満月の夜

水野酒魚。

満月の夜

 恋人のタモツは、満月の夜は会おうとしない。

 尋ねると、とんでもないことを言い出した。

「……僕ね。狼男かもしれないんだ」

 満月の夜に意識が遠のいて、朝になると血だらけでぼろぼろの服を着ているのだという。

 俺は満月の夜に起こることを確かめる事にした。


 大きな満月が上ってくる。

 それを見つめて、タモツがうめき出した。

 まず耳が尖った。耳には黒い毛が生えてくる。

 てのひらには、ぽこん。肉球と爪が生える。

 本当だった。満月の夜に変身するのは。

「……タ、タモツ?」

 そのうちにタモツの変身は終わった。

 タモツは獣みたいに喉を鳴らす。

『……ベルト、外して?』

 金色の瞳がすっと細まる。俺はジーンズを脱がせてやった。シッポが飛び出す。

 視線が、俺の手に有るベルトに注がれる。すっげー色っぽい目をしてる。

『……おねがい。たたいて。思い切り!!』


「やっぱりっ!」

血だらけのシャツを着て、タモツは目を覚ました。変身はすっかり解けていた。

「僕、君にひどいことしたっ?!」

「いや、俺『には』してない」

 俺は必死にぷるぷる首を振る。

「……でも、やっぱり変身したんでしょ?」

「……いや、変身はしたけども…なんつーか、狼男っつーか……むしろ『犬男M男』だった……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

満月の夜 水野酒魚。 @m_sakena669

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ