滅びの美学
棺田
ある貴族の話
目の前が真っ赤になった。
その赤いものが大量の血液だと気付くまで数秒も掛からなかった。
妙に落ち着いて冷えきった思考を巡らせ、
ああ、こんなものか。と。
なんだ、思ったより簡単じゃないか。人を殺すなんて。
真っ赤になった自分の姿を見て、洗うのは大変そうだが。と考える。
そして、床に転がっている
その動作に合わせ、床から染み出てきた黒いモヤに死体は取り込まれ、跡形もなく消えた。
この後はどうしようか。と少し考え込んでいると、ガタン、と後方から音が聞こえた。
振り返るとそこには、先日この家に迎えられた私の義妹がおそるおそる顔を出し、怯えた様子でこちらを見ていた。
そう、そうだ。全部此奴のせいだ。此奴のせいで、私の人生は狂ってしまった。取り返しのつかない程に、もう後戻り出来ない程に。
お前さえ居なければ。お前さえこの家に来なければ。私は普通でいられたのに。こんな感情に支配されることも無く、純粋なままでいられたんだ。
黒い感情に支配された私は、義妹の方へと足を向ける。
ビクッ、と義妹は肩を震わせた。腰が抜けて、逃げることも出来ないのだろう。
私はそのままゆっくりと近付き、義妹の顔を手で覆い、力を込める。
「……おやすみ、ラヴィニア」
赤い飛沫を撒き散らし、華のように咲き乱れた妹だったものを、虚ろな瞳に焼き付けた。
私では、お前を愛せない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます