第18話 数学界の権力者

 数学界では、計算狩りが一部で行われ、混乱が生じていた。その一方で、計算事務所アルゴリズムでは陸前ペルゲたちが世間の話題について語り合っていた。


「数学界は今どうなってるんだ、建部?」

「さあな。もち、俺は数学界にはいないから詳しいことは知らねえよ。それに、ペルゲと積の方がホテル勾当台にちょくちょく顔出してんだから、お前らの方が詳しいだろ?」

 建部は肩をすくめて答えた。


「いや、建部は機械担当だから、何かしら情報収集もしてるかと思ってな。」


「俺を何だと思ってんだよ。で、お前、なんで頭に氷袋なんか乗っけてんだ?かき氷食い過ぎたわけじゃねえよな?」


 ペルゲは頭に大量の氷を詰めた袋を押し当てていた。


「これか?ゼウスに『頭を冷やせ』って言われたんだよ。ま、そういうことだ。」


(ゼウス…。)

 積は目を伏せ、心の中でそう呟いた。


「おい、どうしたんだよ、積?なんかおかしいぞ。」

 ペルゲは不審そうに積の様子を伺った。


「いや、なんでもない。ちょっと出かけてくる。」

 そう言うと、積は部屋を出てどこかへ向かって行った。


「なんだあいつ?」

 ペルゲは首をひねりながら、近くのソファにどっかりと腰を下ろした。


 一方、カウンターにいた小町は少し心配そうにペルゲの様子を見つめていた。





 その頃、川内は高校の教員である榴(つつじ)に呼ばれ、二人で話をしていた。


「川内くん、この間の話、覚えている?」

 榴が問いかけると、川内はきょとんとした顔で答えた。


「えっ、何のことですか?」


「ほら、前に言ったじゃない。ピタゴラス教団の事務所に来てみないかって。」


「ああ、すみません、すっかり忘れていました。」


「そう?よかった、思い出してくれて。じゃあ、今日一緒に行かない?」


「今日ですか?」


「何か予定があった?」


「いえ、特にありませんけど……。」


「じゃあ、決まりね。放課後に職員室まで来てね。」

 榴はそれだけ言うと、その場を去っていった。


(まあ、行くだけならいいか。)

 川内はそう心の中で呟き、了承した。





 その頃、ゼウス率いるオリュンポスは、数学界の今後について会議を行っていた。


「全員揃ったな。ヘスティア、ポセイドン、ヘルメス、ヘパイストス、デメテル、アルテミス、アレス、アプロディテ、アポロン、アテナ、ヘラ、そして我がゼウス。以上十二神が、これからの数学界を創り上げていこうではないか。」

 ゼウスが意気込みを語ると、会議が始まった。


「アテナ、この前のアキレスの件だが、どうなった?」


「はい。アキレスは数学界から除籍となり、計算履歴は全て消去しました。その内容は現在、我らオリュンポスのデータベースに保管されています。」


「よくやった。いずれ『A』の称号を誰に与えるかも決めねばならんな。」


 その話題にアポロンが口を挟んだ。


「ゼウス、その件についてですが、計算狩りで注目されているペルゲと積を、次の数学界代表会議で推薦するおつもりですか?」


「状況次第だな。それにしても、なぜそんなことを聞く?」


「実は、ペルゲに関して『A』の称号を巡って一人、勢いのある人物がいるからです。」


「その名は?」


 少し間をおいて、アポロンは答えた。


「定禅寺政宗(じょうぜんじまさむね)です。彼はホテル勾当台の社長であり、今後の数学界の台風の目となるかもしれません。」


「そうか……ホテル勾当台か。我々オリュンポスとも関係があるからな。警戒しておく必要がありそうだ。」


 ゼウスはそう言いながら、一同に視線を投げかけた。


「各自、引き続き持ち場で仕事を進めてくれ。」

 ゼウスの号令のもと、十二神たちはそれぞれの役割に戻っていった。





 放課後、川内は榴と共にピタゴラス教団の事務所を訪れていた。


「ここがピタゴラス教団の事務所ですか?すごく大きいですね。」

 川内が建物を見上げながら言うと、榴は最上階の窓を指差した。


「あそこがピタゴラスの部屋よ。眺めがいいから、よくあそこで外を見ているのよ。」


「そうなんですか。でも、今は誰も窓際にいないようですね。」


「ええ、たぶん忙しいのね。もしかしたら会えないかもしれないけど、許してね。」


「いえ、会えなくても大丈夫です。」


 二人は会話をしながら建物の中へ入った。そこには広々としたロビーがあり、大勢の人々が行き交っていた。


「すごい人ですね……やっぱり大手事務所は違いますね。」

 川内は圧倒されつつも、その光景を目に焼き付けた。


「私の部屋に案内するわね。」

 榴はエレベーターに川内を乗せ、上階へ向かった。榴の部屋があるフロアに着くと、廊下では数人が話し込んでいた。


「あら、あなたたち、どうしたの?」

 榴が声をかけると、話し込んでいた一人が答えた。


「いや、今日はピタゴラスが機嫌悪くて、ずっと何かやってるみたいだよ。だからそっとしておいた方がいいかもな。」


 榴は一言返事をすると、川内を自分の部屋に案内した。


「ここで少し待っててね。」

 川内を椅子に座らせ、榴は部屋を出ていった。


 榴がピタゴラスの部屋に入ると、神妙な面持ちで挨拶をした。


「何の用だ。」

 ピタゴラスが低い声で問うと、榴は頭を下げて言った。


「お会いしていただきたい方がいます。きっと上様も興味を持たれるかと。」


 ピタゴラスは短く許可を出し、榴は急いで川内の元へ戻った。


「ほら、行くわよ。」


 榴に促され、川内は意を決してピタゴラスの部屋へ入った。


「失礼します。」

 川内もそう言って会釈して、もじもじしながら入ると、ピタゴラスは川内の方を見つめた。


(この人が数学界の権力者、ピタゴラスなのか・・・。)


 その時、川内は異様な空気の中で威圧を感じ、ピタゴラスが普通の人よりも大きく見えていた。


(これが数学界の権力者の威圧か・・・。)


 川内は心の中でそう呟き、威圧に立ち向かう覚悟を決めた。

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