第16話
撃墜戦、それはアルマにあまり縁がない人間でも一度は聞いたことのある言葉。軍では本格的な模擬戦闘として、あるいはスポーツ競技の一環として、この世界になじんだものの一つ。
「今回のルールは
アルマというものは不思議なもので、どこか一つだけでも
これを利用することで、前時代の格闘技とは格の違う派手な戦闘をしながらも、比較的安全を確保するルールが撃墜戦である。
「なお、三人撃墜した時点での破損数を減点とし、全アルマが解けた場合はリタイヤとさせていただきます。それでは、受験者の皆さんはいくつかグループに分かれて森の中に入った段階から撃墜戦を始めます」
受験者たちは、数人の職員に連れられて森の中に入る。光一が入るグループ内を見渡すも、天川ないし目を見張るような力を持つものはいなかった。
「さて、どうするかね」
森の中で一人光一は呟く。先に入ったであろう受験者の姿は見えない。脚部分のアルマを持たない光一は、大きく機動力で劣る。走る程度しか移動手段しかもたず、その走る速度においてアルマのない彼は速度で大きく劣るため、どうしても待ちの戦法を取らざるを得ない。
そして、待ちという戦法のための餌ならば、既に光一は持っている。
「オラッ!!!! くたばりやがれっ!」
光一の上方から拳を構えた男が一人降りてくる。一歩、後ろに跳んで避けると空振りした拳は地面を凹ます。これがアルマという力、まともに喰らえば右腕しかアルマのない光一は数撃でやられてしまうだろう。
(力だけなら、関田より少し弱いくらいか…………)
そう、純粋なパワーだけなら前に闘った神の従者である関田に少し劣る程度。ただの学生が振るうにしてはあまりにも強大な力、
(だが、
「がッ……」
相手の腕だけでなく、肩にもう片方の足、左腕で顔押さえつけて相手の動きを完全に抑制する。
(久崎流・土固め)
相手は逃げ出そうと暴れるが、いくら力が強かろうと少し前まで中学生。模倣とはいえ、達人の技術に神の従者として魔力強化、そして、
「俺にはやることがあるんでな、こんなところで止まっている訳にはいかないんだよ」
「ひっ…………」
既に心を固めた光一にとって敵ではない。
ズガン! と、あたりの木々が揺れる程の右正拳の打ち下ろしが相手の顔面に突き刺さり、気絶と共に全てのアルマが耐久力をゼロにして解除された。
「あと二人」
倒れた男を背に、光一は歩き出す。このルールにおいて、彼の見た目はアルマを一つしか持たない格好のカモ。そんな気持ちでかかってきてくれれば、先ほどの男のように一気に崩して倒せるはずだ。
「……誰だ」
しばらく歩いたところで、光一はそう呟く。
「あらら、気づかれちゃった」
「気配を消すのはまあまあ上手いようだが、まだまだだな」
看過された男は、軽薄そうに笑いながら光一に前に現れた。光一がいきなり襲い掛からなかったのは、目の前の男から敵意ないし闘う気が感じられなかったのが不思議だったからだ。
「俺は萩野啓太っていうモンさ、アンタ随分強いじゃないか。さっきの見てたぜ」
萩野と名乗る男はアルマを両足しか
「俺もアンタと同じ出来損ないでね。そこでだ、一緒に組まないか」
その誘いは、基本的に受けるメリットの方が大きく聞こえる。このルールで組める人物がいるというのは有利に働くのだが、
「断る。初対面から嘘をつく奴と手を組む気はないな」
「う、嘘だって……冗談キツイなぁ、嘘なんて……」
「お前、ホントは
「!」
萩野の言い訳を遮るように、光一は断言する。まさかここまで早く看過されるとは思っていなかったようで、一瞬とはいえ動揺で歪んだ顔は光一の指摘を言葉以上に肯定していた。
「そこまで自由に
本来、萩野は全身の
常人なら特に気にすることもないのだが、
「だ、だけど。俺が戦闘で足以外のアルマを壊された可能性だって…………」
「それにしては戦闘の汚れも、疲れもないし、もっと言うならその動揺が答え合わせみたいなもんだぞ」
最後の言い訳も突っぱねられ、萩野は沈黙してしまう。それをわざわざ待つ義理もなく、ただ光一を利用しようとしていた者を見逃す道理もない。
光一は拳を構えて一気に距離を詰める。先ほどの戦闘で、魔力強化と右腕のアルマを合わせれば、ほぼほぼ一撃必殺の威力を発揮するのは確認済みだ。だが、
「!?」
「そこまで言われちゃここは引き下がるとするよ。でも、俺の名前ぐらいは憶えていてくれよ、右腕クン」
萩野は拳が当たる前に消えた。声の方向に顔を向けると、彼は木の上に居た。まるで瞬間移動だと光一があたりをつけた時には、瞬間移動をしたようで萩野の姿はどこかに消えてしまった。
「なるほど、中々骨のある奴もいるみたいだな」
ただの力押しでは倒せない、そんな強さをもった奴がいる。その事を再認識した光一は、そう呟いてその場を後にするのであった。
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