花子さんと琥珀さん【琥珀さん目線】
花子さんと琥珀さん
今日もなんか眠れないし夜な夜な散歩してるけど、目の前の可愛い女の子は何故無視され続けているのだろう? 街歩く人に手当り次第話しかけてるみたいだけど、何かに困っているのかな? なんか困っているみたいだし、話しかけてみようかな
「どうし……」
話しかけようとした途端、嫌な予感がした。女の子をよく見ると体が透けている。もしかして、幽霊なのか? だからみんな話しかけられても、無視してる? 女の子は何か考え事をしている。話しかけたつもりだったが、僕には気づいてない? なら、今のうちに遠くに……。いや、でも困ってる人を見かけたら見捨てられないのがいつもの僕。今も考え込んでるみたいだし困っていることは違いないはず、よし
「どうしたの?」
「え? わたしのこと見えるんですか?」
この発言は幽霊確定かな。万が一のため、君が幽霊ってことに気づいてないふりしておくか
「え? 見えてるけど?」
「ほんと? 本当なの?」
「本当だよ、そうじゃなきゃ話しかけられないでしょ」
女の子は目の前で泣き始めた。僕はどうすれば良いか戸惑ったが、とりあえず名乗ることにした
「僕の名前は宵 琥珀、君の名前は?」
「わたしの名前は花子。花子だけど、トイレの花子さんではないよ?」
泣きながら、トイレの花子さんではないよ? って言うものだから、少し笑ってしまった。とりあえず、ハンカチ渡してあげだ方がいいよね。それにしても、なんで下の名前だけなんだ? まあ、別にいいんだけど
「花子か、いい名前だね。とりあえず、これで涙拭きなよ」
僕はハンカチを渡した。花子さんは一瞬、躊躇ったようだがちゃんと受け取ってくれた。さて、立ちっぱなしじゃ申し訳ないし、座るか
「困っているんだろう? 立ったままじゃあれだから座ってから話そう」
そう言い僕は花子さんと一緒に近くのベンチに座った
「で、何に困っているんだい?」
花子さんは黙ってまた何か考え込んでいる。おそらく、幽霊なら成仏できない。とかだとは思うが、なかなか話してくれないな。人間に自分が幽霊だと明かすことに恐れているのか? それじゃ、もう気づいてないふりは辞めて、こっちから行くか
「当ててみていい?」
花子さんはこっちを一瞬見たが、やっぱり何も言わない
「成仏、したいんでしょ?」
花子さんは分かりやすく驚いた顔をした
「なんで、分かったの?」
自分では体が透けて見えることに気づいてないのか?
「なんでって、そりゃ分かるよ。ほら、なんか透けてるし……」
あ、ただ透けてるって言うと服が透けて肌が見えるって思われちゃうか?
「じゃあ、最初から分かって話しかけてくれたんですか?」
よかった、変な意味では捉えられてない。まあ、最初は幽霊ってことに気づいて逃げようとしたんだけどね。まあ、ここはかっこいいセリフでも言っておくか
「生きてる生きてない関係なく、可愛い子が困っていたら、話しかけるのは当然でしょ?」
あれ今僕、可愛い子って言った? 普通に恥ずかしいんだけど……。でも、もう言っちゃったことだし、話を進めるとするか
「んで、成仏できなくて困ってるってことはなんかこの世に心残りがあるんでしょ?」
花子さんはようやく口を開いて言った
「うん……。あるよ、心残り」
花子さんは少し考え込んでから、小さな声で話を始めた
「実は、わたしまだ一回も男の人と付き合ったことがないんです。なのに、周りの子はみんな付き合ってて、だから一回でもいいから付き合ってみたかった。で、でも好きな人に告白するどころか、好きな人ができなくて……」
なるほど、思春期の女の子らしい悩みだな。でも、告白する勇気がないのではなく、好きな人ができないのか。花子さんは話を続けた
「それで、ずっと、ずーっと、男の人を好きになることってなんなんだろうって考えて。ぼーっと歩いていたら。交通事故に遭って死んじゃったの……」
「それで幽霊になったのか……」
それにしても、考え込み過ぎて、交通事故で、か。僕も気をつけなきゃな……。花子さんはさらに続けた
「死んで幽霊になったあとも、わたしは考え続けました。好きな人といると心臓がドキドキするって聞いたことある。けど、わたしそんなことなったことないし……。そうか、わたしそもそも男の人と話したこと全然ないんだ。そう思ったわたしは男の人と改めて話したいって思ったんです。でも、幽霊になってからは誰もわたしに気づいてくれなくて……」
「そっか……。それで僕がようやく見つけた、気づいてくれる人ってことか」
花子さんは小さく頷いてくれた。でも、どうしようか。この流れだと僕が付き合ってあげることになっちゃうけど、僕も思春期の女の子だしな……。まあ、手伝うことぐらいできるか
「なら、君が人を好きになることが分かるまで僕が手伝ってあげるよ」
すると花子さんは何を思ったか、僕の手を取り自分の胸に手を当てて言った
「ねえ、わたしの心臓、ドキドキしてる?」
僕は驚き、すぐ手を引っ込めた
「わたし、ドキドキしてたよね? これって君のこと好きになってることで合ってるよね?」
花子さんはさらに尋ねてきた。ものすごく圧を感じる……。とりあえず、何か言わないと
「た、確かに激しい心臓の音を感じた」
本当に異常なほどに心臓な音を感じた
「じゃあ君がわたしの好きな男の人ってことだよね。ようやく、見つけた。わたしの好きな人」
花子さんはそう言った。僕は流石に狂気を感じた。すると花子さんは急に抱きついてきた。びっくりしたが僕は疑問を抱いた。また心臓の音を激しく感じる。ってあれ? 幽霊なら心臓の音なんて聞こえないはず。もしかして、生きているのか? と
「ひとつ疑問があるんだけど、君幽霊なんだよね?」
「そうだよ?」
花子さんは即答したが、僕は訊いた。
「じゃあ、今も感じている心臓の音っておかしくない?」
おかしくないわけがない。幽霊は死んでる、つまり心臓は動いてない、はず。もしかして、僕の認識がおかしいのか? 幽霊でも心臓は動いてるものなのか?
「確かに? でも、そんなのは今はどうでいいや。ようやく好きな人ができたし」
「どうでもよくはないよ」
僕は思わずツッコミを入れた。でも、今も心臓の音を感じる? もしかして、これ僕の心臓の……
「ねえ、わたしと付き合って」
「あ、え? 急に告白されても、まだ出会ったばかりだし……」
やはり、僕に付き合ってと言ってくるか。とりあえず断ったけど、さっきから感じる圧のこともあって、僕の心臓がドキドキしてる? 心臓がドキドキって言うと、僕が花子さんのことを好きになってるみたいだけど……。でも、花子さん、僕が女の子ってことに気づいてないよね。だったら、早めに伝えた方が
「あと、僕……」
「んじゃ、家までわたしを連れてってよ。わたし、家無いからさ」
え? 家? ってか何気に今遮られたよね?
「僕、……」
「ねえ、いい?」
ダメだ、花子さん好きな人が僕と意識し始めた途端、ぐいぐい来る。これは断った方が厄介になりそうな予感……。大人しく言うこと聞いおく方が良さそう
「わかった、わかったよ」
「え、本当にいいの?」
僕は小さく頷いた。そして、僕は花子さんの手を取り、家まで連れて帰った
こうして僕、宵 琥珀は、僕のことを好きな人、花子さんを家に住ませてあげることにした。ちなみに今も、心臓のドキドキは続いてる
短編小説 花子さんと琥珀さん すららす @slaras1027
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