第14話

 リースも消え、一人残された光一は行動を開始する。対象ターゲットの名は天川智也、まずは彼と接触ないし今どこにいるのかくらいは把握しておきたい。とりあえず部屋を漁ってみると、妙に多い参考書と高校の受験票が見つかる。どうやらこちらの自分は受験生だったらしい。


(ふむ、天川智也の捜索もしたいが、まずはこの世界の俺がどんな人物だったのかも調べた方が良さそうだな)


 馬鹿正直に他の世界から来ましたと言ったところで、信じる人間はいないだろう。それどころか、記憶喪失や心神喪失などを疑われれば、天川の捜索に支障をきたす。そのためにも、光一はこの世界の自分を演じる必要がある。

 高校受験などという大きなイベントを逃すのは、こちらの世界にもいるであろう両親などから怪しまれるのを避けるためにも遠慮したいところだ。そう思ったところで、光一の目にある文字が止まった。


「なんだ、これ…………アルマ学?」


 普通、受験票には受ける科目が書いてあるものだが、そこに記されていたのは見慣れた国数英理社の五科目とアルマ学という見慣れぬ教科。恐らくこの世界ないしこの高校特有の科目なのだろうが、今は情報が少なすぎる。


(せめてネットが使えれば…………)

 

 そんなことを考えながら捜索を続けていると、


「これは、携帯か?」


 スマホが普及した今では、殆ど見ることが無くなった二つ折り式携帯電話。通称ガラケーのようなものが机の引き出しに入っていた。これが有れば、アルマ学について、さらには天川智也についても情報を得ることができるかもしれない。開いてみると、キーボードなどは記憶にあるガラケーと同じものだったが、


「うおっ!」


 それを開いた途端、携帯から光が放出されて光一は目を閉じてしまう。 目を開けた時に光一の眼前に広がっていたのは、光により形作られたディスプレイが二、三個空中に浮かんでいる光景だった。

 急に起きたSFチックな出来事に戸惑っていると、『何をしますか』と空中に浮かぶディスプレイにその文字が浮かび上がると同時に、光一のもつ機械本体にも入力ボタンが浮かび上がる。光一はすぐさまアルマ学の検索と入力する。すると様々な説明が浮かび上がり、要約すると。


 ・アルマ学とは、かつてオカルトと科学が偶然融合してできた技術、アルマを学び、使う学業である。

 ・そのアルマ学で有名な高校、アルマトゥーラ高校がこちらの世界の谷中光一が受けるはずだった高校である。


 そう口にすると、携帯がその音声を読み取りその疑問の答を表示する。


 『明日です』


 その表示を見るとともに、光一の視線はゆっくりと時計へと動く。時計は午後十二時三分前を指していた。


「………まじかよ」


 この携帯、音声入力も出来るのかよ、という思いも直ぐに消え去るほどの事実に、光一の口からはそんな声しか出なかった。


  谷中光一、二度目の高校受験。準備期間一日での挑戦をすることが決定した瞬間である。



(やはり、ここはもう俺の知っている世界ではないみたいだな)


 光一は、試験会場へと向かうモノレール内からの景色を見て、まるで近未来映画だど思いながらそう思いをはせる。あのあと調べてみると、この世界の自分は都内で人一人暮らしをしているようであった。知らない親を誤魔化すのが一番大変だと考えていたので、それはありがたかったのだが、それでも少しばかり思うところはある。

 そんな事を考えているとモノレールが目的地の駅で停止し、光一は同じく受験する生徒達の波に呑まれるように試験会場へと向かう。


 試験会場では数百人は入れるのではないかという大教室で、光一も既に半分ほど埋まった席に着いて、最後の復習をする。


「後五分で開始します。受験者は準備をしてください」


 そう試験監督が言いながら会場のドアを閉めようとしたしたその時。


「ちょっとまったー!」


 一人の男子生徒が駆け込んでくると、試験監督から軽い注意を受けて自身の席へと座る。光一はその声に気づかないほど集中して教科書を読んでいたが、その男子生徒が自身の前を通った際に視界にその顔が映った。


(こいつ…………)


 それだけで、集中コンストレイションが危うく解けてしまうほど心が揺れた。その顔、雰囲気。まるでただの一般人であるようで、その奥に圧倒的な力を秘めた存在。“主人公”、天川智也であると確信を得た。が、


「それでは試験を始めます。受験者は準備をしてください」


 その思考は試験に遮られてしまうのであった。

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