捻れる輪郭

ニッケルとリチウム

捻れる輪郭


残像ってあるじゃないですか。

と言ってもバトル漫画に出るようなやつじゃなくて。ほら、蛍光灯とかをジーッと見つめてると光が目に焼き付いて瞬きしてもその光が残るやつ。

子供の頃、その残像が時間の経過で形が崩れていくのが面白くて、度々蛍光灯を見つめては目をパチパチさせて一人で遊んでたんです。

今思うと何が楽しいのかって感じですけど。



今でも忘れない、小学2年生の6月。

その日は風邪で学校を休んでたんですけど、夕方には熱も下がったから自室でゲームをやってたんです。

で、それも飽きてまた部屋の蛍光灯を見つめて残像で遊んでいました。

最初は目を閉じても蛍光灯の形が残って、それが瞬きを繰り返すとゆっくり歪んでいくのが妙に面白くて。

完全に無くなったらまた蛍光灯を見つめて、っていうのをしばらく繰り返してたら。


段々その形が変な歪み方をしてきて。


それが、ゆっくりと人の輪郭みたいな形になっていくんです。



もちろん輪郭だけだから表情とかは一切わからないんですけど、その時の自分は何故か「男だ。」と漠然と分かりました。「こいつが振り返ったらヤバい。」「目を合わせたら良くないことが起きる。」とも。


でも瞬きをする度にその輪郭の真ん中から上が捻れていくんですよ。雑巾を絞るみたいに。



振り返るんじゃなくて本当に目だけを無理矢理こちらに向けようとしているみたいに。



そこで当時の自分はもう限界でした。

すぐにリビングまで走り、母に泣きながら縋りついてブルブル震えて、でも絶対に瞬きはしない。

そんな異様な状態の私に母は「熱がぶり返して怖い夢でも見たんだろう」と考えたのか優しく宥められたのを覚えています。

元々風邪で体力が落ちていたのもあり、私はそのまま寝てしまったようでした。気づいたらリビングにタオルケットをかけられた状態で横になっており、その時にはもう残像も見えなくなっていました。

それ以降は一切残像遊びをやめ、その男を見ることもなくなったのですが、

あれが誰で、目を合わせるとどうなったのかは未だに分からないままです。




え?何でこの話をしたかって?



いや、今ね。



私の部屋のベランダに、異様に手足と首が細い人形の影が立ってるんですよ。


ただ細いんじゃなくて付け根から、例えばティッシュでこよりを作るみたいに捻れてるような、そんな影。


顔に当たるであろう部分もゆっくりと捻れて、このままだと恐らく私の方を向いてしまうんでしょうけど。




どうすればいいと思う?

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