第39話
「ちくしょう! ここから出しやがれ!」
「無駄無駄、私達の結界からは脱出できませんわ」
「そうそう、そこでもう一人がやられるのを見とってな」
天川が閉じ込められた結界を殴るがびくともしない。
二人の女生徒の襟章にはBの文字、格上相手に二対一。双子となれば連携の隙をつくのも難しいだろう。
「逃げろ凛! 二対一じゃ無理だ!」
天川が叫ぶ。国崎の実力はCクラスで
「クッ!」
「どこ見てはりますの」
「こっちどすえ」
自分よりもパワーもスピードも上の相手が二人。攻撃系の
逃げろと天川が叫ぶも、結界に阻まれてその声は届かない。いや、仮に声が届いていたとしても国崎は逃げなかっただろう。
「いいかげん諦めたらええんちゃいますの」
「早いとこ降参したらこれ以上痛い目ぇみることはあらしまへん」
打ちのめされた国崎が前のめりに倒れる。
(これはきっと罰ね、
薄れる意識のなか、国崎の思考を支配するのは実力不足であるという罪悪感。元々彼女は勉強が特段できるわけではなく、アルマの扱いでCクラスに入れたのである。しかし、アルマに関しても天川と国崎流に酷似した武術を使う生徒がいなければあそこでやられていたはずである。
実際にはそうでなくとも、ここしばらく天川の成長を見続けていた国崎は過剰なまでに自分の実力不足を自分で攻めていた。自宅では素振りを繰り返した木刀に血が染みつき、すり足を続けた足裏も血が滲んでいる。
(ここまでやってもダメだったんだし、私には無理なのかな)
倒れながらも刀を握っていた手から力がぬけていく。
「どうやら諦めたようですなぁ」
「そうやなぁ。次はあっちの方を何とかすれば終わりや」
国崎から諦めの意思を感じた女生徒たちは、未だに結界を殴り続けて周囲の土をめり込ませる天川の方を向くと、開いた手をゆっくりと握るようなジェスチャーをする。
「うお!!」
「ほらほら、早いとこリタイアしないとペチャンコやで」
すると、天川の周りの結界が急速に縮みだした。天川は咄嗟に両手を突っ張り棒のようにすることで耐えたが、縮む力は強く、そう長くは持たない。
「あっちの彼女さんもやられてもうたし、諦めてええんやないの?」
女生徒が結界を覗き込みながら天川を挑発する。
「!」
「凜を舐めるんじゃない。アイツは、あれぐらいで諦めるような奴じゃないさ。いつか絶対に立ち上がる、そういう奴さ」
すると、天川は挑発を返すように結界に額を打ち付けた。その顔は絶望的状況にいながらも、諦めの色はない。
「負け惜しみを! さっさと潰れておくんなまし」
女生徒がさらに結界に力を込め、天川の顔に玉のような汗が浮かぶ。
(智……也、あいつはまだ諦めてないのね)
倒れていた国崎が、そんな天川の方を見た。声は聞こえなかったが、顔を見れば分かる。天川智也はこんな状況でも諦めていない。
その時、国崎の刀を握る手に力がこもった。
(この学園に来てから、いつも智也に守られてきた。もう……守られてばかりはイヤ! 私だって智也の隣で胸を張って闘いたい!)
土を握りこむのも構わず刀を握り、国崎は全身に力を込めていく。
(お願い! まだ私の中に使い切ってない力があるなら智也を守るために使わせて!)
声にならない叫びと共に、彼女の体が眩い輝きを放った。
「な、なんやこの光!」
「目、目が!?」
後方からの光に振り返った女生徒らが、思わず顔を手で覆い光が収まった時には、
「い、いない!?」
先程まで倒れていたはずの国崎の姿が見当たらない。辺りをぐるりと見渡すと、
「り、凜!」
「固いわね……やっぱり術者を倒さないとダメかしら。待っててね智也、今出してあげるから」
銀色の鎧を纏った国崎が、天川の結果を壊そうと数度剣で切りつけたところであった。
「その結界は私たちを倒さないと解除されへん。ちょっと姿が変わったくらいで、まだ二対一、こっちの有利はゆるぎません」
「二対一? 一対一の間違いじゃないかしら」
女生徒が国崎の言葉を聞いて、ハッと隣を向くと既に気絶し、アルマがはがれていた。
「よ、よくもかのかを……その姿はどうしたというんや!」
「そうね、
残された女生徒が怒りに任せて突進し、新たなる力を纏う国崎と交錯したが、決着はその一瞬でついた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます