これは夢。きっと夢。

ふゆ

第1話 踏切

あの踏切にお化けが出ると言い出したのは豪。


そんな話知らないって耳をふさいだのは私。


行ってみようかって切り出したのは豪。


いやだって半べそかいたのは私。


大丈夫って涙を拭いたのは豪。


明日1限から授業だよって抵抗したのは私。


終電の前に行けば明日起きれるっていたずらっ子みたく笑ったのは豪。


その笑顔好き。って思ったのは私。


ずっと手をつないでるから大丈夫って言ったのは豪。


手のぬくもりに思わずほっとしたのは私。


私の手を引いて子供のように笑っていたのは豪。


いつしか、はしゃいでいたのは私…









二人は例の踏切にやってきた。

踏切の周りは街灯がポツポツあるだけで薄暗かった。



ねぇ、マジで暗いね。


あぁ。


この踏切あんまり通る機会ないよね。

昼間も遠回りして向こう側行くもんね。


うん、この道狭いしな。


やっぱ、不気味。たしか、人身事故あったよね、去年だっけ?


知らねー。


ねぇ、やっぱ、怖い。


そう言って豪の腕に手を回した。


そういえば、赤い顔の女の人らしいよ。みーちゃんが言ってた。



いつしか豪の口数が減っていた。



ねぇ、ちょっと寒くなってきた気がしない?



やっぱ、もう無理!

電車が通ったらすぐ帰ろ。

そうだ、あそこのコンビニでビール買って帰ろ。





カンカンカンカン…











出会って4年

付き合って3年

将来について意識し始めて半年。

デートは減った。

スキンシップも減った。

それでもこうして、たまに近所に連れ出してくれるのが嬉しかった。

だから私は、はしゃいでた。

豪が無口になってることにも気づかなかった。


遮断機がおりはじめ

私は豪を見上げる。

踏切のライトに照らされ

豪の横顔は赤かった。

私はこの横顔が好きだった。

きっと私も同じ色をしているんだろう。



豪と目が合う。

私は微笑んだ。




うわぁぁぁぁぁぁぁ!



豪は大声をあげ尻餅をついた。


キャッ!なに?豪?どうしたの?


彼女の腕を振りほどき、豪は耳を塞ぎ、

地面にうずくまった。


ごめん、ごめん、ごめん。


通過する電車の音にかき消されてしまうくらいの呟きだった。


豪、何?


私は豪に駆け寄ろうとした。


ごめん、もう勘弁してくれ!えみ!!


豪は泣き叫んでいた。


私が豪に手を伸ばそうとした矢先

目の前を女が横切って豪の顔を覗き込んで言った。


豪、どうしたの?えみって誰?豪?




私は呆然と二人を見つめていた。

ねぇ、豪、その女は誰?




そうか…

そうだった。


遮断機が降り始めた時だ。

豪の横顔を愛おしいと思った直後だった。

私は豪に突き飛ばされたのだ。





そしてあの日から

私は待っていたんだ。

ずっとここで。




予感はしていた。

増えていった飲み会

連絡がつかない夜。

見覚えのない、キャラクターグッズ。

今、その女がつけているキーホルダーと同じ。

手放さなくなったスマホ。

変えられていたパスワード。

消されたカーナビの履歴。




でも、いいよ。

今回も許してあげる。

私だけって言ったよね?

ずっと一緒って言ったよね?

その女は寄り道だよね。

私のところに戻ってくるんだよね…






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