秘密にしてるって訳じゃないけれど

こころもち

遊園地デート

ベランダで、夜空と街灯りを見ながら、私はスマホ越しに想いを馳せています。

「うん、明日は楽しみにしてるね。うん、おやすみなさい」//SE通話を切る


ガラガラガラ//SEべランダの掃き出し窓を閉める音


「荷物は出来てるし、アレは冷蔵庫」


「明日の準備はいいわね」


「目覚ましもセットOK」


「よ~し明日は寝坊しないぞぅ」//布団に入る


私は明日、好きな人と初めて遊園地へ行きます。

そう、遊園地デートなのです。

遅刻は厳禁。

早く寝ないといけないから、スマホは触らず、目を閉じて。




「う~~ん」


「う~~~ん」//SE寝返りをうつ


「う~~~~~~ん」


「・・・寝れないよぅ」


「・・・・・」//SEスマホを操作する音


(明日の天気は・・・気温は・・・)

(明日も暑くなりそう)


(遊園地 オススメ 順序 検索)

(ふ~ん最初はジェットコースターかぁ)


(そろそろ寝ないと)


(youtube 羊を数える 検索)


//SE羊を数える動画の音






//布団から飛び起きる

「今いくじ!?」


時計を見て慌てた私は身支度を急いだ。


「目覚まし鳴ってたらぁ?何で起こしてくれんかったで」


「もう、こんな髪ボサボサでみぐさいらー」//SEドライヤーの音


「そのままでいい訳ないじゃんけー」


//SE廊下をドタドタと通る音


「荷物、スマホ、財布・・・あっアレを忘れてた」


//SE廊下をドタドタと通る音


「え~と・・・よし、できた」


「行ってきま~す」


荷物を持って玄関を飛び出た私は駅へ向かって走り出したのです。


「はっ・・・はっ・・・」


「もう、楽しみにしてて寝れんかったから寝坊したなんて言えんじゃん」


羊を300位まで覚えてるのよ。


//SE駅のホームの音

電車で待ち合わせ場所まで向かっているのに、ちょっと外に出て、ちょっと走っただけで汗がすごいんですけど。


//SE電車の音


ハンカチとは別にフェイスタオルも持ってきてあるけど、早速使う羽目になりそう。

制汗スプレーもして来たけど


(待ち合わせ場所に行く前にもう一度かけとこうかな)

//SE駅のホームの音


電車を降りて人混みをすり抜けながら待ち合わせ場所に駆けて行く私は、普段は気にする距離ではないのに気が焦っている事もあってかすぐに息が上がってしまったのです。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

「はぁぁ、えらい」


私は深く息を整えて待ち合わせ場所で彼の姿を探しました。


「遅刻すると思って走って来たけど、先に着いちゃったのかな」


「見た目、変じゃないよね?」


右、左と体をひねっては自分の服装を確認していると、目の端から彼が映り込みました。


「あっ来た。お~い」//手を振る


遅れてごめんねと言ってきたので


「ううん、私もちょうど今来たところ」


遅刻はせずに済んだけど、彼の顔にも、すでに汗が数滴見えました。


「晴れて良かったけど、暑くなりそうだね」


このままバスが来るのを待っていると二人共、デート早々に汗だくになってしまうじゃんかぁと思った矢先に。


//SEバスが到着した音

「バスも丁度来たよ」//バスに乗り込む


エアコンが効いているバス内で二人の汗も引いたから、とても快適です。


「えっ寝坊した!?」


「時間に間に合ってたから大丈夫だよ」


彼は寝坊した事を謝ってきたけど、私も似たようなものだから。


「あなたも楽しみにしてたとか?」


楽しみで寝られなかったって照れながら言ってきたの。


「寝られなかったんだ。えへへへ、私も楽しみにしてたんだよ」


その所為か、とても眠そうな顔で。


「大きなアクビだね。着くまで少しかかるから、寝てていいよ。起こしてあげる」


彼は、じゃぁちょっとだけ と申し訳なさそうに目を閉じて背もたれに寄り掛かりました。


(うらと一緒かぁ、えへへへへ)


今の私は緩んだ顔をしてるんだろうなぁ。


//SEバスが到着した音

「・・・ん・・!!ふぁ~~~着いたよ。起きて」//あくびをしながら


結局私も寝ていました。


「忘れ物ない?」


「足元気を付けてよ?」


彼に言ってる様で自分に言い聞かせるように。


「よっ!!到着っと」


「ん~~~」//伸びをする


「わぁ、遊園地なんて久しぶり」


目の前に大きな入場ゲートが出迎えてくれました。

あくびをしながらバスを降りてくる彼に向かって。


「まずはチケット買わなきゃだね」


売り場に向かう私達。彼はスマホを出して大丈夫と自信気に。


「むぉ?もうネットで買ってあるの?さすがだね」


すんなり入場できちゃった。


「ねぇ、最初はどれにする?」


寝る前に調べたおすすめ順序では。


「ジェットコースター」


彼と被った。


「それじゃぁ・・・ここだね。行こ」//案内表を指さす


ジェットコースターに向かいながら他のアトラクションを見て周っているのだけど。


「どのアトラクションもすごい列」


遊園地に行き慣れているんだろうか?迷いなく走って行く人達と私達みたいに歩いている人達が解りやすいように分かれています。


「ここが最後尾みたい、すごい待ち時間だけど、どこも同じ(おんなじ)だよね」


ゆっくり選んで遊ぼうなんてレベルじゃない事は見た感じで理解してます。

どんどん並んで行かなきゃ。

「じゃ並ぼうか」


「日陰になってるから大丈夫だと思うけど、お茶持ってきたから、飲みたかったら言ってね」


日向に陽炎がユラユラと揺らめいているんだもの。


「この暑さで水分補給無しで待ってたらとんでもない事になるから」


彼が荷物から何かを取り出し始めました。


「あっ首に巻く冷たいやつだ。用意が良いね」


「えっ私の分もあるの?ありがとう」


「つべた」


首回りが冷えて心地良いんです。


「これ良いね」


「へぇ~水で濡らせば冷たさが持続するんだぁ」


「よ~し今の内に周る順番を決めておこうかな」


「うん?もちろんその時によって変わるけど、予定考えるだけでも楽しくない?」


「時間はある訳だし、リクエストもしてよね」


談笑して気にしなかったけど、思ったより列の進みが速くて。


「いつの間にか入り口まで来てたわね」


「あっ身長は大丈夫?足りる?(笑)」


何cm以下は乗れませんっていう標識を指さして、彼に振ると


「あははは私も余裕」


「頭がスッキリしてきた?移動中に寝て正解だったね。実は私も寝不足でバスの中で寝ちゃってたよ。直通バスじゃなかったら寝過ごしてたね(笑)」


建物内に入ったら、ブザー音と係りの人の声が最初は小さく、列が進むたびに段々と大きく聞こえてきました。


「もう少しだね、荷物はここのコインロッカーで良いのかな?ちょっと入れてくるね」


「もう屋内だから首に巻いてるやつも一緒に入れてきちゃうよ?」


「私だと落としそうだから鍵を持っててくれる?」


「ありがとう」


通路際に置いてあるコインロッカーに彼の荷物も預かって一緒に入れて戻った私は

鍵を彼に託しました。


「やった、一番前だ」


//SEジェットコースターの始まった音

「いよいよだね」//ワクワクした声で


ガタンガタンガタン//SEジェットコースターが登っている音


「ねぇ見て、遊園地が一望できるよ」


「?・・・ぅえ!?」//隣の彼を二度見


最初のゆっくりした時間に彼と話をしようとしたら顔が険しかったんです。


「大丈夫?もしかしてジェットコースター苦手なの?」


「ちょっとだけって...」


なぜ先に言わないの?到着してジェットコースターに行こうって被ったよね?少しでも緊張を和らげる為に私は前を指さして。


「ほらっ、下じゃなくて遠くの景色を見て」


「落ち着いた?」


「次は私みたいに楽しんでみて、いくよ」


目の前のレールが見えなくなってるんだから。もう、強引に行くしかないじゃないの。


ガーーーー//SEジェットコースターが滑り落ちる音


「キャアーーー」

「アーハハハハハ」

「ワーーー」


//SEジェットコースターの終わった音

「はぁ楽しかったぁ」


「・・・大丈夫?」


ジェットコースターから降りるのにちょっとフラついている彼。


「荷物持ってくるから鍵くれる?」


荷物を持って彼と次のアトラクションへ向かいながら


「ジェットコースター苦手だったんだね」


ちょっと苦手だけど、久しぶりだとあんなに強張るとは思わなかったって。


「でも楽しかった?それは良かったわ」


アトラクションに向かうつもりだったけど。絶叫系は苦手そうだし。


「ちょっと早いけど混雑する前にお昼にしちゃおうか」


「あっここが空いてる」


一つづつ休みながらで良いよね?


「私が注文してくるよ。あなたは何を食べる?」


「OK 行ってくるね」


早めに来たつもりだったけど、似たような考えはあるようで、少しづつお客さんが増えてきたのをカウンター前で並びながら賑やかになってきた事でそう感じました。


「はい、鳴ったら一緒に持ちに行こう」


番号の付いた呼びブザーをテーブルに置いて。


「この後どうしようか?」


テーブルに肘を付き、前のめりになって彼に詰め寄る私は


「暑くなってきてるし、乗り物に乗って遊園地一周でもする?汽車があるんだって」


って提案したら、涼しい所に行きたいって


「涼しい所があるの?どこ?」


案内図を広げた途端に


ピピピピピ//SEブザーが鳴る


「早っ!!」


「できたみたい、行こ」




「フードコートだといつもラーメンを食べてるよね(笑)」


「気付いてなかった?」


「買い物行った時のお昼とか」


「私も!?」


「ハンバーガーばかり?」


「だって好きなんだもん」


お互い様だねって笑い合いました。


「ごちそうさまでした」


席を開けて、食器を片付けながら


「暑くなってきたし」


「それじゃその【涼しい所】に行こうか」


「荷物はコインロッカーに入れてくるね」


「この列?案外早く入れそうだね」


お昼時だからかな、さっきのフードコートにもすごくお客さんが集まっていたし、他のアトラクションにも集まってるだろうし、その分早く入れそうだと私はウキウキしていました。


//SE遠くで雷の音がする

「雨でも降るのかな?今雷が聞こえたよ」


雲行きが怪しくなってきたかもしれない。東の空は晴れてるのに西の空は厚い雲に覆われて暗いんです。

そんな事を気にしながら


「もうそろそろ入り口に着くんじゃないかな?」


//SE雷の音が近くでする

「嫌だ」


もっと早くに気付くべきだった。


「私、お化け屋敷、苦手」//カタコト


彼は涼しいよって。


「涼しいかもしれんけど」


雨が降ってくるからって。


「雨なんか降らんし、降ってもいいじゃん、別んとこ行こ」


ああだこうだと彼はダダを捏ねる私にそれっぽい事を言って説得してきます、説得されながらも列は前に進んで行くんです。

まるでカウントダウンのように。

説得されて渋々並び続けてしまったわけで。

入場まであと数組って所まできちゃいました。


「・・・もう順番がきただけぇ?」//怯えた声で


入り口のドアが目前に迫ってきています。


「あの」


「手」


「手、握ってくりょう」//小動物のように


手を握ってくれたので私は。


「離しちょし!!」


「離したらぶさらうじゃん!!」//力いっぱい握ってくる


彼は大丈夫だよって言いながら私を引っ張っていく。


「えっもう?」


「歩くの速いよぅ。そんな、せっこんじょし」


//SEお化け屋敷の音

「うぅー」//怯えている


「ヒエッ」


「あぁぁぁ」


「いっさら平気な訳ないずら」


「歩きづらくても仕方ないじゃんけ、おんしが連れてきただから頑張れ~」//か細い声


平気そうだね(笑)とか腕が動かせなくて歩きづらいとか。そんなこん言っちょし。


「きゃあッ」


「まだ?」


まだみたい。


「え~ん」//泣きそうな声で


今にも泣くずら。


「出口?」


外の明るさが目に染みる。


「終わっただけぇ?」


周りを確認して私は。


「はぁぁぁ」//安堵した声で


大きく息を吐いた。と気を抜いた。


その時。


「わぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ビシッ//SEひっぱたく音

「おまんが脅かしてどうするで、ちょびーこんしちょし。怖かったじゃんけ」


平気そうだったよ?と彼がからかってきたので。


「平気じゃにゃー!!怖かったずらぁ」


もう、涙目になっている事が自分でも分かってます。

落ち着く為にも


「はぁ、ちょっと・・・そこのベンチで休もう」

彼はちょっとトイレに行ってくるってとんで行きました。

私はベンチに座り込んで、息を整えて彼を待っている間に

ここで皆さんにお伝えしたい事があります。

お気付きの方もいると思いますが、私は・・・そう。気持ちが昂ると方言が出てしまうのです。

言わない様に少しは意識はしてるんですが、子供の頃から喋ってる言葉だし。・・・秘密にしてるって訳じゃないけれど、今みたいな事があります。彼とは了承した上で付き合ってるので隠してません。彼も直せとか言ってこないし、強引な所もあるけど基本は気が利いて優しい。そんな彼が私は好(す)「つべたッ!!」


「えっ、ジュース買ってきてくれたの?ありがとう」


油断してるとこうだものね。

二人で一息ついてから


「お化け屋敷入ってる間に通り雨が降ったみたいだね」//SE遠くの方で小さく雷の音


地面も濡れているので。

彼は濡れなくて良かったねって。


「別に濡れてもよかったし」


怖い思いするより良かったし。


「ねぇ、次これ行こう」


私は水平にハンドルを回す素振りを見せながら。


「コーヒーカップ」


丁度目の前にある上に、並んでる人も少ない様に見えるから今がチャンスかなって。




「キャハハハハハ」


高速回転してるコーヒーカップが止まって、二人でフラフラした足取りで出てきました。


「目が回っちゃったね」


回し過ぎました。

結構回るものなんだねと彼もフラフラしながらも大丈夫?と聞いてくれたので。


「いんめー」


少し大丈夫って何よ?

頭の中もフラフラしてるみたい。


次はどうしても行きたい場所があるからと


「ちょっと荷物持ってくるから待ってて」


私はコインロッカーにとんで行き、直ぐ戻ってきて。


「この遊覧汽車?に乗って遊園地の奥の方に行かない?美味しい紅茶のお店があるんだって」


あっという間に乗り込んで汽車は発車し始めました。

遊園地の外周を回るように走っています。

窓から園内を見ると兄弟でしょうか?子供達が手を振ってくれてたので、振り返したら笑ってくれました。


「あのぼことう、すごく可愛いかったね」


ほっこりしました。


彼が、紅茶のお店って有名なの?って聞いてきたので


「紅茶の有名店が店舗を出してるんだけど、ここの遊園地の奥のエリアだけを移動してるみたい」


移動?と彼が首を傾げるので、私は頷きながら


「うん、移動式みたい」


スマホでその移動式の紅茶屋(赤い車)を彼に見せました。


「呼び止めない限り移動してるんだって、見つけられなかった人もいるみたい。一種のアトラクションみたいだよね(笑)」


焼き芋屋みたいだな。彼がボソッと言ってきたので私は丁寧に


「アトラクションみたいだよね」


言い直しました。


そうこう喋ってる間に汽車が停まり、お客さんが入れ替わりになってまた走って行きました。私達は辺りを見回して。


「いないね」


「私に考えがあるの。まずこれに乗ります」


私は後ろで大きく円を描いている観覧車を指さしました。


彼が一番上のゴンドラまで見ようと上半身をのけ反らせましたが、腰を痛めたみたいで手で摩ってました。


直ぐ乗れたのでゴンドラの中から探し始めました。

ゴンドラの高度が上がるにつれて、遊園地の全体が一望できるようになってきました。

入場ゲートが小さく見える程、遠くにあって、そこから三分の一程が奥のエリア。今、私達がいる場所です。


「あの川からこっち側のエリアだけど、こうして見ると広いよね(笑)見つけられるかな」


「それにしてもすごい景色」


雲の切れ間から日光が伸びて【天使のはしご】が園内を所々照らしているのです。

天辺を過ぎました。景色を堪能しつつ赤い車を探しているのですが、見つかりません。

すると彼が、あれじゃない?って指さします。


「え!?」


彼の位置から覗くと、観覧車前の広場に赤い車が停まってるのが見えました。


「あれだ!待ってろし」


って言うと動き出すんですよね。


「あぁ!!行っちゃう」


赤い車はお客さんが呼び止めては動き出す、これを繰り返してました。


「ちょびちょびしてぇ、こぴっとしてくりょう」


私が必死な事に横で彼がクスクスと笑っているのに気付いています。

観覧車から降りると、目の前でお客さんが列を成していたので早速並びました。

ものの数分。あっと言う間に買えました。満足です。


「やったぁ、味わって飲むずら」


子供の時におもちゃを買ってもらったような喜び方だったと思います。

ベンチに座ってまずは一口。


「!!・・・おいしい」


彼も気に入ったみたいです。


紅茶を手に入れた事で、準備していた、箱を取り出します。


「あの・・・これ」//SE箱を開ける音


アレを彼に見せる私は内心ドキドキであります。


「おやつにと思って、どうかな」


それを目にした彼はどこのお店に売ってたの?って驚いているけど。


「!?買ってきたんじゃなくて」


お店でなんて売れないよぅ。


「うらがこさえてきたおぶどーのタルトずら」//照れた声で


「まずかったらぶっちゃっていいから」


手作りだという事にさらに驚いてくれている彼は一つ食べてくれて。


「どうでぇ?」


美味しいと言ってくれた。


「ほうけぇ!?良かった~」


「もっと?」


食べて良い?って言ってきてくれたので。


「いいさよぅ、たいへんあるからもっと食べてくりょうし」


「おじいちゃん家(ち)からたいへん送られて来て、ご近所さんに配ってもまだ余るから。このままおえても勿体ないからジャムにしたりお菓子にしてるっつこん」//饒舌


嬉しくって饒舌になった私は方言がダダ洩れで。

そんな私に彼は、


「女子力が高い?」


「うらはそんなこんにゃーよ」


「良い奥さん!?」


「てっ!!何言ってるでぇ。だっちもねぇこんいっちょし」//照れている


美味しい美味しいって沢山食べてくれました。


「気に入ってくれただけぇ?」


「あんがと、嬉しいじゃん」


「また作るら」


彼に喜んで欲しくて、今日の為にタルトを作って来たけど、こんなに喜んでくれて大満足です。

日が傾き始めた頃、遊園地での人々の笑い声の中。しばらく、おやつタイムが続いたのでした。







出口に向かって行く人達が、特に子連れの家族がちらほら見え始め、中には『まだ帰りたくない』ってダダを捏ねる子供もいたのです。

そんな人達を見送りながら、今日一日を振り返ってみました。


準備万端なのに寝坊して、遅刻だと急いだら彼も寝坊した事から今日が始まって、彼は色々と気が利く人だけどジェットコースターが苦手だとか、褒め上手だとか、もっと一緒にいたいと思える人だと感じてます。彼も同じ(おんなじ)事を思ってくれてたらどれほど嬉しいだろう。

そんな思いに耽っていると、辺りがどんどん黄昏時になってきました。


「私達もそろそろ帰らないとだね?」


彼に問いかけると


「どうしたの?」


彼が右足に手を伸ばしてカリカリしています。


「あっ虫に刺された?大変!!見せてみて」


ズボンの裾をめくってみると、赤くぷっくりしています。

そこを彼は直接掻くので。


「そんなにかじっちょし」


よく見ると。


「色んな所くわれてるよ、あっくるみも」


「かゆみ止めあるから。これ使ってくりょう」


塗り薬を彼の右足だけとは言わず、左足・両腕に塗りたくっておきました。



来た時と同じように汽車に乗り、ゲートまで向かっている間に見た景色は、暗い園内の中にアトラクションの建物がライトアップされ、道の照明灯が星の様に散りばめられていました。私は


(銀河鉄道の夜け?)


ちょっとした宇宙に見えたのでそう思っていたら、彼も銀河鉄道999の世界みたいだねって


「私も同じ(おんなじ)事を思ってた」


嘘こけって心の中で自分に言ったけど、似たような感性を持っててちょっと嬉しかった。


もっと見ていたかったけど、ゲートに着いてしまいました。


「楽しかったね」


ゲートを潜りながら彼と一緒に名残惜しそうに振り返り、バスに乗り込みました。

//SEバスが走り出す音


「ねぇ、駅の近くに新しくレストランができたの、知ってる?そこで夕食にしない?」


料理の種類は?って言われても


「何系?ファミレスだから・・・ハンバーグとか?ラーメンの方が良い(笑)?」


ファミレスに行こうってなったので


「じゃぁそこで決まりね」


彼の目が虚ろ気に見えたので


「・・・眠そうだね、疲れた?」


「良いよ、寝てて。私も少し眠いし」


バスに揺られて彼と二人、駅に着くまで寝てしまいました。


駅に着く前に目を覚ましたら彼も起きてました。そして丁度


//SEバスが到着した音

「着いたね」


そのまま駅に入って行く人。隣の駅ビルに向かう人。別のバス・タクシーの列に並ぶ人・・・

同じバスに乗っていた人達とそこで別れて私達も。


(ここに走って来たんだよね)


待ち合わせ場所だった所を通り過ぎながら、建ったばかりの有名ファミレスの店舗に向かって歩きました。


店内は賑やかだったけど、時間も少し遅めだったので混んでなく、注文を終えて、食事が運ばれてくるのを待ってる間に


「えっ!?私が方言で喋ってた所?」


なんと私が遊園地で喋った方言の意味を教えてほしいと彼が言ってきたのです。


私はメロンソーダのストローを咥えて、ブクブクさせながら。


「・・・ニュアンスで汲み取って下さい」


改めて思い出すと恥ずかしいじゃんけ、こん人は何を言ってくるでぇ。


何とか別の話題にしたけど飲み物が無くなったから。


「ちょっと飲み物を持ちに行ってくるね」


私は席を立ちドリンクバーへ行こうとしたら。


それだよって言われました。


「・・・どれよ?」


何の事?って聞くと


彼が『取りに行く』でしょ?って言ってきました。


「持ちに行くでしょ?」


「・・・・・」


お互いに顔を見て。


「いやいやいやいや」


お互いに違うでしょっていう素振りをしたのですが、どうやら私の方が方言だったみたいです。


「えぇ!?ずっと言って生きてきたんだけど」


ここまで生きてきて初めて知った衝撃的事実でした。


「飲み物を【取り】に行ってきます」//取りを強調して


私は言い直してドリンクバーへ行って戻ってきたら料理が運ばれてたのですが、彼は私が戻ってくるまで手を付けないで待っててくれたのでゆっくり、楽しい食事の時間を過ごしました。


お店を出て、駅へ向かいながら、彼が家まで送るよって言ってくれたけど。


「あなたの降りる駅を過ぎちゃうでしょ?悪いよ。私の家は駅に近いから」


「それに、なんだったらお父さんを呼ぶから(笑)早く帰って休んで」


折角のご厚意だけど申し訳なくて断っちゃった。


「また今度お願いします」


ナイスフォロー私。


//SE駅のホームの音

二人で電車に乗ったけど、話もそこそこに彼の降りる駅に直ぐ着いちゃった。彼が降りる際に

帰り、気を付けてねって言ってくれたから。


「ありがとう、あなたもね」


ドアが閉まって動き出すまで見送ってくれてました。


//SE電車の音

彼が降りた駅が離れた辺りで

(そういえば、いつの間にか手を繋いでたよね?)

手に温もりが残っていた事に気付いて、だんだんと顔が緩んでいくのを感じました。

というか目の前の窓に締まりのないニヤけた顔が映っていました。私は慌てて顔を整えます。


//SE駅のホームの音

最寄り駅に着いて、住んでる町だけどこんな時間だと違って見えてしまいました、家まで直ぐなのだけど人気のある所、街灯の明るい所を小走りで移動しました。


「うわっ」

遠くからユラユラ近づいてくる自転車のライト


「ヒョエ!?」

風でアスファルトを滑る枯葉の音


「!!!!!」//言葉が出ない

曲がり角からジョギングしてくるおじさん


「に゛ゃあああ」

近所の猫にも驚く始末。


(なんならお化け屋敷の時より怖いんですけど)


(今度からは彼に送ってもらおう)


私は一つ決心して、見慣れた我が家に帰ってきました。

帰りが長かった気がします。



ガチャッ//SE玄関を開ける音

「ただいまぁ」


家族が迎えてくれました。


お父さんが、どうだったでぇ?って聞いてきたから。


「楽しかったよ」


って、歩きを止めずに受け答えしながら自分の部屋に行きました。


ボフッ//SEベッドにダイブする音

「はぁぁぁ~~~」


今日一日歩き疲れたため息のつもりだけど、顔がニヤついているのが分かるので。

これは、楽しかった余韻のため息だと思います。

このまま少し寝ちゃおうと目を瞑って体の力を抜いた時。


//SEスマホの着信音

「!?」


ガラガラガラ//SEべランダの掃き出し窓を開ける音


「もしもし?うん、着いたよ。そっちは?」


「そう。今日はお疲れさまでした(笑)」


「こちらこそ、楽しかったよぅ」


「いいえ、お粗末様でした」


「うん、また作るから」


彼から無事に着いた?の連絡をしてくれました。

今日の事、特にお菓子をすごく気に入ってくれたみたいで、今度また作ってって、おねだりされました。本当に作って良かったって思って、今度また出掛ける約束もしちゃいました。連絡をしてきてくれた事と今日の事に対してのお礼と、長話しさせないで休ませてあげたい旨を伝えて。


「ありがとう。またね」


「うん。おやすみなさい」

//SE通話を切る


ガラガラガラ//SEべランダの掃き出し窓を閉める音


一息ついてから、お風呂に入り、寝支度と明日の大学の準備をして、いざ寝ようとしたら今日一日の思い出がフラッシュバックしてきました。


ボフッ//SEベッドにダイブする音

「はぁぁぁ~~~」


(楽しかったよぅ)


だんだん瞼が重くなってきて。


(今日はぐっすり眠れそう)




「はっ!!そうじゃん!!電話しながら帰れば怖い思いしなくて済んだずら」

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