第37話
「ほら智也、行くわよ。もう昼休み終わるよ」
「ああ、行こうか。今日は待ちに待った日だからな」
午前中にDEFクラスが合同アルマ演習を行っていた日、実はABCの上位クラスの合同アルマ演習も午後に予定されていたのだ。下位クラスの合同アルマ演習は、上位クラスでの実施の際にトラブルが起きないようにとテストの意味合いも兼ねて先に実施されていたのだ。
屋上で昼食を取っていた天川と国崎が、始業五分前のチャイムを聞いて教室へ戻る途中にとある人影とすれ違った。金髪の女生徒に引きずられている男子生徒の顔を見て、二人の動きが止まる。
「そう怒らないでよ鳳上さん、カルシウムが足りていないんじゃないの? あ、牛乳飲む?」
「飲みませんわ! まったく、クラスの主席や次席は演習前に集まるようにと言われてましたでしょう。それなのにサボって寝ているなんて……」
その男子生徒の顔はよく覚えている。一ノ瀬颯真、天川と国崎にとって苦い思い出の多い相手である。
「! ん、あれ……君は、入学試験のときの」
固まっている二人に気づいた一ノ瀬が呟くと、鳳上も足を止めて振り返る。
「お知り合いでして?」
「入学試験の時にちょっとね、まあまあ強かったよ」
服のほこりを払いながら立ち上がる一ノ瀬は、ずいと覗き込むように天川に近づくと、後ずさる天川のことも気にせずに、一ノ瀬は何やら納得するように頷いた。
「うんうん、順当に成長しているみたいだね。今日の演習は少しばかり楽しめそうだ」
その顔は、しばらく退屈していた子供がおもちゃで新しい遊び方を見つけたような笑み。
「そうだ、キミのクラスに彼はいるんだろ。入学試験で僕を邪魔した彼は」
一ノ瀬が話す“彼”とはもちろん光一のことである。一ノ瀬はあの入学試験での決着を付けようとAクラスを探したものの見つからず、アルマの破損具合でB,Cクラスに配属されたのだろうと予測していた。
これまでにあったBクラスとの合同授業では、光一の姿は確認できずそれならば残るCクラスにいるはずと考えての発言だったのだが、
「え? あの人ならAクラスにいるものだと思ってたんだけど……」
「私もてっきりそうだと」
天川らの返答は一ノ瀬の予想とは違っていた。その言葉を聞いて一ノ瀬の顔が固まる。再戦をずっと望んでいた相手と、今日こそ戦えると思っていたのだ。戦えないという事実を知り、固まっているとチャイムが鳴る。
「立ち話をし過ぎましたわ。それでは、本日の合同演習は有意義になるといいですわね」
鳳上がそう言い残して、考え込んだ姿勢で固まる一ノ瀬を引きずって行くのを眺めながら、
「あの人、Aクラスにいないんだ」
「じゃあいったいどこに……」
天川と国崎の頭の中には疑問が残るのであった。
「さて、本日は諸君らが楽しみにしていたであろうABCクラスの合同アルマ演習だ。クラス対抗戦までクラスを跨いでの演習は行わないので、今日ここで足りないものを見つけ出せるような有意義な実践にするように」
笹山の説明を受ける生徒たちの表情は硬い。あと一月もないクラス対抗戦までの日時のなかで、上位クラスでの本格的な戦闘演習。下位クラスなど視界にも入っていない者が多いこの場では、この演習で活躍する者こそクラスの代表ないし、クラス対抗戦での優勝者となるのではないかという意識が蔓延していた。
演習が始まり、生徒たちが森に散らばっていく。DEFクラスの際と違うのは、数人でのチームで動くようなことはあまりなく個人が好きなように動くことが多いというところだろうか。
(上位クラスのプライドというやつかな)
笹山が見つめるモニターには、森にいる生徒たちの位置情報が赤い点で表示されており、それらの点は下位クラスの時よりもバラバラに広がっていく。
上位クラスに所属されたプライドがあるのだろう。自分は力を合わせなくとも、一人でやっていけるだけの力があると盲目的に信じているような無秩序な動き。
(これだとDEFの時みたいに下剋上は期待できないかな)
そんな動き方をすれば、純粋に戦力の高いAクラスが勝利するのは目に見えている。
それでも、笹山の退屈な視線を覚ますことができるとするならば、
(一ノ瀬颯真……入学試験の時はやられたけど、今度は負けない! 俺の
“主人公”そう呼べるような存在の戦闘だろうか。
※
今回、主人公である谷中光一の立ち絵を御影さん(@Mikage_1234)に書いていただけましたので、近況ノートにて記載します。御影さん、本当にありがとうございます。
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