第36話

(一体……今、何が!?)


 東堂は見たのは、聞いたことのないような轟音と共に観撮の体が殴り飛ばされ、後にあった木をへし折りながらようやく止まった光景であった。

 光一の右腕は赤く熱を持ち、多大なエネルギーを持っているのが解析アナシリアスのように分析系統の能力スキルを持たない東堂でも分かる。


「安室の件はすまんかったな、コイツを先に始末しておくべきだった」

「え、いや。守ってくれただけ……こっちこそ感謝するよ」


 小さく息を吐き握った拳から力を抜いた光一は、軽い謝罪を交えながら東堂の前に立つ。

 

「さて、どうする。降参するなら手は出さないが」


 少しだけ緩んだ気配を締めるように光一は告げた。


(ま、当然こうなるよね)


 周辺にいるのは東堂と光一の二人だけ。東堂が背中を向けて逃げたところで、一瞬で追いつかれてしまうだろう。それならば、降参してしまうのも一つの手である。光一の右腕の赤熱は収まっているが、それでも東堂一人で勝てるような状況ではない。


「優しいね。でも、闘うよ。ここで闘いもせずに楽にリタイヤなんて格好悪いじゃないか」

「立派だな。だが、手加減はしないぞ」


 膝枕の姿勢で解放していた安室を優しく地面に降ろし、東堂は腕のキャノン砲を構えて立ち上がる。

勝てないという事実と、先ほどの観撮の光景がリフレインして恐怖が頭の中を巡るが、それでも彼女は逃げない。

 光一は一度解除した集中コンストレイションを再度かけ直して右腕を構えた。限界突破オーバーリミットの副作用で極度の疲労と痛みが襲ってくるが、痛覚を麻痺させて無理やり戦闘を継続する。そうして、二人はぶつかった。









 それから一時間弱ほどの時間が経った。


『これにて合同演出終了だ、まだ生き残っている者は最初の場所に集合するように』


 生徒全員に笹山の通信が入り、ぞろぞろとリタイヤしていなかった生徒たちが集まっていくがその数は少ない。特にFクラスは最後に来た光一を含めても六人しか生き残っていなかった。


「お、光一! 良かった、お前も生き残ってたんだな」

「そっちこそよく生き残ってたな」

「おうよ、毎日特訓したかいがあったな」


 その数少ない生き残りの中には斉藤の姿もあった。辺りを見渡すと、前の方には何故か俯き気味の山崎とこちらに気づいて“フン”と鼻をならして視線を切る谷貝の姿もあった。


「全員集まったようだな。それでは、今回の結果を発表するのでよく聞いてこれからに生かすように」


 E、Fクラスの生徒たちも揃ったようで、笹山が口を開く。


「Dクラス残り十二人、Eクラス残り十五人、Fクラス残り六人」


 結果を聞いて主席らがいないことに不安を抱いていたD、Eクラスの顔に余裕が戻る。明らかにこちらを見下した心象が透けた表情。だが、笹山が次に口を開くと、一転して驚愕の表情に染まった。 


「撃墜数、Dクラス十四人、Eクラス十六人、Fクラス二十八人」


 全体撃墜数の内、半分近くをFクラスが占める異常事態。自力ではトップだと思われていたDクラスが撃墜数でも生存数でも一位を取れないのもそうだが、この結果はFクラスの一部の実力が突出しているということである。


「それでは、放課後までには結果に応じたAPを配布しておく。解散」


 解散の言葉を聞きながら、E、Dクラス達の視線はFクラスに注がれているのであった。 









「あれ、光一は?」

「なんか笹山先生に呼ばれてたわよ、先行っててだって」


 本日の授業も終わり、意気揚々と旧グラウンドに出てきた斎藤であったが、いつもなら早々と準備運動を終えているはずの男の姿はなく疑問に思っていると後から来た山崎がその理由を話してくれた。


「どうしたんだか、補修でも受けてるのか」

「アンタじゃないんだからそんな訳ないでしょ。それより早く用意しちゃいましょ」


 二人でキャッチボールをしていると、ふと斉藤が口を開いた。


「そういえば、何で山崎はFクラスに来たんだ?」

「……どういう意味よ」 


 斉藤からすれば何気なく言った一言。だが、山崎は明らかに動揺したように動きが一瞬止まった。隠していたやましいことを暴かれた子供が、それを誤魔化すように普通を装ってボールを投げ返す。


「いや、なんかFクラスの割に妙にアルマの扱いにも慣れてるからさ、もっと上のクラスでも可笑しくないのになんでかなって思ってさ」

「……アンタには関係ないでしょ」

「もしかして、これ触れちゃダメなやつだったか」


 二人の間に一瞬気まずい沈黙が流れ、いたたまれなくなった斉藤が機嫌を取ろうと冷や汗混じりにボールを投げ返す。


「すまん遅れた。笹山先生に呼び出されてな」

「光一、ナイスタイミングだぜ!」

「……」

「……何にやったんだよお前、なんか怒らしたのか」

「分からん。知らんうちに地雷踏んだかも」


 いたたまれない雰囲気を誰か吹き飛ばしてくれと斉藤が願っていると、遅れてやってきた光一のおかげでとりあえず二人きりという状況は回避した斉藤だったが、それでも残りの時間は気まずい時間を過ごすハメとなってしまうのであった。





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