いじめっ子と数年振りに再会したら立場が逆転した話

文嶌のと

いじめっ子と数年振りに再会したら立場が逆転した話

 田舎の片隅にある朽ちかけの小屋の中にいつも連れてこられる。


「やめてよッ、放してッ」


 願っても彼女は力を緩めない。


「いいからジッとするのッ! お姉ちゃんがお仕置きしたげるから」


 ひとつしか歳は変わらないのに、小学生のひとつは限りなく大きなもので。

 この頃は男子よりも女子の方が背も大きいわけで。


「なんでッ? 僕なんも悪いことしてないのにッ」

「アタシの入浴覗いたわよね?」

「あれはだって来いって言われたからッ」

「来いって言っただけ。覗けなんて言ってないからッ」


 埃だらけのマットの上で羽交い絞めにされたままズボンを脱がされる。


「やめてッ。なんでこんなことするのッ?」

「アンタが悪い子だから。ほら、おちんちん出てきた」

「うぅ……」


 パンツも脱がされて局部を弾かれる。


「このままおしっこしなさいよ」

「ヤダっ」

「暴れるなッ! ほら、はやくッ」


 叫んでも誰も来てくれない、そんな奥地で観念した僕は泣きながら放尿した。


「おしっこ臭ーい。お漏らし、お漏らしー」


 そんな日がずっと続いた。




 あれから十年。

 俺は十七歳、高校二年になった。

 中学から田舎を離れた俺は五年振りに帰省の列車に身を任せている。


 正直言って帰りたくない。

 アイツは現在十八歳、高校三年。

 地元の高校に進学したと聞いたからおそらくはガキ大将の延長みたいなことを今でもやっているのだろう。あの時の腕力に磨きをかけて更にデカくなっているに違いない。百七十センチに成長した俺でも敵うかどうか。


 久しぶりに見た田舎の駅には家族たちの姿があった。


「父さん、母さん、久しぶり」


 ふたりとも少しだけ皺が濃くなった気がする。ひとり息子の遠出が心労を与えているのかもしれない。

 すぐに父が運転するトラックに乗り込んだ。


「それはそうと大希だいき。隣ん家のりっちゃん覚えてる?」


 忌々しい名前を耳にした。りっちゃんとはあのリサ姉のことだ。


「まあ」

「あの子ずいぶん変わっちゃったんだよ。アンタ会ったらビックリするよ」

「へえ」


 空返事を送る。

 どう変わっていようが、正直どうでも良かった。悪人には変わりないのだから。




 トラックに揺られること三十分。ようやく家に着いた。

 トラックを下りた時にちらりと見えた赤い服の女の子。あんな背の低い子がいただろうか?

 リサ姉の友達だろうか?


 その日は姿を見せることのなかった少女。それとリサ姉。


 転機が訪れたのはその日の夜、日付変わって午前二時のことだった。


 なかなか寝付けなかった俺が縁側で座っていると、


「だいちゃん?」


 モジモジしながら木の陰に隠れるのはあの少女だ。今は白の寝間着を纏っていた。


「えーっと、だれ?」

「わたし……リサ」

「は!?」


 正直驚いた。

 だってあれほど傍若無人に暴れていたガキ大将が、あの頃からほとんど背が伸びぬままモジモジしているのだから。


 いまのアイツになら、そう思ってサンダルを履いて近づいた。


 間近で見たリサ姉はまるで人形のようだった。すぐに壊れてしまいそうな。ただ、胸だけはかなり成長していた。


「あの、ね……だいちゃん。わたしね、あの時のこと……ずっと謝りたくて」


 その時、ゾクゾクする自分がいた。


「謝んなくていいからちょっと来て」

「え? もう遅いよ」

「いいから」


 華奢な手を強く握って引っ張っていく。「痛いよ」と言いながら何度もよろけそうになるリサ姉を早足で引っ張り続けた。


 しばらく歩いて着いたのは、あの小屋だ。


「ここ……っ」


 何かを悟ったのか、みるみるうちにリサ姉の顔は強張った。勝ちを確信した瞬間だった。


「入って」

「でも」

「いいからッ! 入れよッ!」


 目に涙を溜めたリサ姉が黙って頷いて中へと入った。

 入り口を閉めてすぐ、泥だらけのマットに押し倒す。


「どうだリサ姉ッ! こうされる気分はッ?」

「ごめんなさい」


 ただ泣き出すだけで抵抗してこない。


「謝って済むわけないだろッ! ほら、パンツ脱げ。おしっこしろ」


 少しだけズボンを引っ張ってやる。


「わかった」


 白ズボンを完全に脱いだリサ姉。次は白パンツに手をかける。


「なんで素直にやんだよッ!」

「だって、わたしが悪いんだもん。許されないこと沢山だいちゃんにしたもん」


 パンツを半分ずらしたリサ姉を制止させる。


「やめろッ! もういいってッ!……じゃあ、なんであんなことやったのか、理由だけ聞かせろ」

「言えないよ」

「そーだろーな! 理由なんてねーんだ! ただ小さいガキを虐めたかっただけなんだ!」

「違うよッ!!」


 泥だらけの袖で涙を拭うリサ姉。


「だったら何だよ?」

「小さい頃からずっと隣ん家のだいちゃんが好きだったけど、言えなくて……っ」

「なんだよッ、その理由ッ! わけわかんねーよッ」


 昔からよく言う言葉。好きな子にちょっかいを出す。

 でもあのちょっかいはレベルが違う。今更改心したって遅いんだ。


「じゃあ何か? ここで俺に犯されたら嬉しいってか?」

「え?」


 勢いよくズボンを脱いでやった。

 お互いパンツ姿のまま見合う。


「嬉しいよ、すっごく」


 泣きながら満面の笑みを浮かべるリサ姉を見て俺の心は沈んだ。

 ただただ純情なヤツを押し倒した悪いヤツ。いまの俺の現状だ。


 すぐにズボンを穿き直して小屋を走り去った。「だいちゃん」の声を無視しながら田んぼの夜道を必死に走った。




 それから数日。帰る日がやってきた。


 父からトラックに促された時、視界に入った赤いワンピの少女に戸惑う。


「あぁクソッ」


 気づけばリサ姉の下へ走っていた。


「だいちゃん、これ」


 リサ姉の手にはピンクの包みがあった。


「なんだよ、それ?」

「お弁当つくったの。もしよかったら列車の中で食べて」

「毒でも入ってんだろ」

「うぅ……」


 強引に弁当を奪ってから言ってやる。


「高校卒業したら帰ってくる。そしたらずっと虐めてやるから覚悟して待ってろ」


 目を丸くさせるリサ姉。

 少ししてから、


「うん、ずっと待ってる」


 また涙を流しながら満面の笑みを送ってきた。

 そんなリサ姉のおでこを弾いてからトラックに乗った。



※※※



 仕事用の鞄から弁当を取り出す。


「おいっ、リサ! ピーマン入れんなっつったろ」

「ごめんなさい。身体にいいと思って。イライラしたんだったらお仕置きでもなんでも――」

「もうそれはいいって言ったろ? この子産んでくれたからチャラにしてやる」


 赤ちゃんベッドに寝ている娘の頭を優しく撫でた。


「ホント?」

「ああ。出産って壮絶らしいしな。お仕置きどころじゃなかったろ?」

「そんなこと……」

「本音は?」

「…………痛かった」

「コイツ」


 愛らしく本音を言ってきたリサのおでこを優しく弾くと、いつも通りの満面の笑みをくれたのだった。


~Fin~

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