第7話 歴史と科学

 当時の政治情勢を考えてみれば、別の意味合いのことも見えてきていた。

 片方が滅ぼされたのであれば、勝利した側が正しいというのは、昔から言われてきていることであり、それが、いかに決まったこととして歴史につぐまれてくるのか、本当に、歴史は、答えを出してくれるというのか、今まで長年言われてきたことが、最近の研究は発掘から、まったく別の発想が出てくるもは、実に面白いことである。

 それこそ、今が、

「歴史の答えなのかも知れない」

 といえるが、本当にそうなのだろうか?

 怪しいところである。

 そんな中において、乙巳の変にいたるまでの歴史、いわゆる時代背景はというと、きっと厩戸皇子の時代までさかのぼることになるだろう。

 その時代において、厩戸皇子は、推古天皇の摂政となって、政治を見ていた。

 そもそも、推古天皇というのは、当時から権勢をふるっていた、蘇我氏最勢力の、蘇我馬子の時代だった。入鹿からすれば、おじいさんに当たる。

 その時の厩戸皇子の政策は、まず、仏教を積極的に受け入れ、そして、朝鮮半島にあった、百済、新羅、高句麗と、対等外交と行ってきた。

 どこの国に贔屓することはないという意味である。

 さらに、有名な、

「憲法17条」

 であったり、

「冠位十二階」

 などというものを作って、朝廷内においての中央集権を考えていたのだった。

 だが、実際にはそれがうまくいかず、蘇我氏が最大勢力として君臨していく中で、入鹿の権勢へのやっかみと、入鹿が、厩戸皇子の息子である。山背大兄王を滅ぼしたことによって、中大兄皇子の身が危険になったことで、中臣鎌足が中大兄皇子に近づいて、クーデターを画策するようになったのが実情だった。

 中臣鎌足の本音は、嫉妬が一番であっただろうが、それ以外に、蘇我氏が、日本古来の国教を無視して、外来の仏教を推し進めることへの反感もあったという。

 さらに、朝鮮半島に対しての外交にも不満があったようなのだが、少なくとも、

「嫉妬から」

 という意見も、今では有力になっているようだった。

 実際に、乙巳の変が成功し、そこから、

「大化の改新」

 が始まることにあるのだが、ここも、少しきな臭いものがあった。

 蘇我氏が、敵対勢力を、策謀を持って滅ぼしていき、勢力を拡大させていったのと同じように、大化の改新の一派も、同じようなことを繰り返していった。

 有間皇子などのように、陰謀のために、殺された人も結構いたことだろう。

「クーデターというものは、そういうものだ」

 と言われればそうなのだが、答えを出してくれるはずの歴史がこのような体たらくでは、本当に乙巳の変や、大化の改新が成功だったと言えるのだろうか。

 何と言っても、それからの朝廷は、ドタバタ劇が続いた。

「百済が新羅に滅ぼされそうになっているので、援軍を」

 ということで、百済からの使者に対して、日本は、兵を送り、新羅に対したが、高句麗との連合軍の前に、滅ぼされてしまった。

 いくら、百済から援軍要請があったからといって、朝鮮半島という勢力が及んでいない国に兵を送るのだから、どれだけ傲慢だったのかということである。

 しかも、送った兵は大敗を喫し、今度は、新羅、高句麗からいつ攻められるか分からないという状態になってきたのだった。

 そこで、都を当時あった、難波から、筑紫に遷都し、そこで、半島からの進軍に備えるという形を取ったのだが、実際には、兵が来ることもなく、また難波に都を戻した。

 だが、それからは、30年くらいの間に、遷都の荒しだった。

 難波から、飛鳥に写したり、いかるがに都を置いたり、信楽に置いたりもした。結局は、大津に都を構えることで、そこで、やっと中大兄皇子が、皇太子の身分から、天皇に即位することになった。

「天智天皇」

 の誕生である。

 だが、なかなか即位しなかったのは計算で、皇太子の身分の方が、身動きがとりやすいというものだった。

 だが、考えてみれば、大化の改新によって、一番推し進めたいと思っていた、

「律令制度の確立」

 と、

「中央集権国家への道のり」

 というものは、ほとんど成功しなかったといってもいい。

 しかも天智天皇は、自分の息子可愛さに、死んでもそのしこりを残してしまったために、

 これも、古代最大の内乱と言われた、

「壬申の乱」

 を引き起こすことになった。

「歴史は繰り返す」

 と言われるが、

 先代が、皇位継承者を自分のわがままで決めたりすると、そのしこりは後の時代に必ず残るということは、歴史が証明している。

 それは、

「保元平治の乱」

 であったり、

 日野富子が自分の息子可愛さに、起こしたクーデターが、京都の街を焼け野原にするという、

「応仁の乱」

 を引き起こしたり、

 秀吉が、自分の息子が生まれたことで、先に決めていた後継者を何とかしないといけないと画策した、

「秀次事件」

 しかりであった。

 秀吉はこの頃から、完全におかしくなっていった。朝鮮出兵であったり、秀頼可愛さから、誹謗中傷をした人間を特定できなかった部下を皆殺しにしてみたり、千利休に切腹を命じたりと、常軌を逸した行動に出ていたのである。

 つまり、歴史の舞台、しかも、それが皇位継承問題と、人情が絡んでくると、ロクなことにならないというのが、

「歴史の出した答えだ」

 といえるのではないだろうか?

 実際に、

「歴史は繰り返す」

 という意味で、

「もし、ここでクーデターが起きなければ、時代は百年先に進んでいた」

 と言われることがいくつかあるらしい。

 つまり、そのクーデターのおかげで、歴史は100年さかのぼったというわけである。

 その一つが、古代医おける

「乙巳の変」

 であろ、あとの二つはそれぞれ、中世と近世に別れていて、それぞれに、

「時代の転換点だ」

 といえるだろう

 乙巳の変でも確かにここが時代の分岐点であることに変わりはない。後の二つというのは、

「平家の滅亡」

 と、

「坂本龍馬暗殺」

 だったと言われている。

 この三つの共通項であるが、これは、

「対外的に、100年時代を逆行してしまった」

 ということである。

 乙巳の変では、百済に味方して、朝鮮半島に睨まれてしまったこと。

 そして、平家の滅亡というのは、平清盛という人物は、海洋民族といってもよく、瀬戸内海の治安を守ることで台頭してきた民族である。

 当然、当時の中国王朝である、

「宋」

 との間で貿易を進めていて、平家が亡んでしっまったことで、源氏が武家の社会を今言われている形で形成されることになった。

 つまり、いわゆる、

「封建制度」

 である。

 封建制度というのは、武家と、その暮らしを支える土地というものを守るために、行う政治であり、海外に対しては基本的に、意識するものではなかった。

 そういう意味で、時代が百年さかのぼったというのも、無理もない話だったのである。

 さて、今度は、幕末の坂本龍馬暗殺に関しては、歴史好きの人であれば、大体は分かっていることだろう。最初は、攘夷派だった坂本龍馬だったが、海外の実力を目の当たりにすることで、

「このままでは、攘夷などできるはずはない」

 ということになり、

「天皇を中心とした中央集権国家を築き、海外と平等に渡り合うようにするためには、幕府を倒さなければならない」

 という、

「尊王攘夷」

 の考え方にシフトしていったのだ。

 しかも彼は、西洋を研究し、日本で最初の株式会社である、

「亀山社中」

 を作ったり、最初の新婚旅行に出かけたり、さらには、明治政府の五か条のご誓文と呼ばれるものの基礎になる、

「船中八策」

 なるものを考案したりした。

 そして、最悪に仲が悪かった薩摩と長州を、同じ体制を志す同志として、一つにまとめた功労はすごいものだった。

 しかし、そんな竜馬を胡散臭く思っていた連中が山ほどいた京都にて、彼は志半ばで暗殺されてしまった。これは暗殺という意味では同じである、

「本能寺の変」

 と似たところがあるのではないだろうか?

 それを思うと、

「確かに歴史というのが、答えを出してくれるという考え方は、間違ってはいないのかも知れない」

 と感じるのだった。

 そう、

「歴史は繰り返す」

 のである。

 そんな歴史の中の、

「もしも」

 というものの存在を考えた時、ここで出てくるのが、前述の、

「パラレルワールド」

 であったり、

「マルチバース理論」

 であったりする。

 パラレルワールドという言葉はよく聞くことがある。

 世の中には、次の瞬間に、無数の可能性があるということで、その数だけ本当に世界が広がっているという考え方で、さらに次の瞬間には、そこから先に無限に広がっているということにある。

「無限大の無限大乗」

 といっていいのだろうか?

 そんな可能性を考えていくと、頭が混乱してくる。

 もっといえば、

「ここでいう瞬間というのは、どの瞬間なのだろう?」

 と考えるのだ。

 単位で言えば、一秒なのか、それとも、一秒の一万分の一なのかということになる。

 そうなると単位ではなく、感覚的な瞬間ということになればどうだろう?

 今度は、そうなると、

「一人一人によって、その瞬間という長さが違うのではないか?」

 という発想になると、また頭が混乱してくる。

 それぞれの人間で瞬間が違うとなると、人とのかかわりもありえないということにある。

「その違いこそが、パラレルなんだ」

 と言われれば、そんな気もするが、やはり頭が混乱してきて、どうしようもないといってもいいだろう?

 パラレルワールドというものを考えた時のキーワードとしては、無限という言葉と、この場合の瞬間という言葉を対にして考えないといけないものなのではないかと、桜沢は考えた。

「では、マルチバースというのは、どういうものなのだろう?」

 マルチバースというのは、今まで、

「宇宙は一つだ」

 と考えていたものが、実は、もっとたくさん似たような宇宙が、自分たちの宇宙の外に広がっているのではないか?」

 という考え方である。

 宗教の中で、

「死後の世界」

 というものが存在していると考えられているが、これも少し昔から、

「死後の世界」

 というのは、どこか宇宙の果てに存在しているという考え方があったというのを聞いたことがあった。

 それが、ここでいう、

「マルチバース理論」

 というものではないだろうか?

 さらに、前述のパラレルワールドと組み合わせると、宇宙だと思っていた一つの宇宙は、またさらに無限なほどに広がっていると考えられる。

 たくさんの宇宙が広がっていて、たくさんの可能性がある中で、実際に目の前にいる人間との出会いを考えると、実に偶然がいくつも、それこそ無限に重なっての出会いだということになる。

 そうなると、

「神がいるのではないか?」「

 という考えに到達し、神の存在を度返しして考えると、この

「マルチバース理論」

 というものの存在を認めなければ、説明がつかなくなる。

「マルチバース理論の証明は、マルチバース理論でしか説明できなくなり、やはり、マルチバース理論は確かに都合のいい考えであるが、必要不可欠な考え方なのではないだろうか?」

 といえるであろう。

 そんなマルチバース理論で歴史などを考えていくと、これはもちろんありえないことであるが、

「歴史をさかのぼる」

 あるいは、

「歴史は変えられる」

 などという発想が可能になってくるわけだ。

 可能性のかずだけ、パラレルワールドが存在しているという考えになれば、どちらに行くかはその人それぞれではないだろうか?

 今までの発想は、

「世界や宇宙が一つ」

 だということだったわけなので、

「歴史という道は、一本しかなかった」

 というわけである。

 しかし。人それぞれで心境が変わるわけだ。前の瞬間で違う選択をしていれば、別の世界が広がるといえよう。

 この考えがなかった今までの、

「世界は一つ」

 という理論で考えるから、タイムパラドックスなどという発想が生まれ、

「タイムマシンを作ることは、理論的に不可能だ」

 ということになるのだろう。

 つまり、一つ言えることは、タイムマシンの欠点は、

「過去に行って、過去を変えてしまうと未来が変わってしまうので、戻ってきた世界が変わってしまっている」

 ということになるだろう。

 そう考えると、この問題は浦島太郎の話にも影響してくる。

 浦島太郎が戻ってくると、数百年後の世界だったということで、すぐに発想は、

「アインシュタインの相対性理論」

 の、

「光速で動けば、それだけ、その時間は、ゆっくりになるという発想」

 が、浦島太郎の話に即行で結びついてくるので、却って発想が浮かんでこないのだが、

「これは、タイムパラドックスの発想になるのではないか?」

 といえるだろう。

 つまり、

「宇宙は一つ」

 という概念で考えるから、浦島太郎の未来は変わってしまった。つまり、竜宮城に行くということ自体が、まるで、

「過去に行って、未来を変える」

 というような発想に近いものだったのではないかと考えると恐ろしい。

 相対性理論の話なのか、それともタイムパラドックスの話なのか、どちらにしても、現代においても、いまだに研究が続けられているような話を、古代の人が考えたということだろう。

 どちらにしても、この話の謎を解くカギが、今研究されている、

「パラレルワールド」

 であったり、

「マルチバース理論」

 の考え方だと思うと、実に興味深いことであろう。

 マルチバース理論を考えることで、今まで解明できなかったことを、一つ一つ考えていけば、解明されることもあるのではないだろうか?

 歴史は一つなどではなく、人間一人一人に存在するものであって、一人だけが辻褄が合って、他の人は、

「その世界では主人公のために生きている」

 ということになると考えれば、他の世界では、他の人が主人公で、自分と同じ人間が、その人のために生きている世界があるのかも知れない。

 そうなると、

「自分がいる世界は、自分だけのもので、後の人間は、まやかしに違いない」

 などと考えると、

「カプグラ症候群」

 なども、説明がつくのかも知れない。

「まわりの人は皆、悪の組織によって、替え玉とすり替わっている」

 という発想だが、マルチバースで考えれば、自分以外の人間は、その他大勢なのだから、その感覚もまんざらウソともいえないだろう。

 つまり、マルチバースやパラレルワールドを証明できれば、他のたいていのことは、

「マルチバースだから」

 ということで、解決するようになるのかも知れない。

 そんな発想をしていると、歴史と科学という奇妙な関係も、

「ありなのではないか?」

 と考える。

 むしろ、その二つは、

「時間」

 というキーワードで結びついているではないか。

「キーワードが一つでは薄すぎないか?」

 と言われるかも知れないが、

「これで十分なんじゃないか? 時間が次元や無限性などというものを生み出し、そこから時系列も信憑性に切り込んでいく考え方。理路整然としていれば、そこに、何ら無理があるというのか?」

 と桜沢は考えている。

 歴史というものが持つ意味であったり、パラレルワールドの可能性は、昔から言われてきたが、最近は、理論物理学でも、その考え方の照明が図られているという。

 つまり、そのパラレルワールドの照明がなされれば、そこから、マルチバース理論の究明も可能になるかも知れない。

 ただ、まだ、パラレルワールドに関して分かっていないのだから、底から先はあくまでも、可能性の問題だ。

 しかし、視点を変えると、マルチバース理論の方が、今の自分たちの考え方に、近い者があるかも知れない。ただ、これも、あくまでもパラレルワールドが存在するという前提のもとに始まっているものであるから、やはりカギを握るのは、パラレルワールドの解明ではないだろうか?

 マルチバース理論が証明されれば、そこから歴史を見ていくという新しい見方も出てくるだろう。

「将来において、今の自分たちが正しかったのかどうか、歴史が必ず答えを出してくれる」

 というセリフを、ある事件を題材にした映画を見た時、青年将校が言っていたのを、覚えている。

 これは、かなり昔にあった映画を有料放送で見たのがきっかけだったのだが、桜沢が、明治後半から、大東亜戦争終了までの間の、いわゆる、

「大日本帝国時代」

 も歴史に興味を持ったのは、この映画も一つの大きな影響だったことは間違いない。

 ただ、この事件に関しては、今のところ、

「歴史による答えは出されていないのではないだろうか?」

 というものであった。

 この事件をきっかけに、軍部が政府と隔離する形で、独断専行が目立ってきた。

 それは、当時の大日本憲法に定められたように、

「天皇の統帥権」

 という。

 つまりは、軍部というものは、

「天皇直轄に存在している」

 ということなのだ。

 つまり、軍部に関することは、すべて、天皇の許可がいるということであり、逆にいえば、天皇の許可さえあれば、政府は、いくら総理大臣であったとしても、その拘束力は存在しないのだ。

 今の、ソーリのような情けなさと違って、当時の総理大臣には、もう少し力があったような気がするが、それでも、軍部には口を出せないのだ。

 それがいい面にも悪い面にも結び付いてくる。

 つまり、陸軍でいえば、陸軍三長官と呼ばれるうちの二つにあたる、

「参謀総長と、陸軍大臣を兼任することはできない」

 ということである。

 憲法で明文化されているわけではないが、それだけ、軍部の一人に権力が集中することになるからだった。

 参謀総長というのは、本当の群のトップであり、有事の際の作戦の立案、そして、立案に対しての決定権、さらには、予算の問題など、すべての決定権は参謀総長にあり、それを天皇に上奏するという形になるのだ。

 しかし、陸軍大臣というのは、あくまでも大臣であり、政府の役人であった。

 政府と軍部は独立しているという観点から、陸軍大臣といえど、参謀総長の意見に従わなければいけない。

 つまり、戦争を始めたのは、政府であっても、政府には戦争継続のための権限は一切ないのだ。

 さらに、作戦などの最高機密を、政府が分かるはずもなく、開戦時、首相と陸軍大臣を兼任していた東条英機であっても、軍の作戦や今後の見通しはまったく分からなかったおである。

 あくまでも、有事になれば、臨時で作られる大本営が、軍のすべてであり、政府もそれに逆らうことはできない。

 それが、大日本帝国における、国難を打開するために始めた戦争を、致命的にならしめた一番の原因だったのかも知れない。

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