
「やっぱり君が来たか。まぁ、そうだよねぇ。俺に対抗出来るのは、君くらいのものだもんね」
「…………」
「それにしても、遅かったね。もっと早く見付けてくれるかと思ってたんだけど。とりあえず、座ったら? あ、コーヒー飲む?」
「何故だ」
その彼の引き結ばれた唇からは、前後の会話内容をガン無視して短い問い掛けが成された。
「何故、こんなことをした――02」
俺は知っている。一見、感情の無いロボットみたいな君が、実は誰よりも心優しい人だということを。
「さぁ? 何でだと思う?」
答える代わりに、挑発的に笑んだ。
――君には、教えてあげない。
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