第10話 死神の目

「次は、ワシのばんじゃな」


 テラさんは、用意していたお水をゆっくりとひと舐めして目を細め語りはじめた。



 ワシはもともと野良猫じゃ。幼き記憶なんぞほとんどない。じいさんが神社の軒先で鳴いておったワシを抱きかかえて連れて帰り、家族にしてくれたんじゃ。


 それからじいさんとワシのふたりの生活が始まり、その2年程して朔也が加わり、3人での生活が始まった。


 まずは前に話していた特別な力のことを話すとしよう。


 その力に目覚めたのは、今から2年程前。ワシは神社で過ごすのがほとんどじゃった。神社には、日向ぼっこや雨宿りめあてで集まる野良猫達も多くほどんどが顔見しりじゃ。


 その中でも同じ三毛猫の雌のまるさんは、いつも一緒に過ごすほどの仲良し。なかなかの美人じゃったんじゃぞ。


「おぅまるさん。今日もいい天気じゃのう。ん?なんじゃこれは」


「どうしたのテラ?風邪でもひいたの?」


「いや。まるさんの姿が少し透けてみえるんじゃ。どうしたもんじゃこれは。ワシも歳かのう……」


 何度か手で目をこすってみるが、いっこうになおる気配がない。不思議なことにまるさんの姿だけが半透明にみえるんじゃ。それは、次の日もその次の日も変わることはなかった。


 それから3週間程してまるさんはこの世を去った。あまりにもショッキングで事実を受け入れるのに時間がかかった。近くの草むらで眠るように亡くなっていたと、他の野良猫に話を聞いて愕然としたよ。


 そして、そのあたりから神社に参拝にくる人の中にも時々半透明に見える人がいることに気づいた。これはどうしたことなんじゃろうか。


「なぁ朔也。実はな、時々人や猫の中に姿が半透明に見えるものがおるんじゃ。ワシももう若くない。何か目の病気なんじゃろうか」


 朔也は優しくワシを抱きあげて、瞳をのぞき込む。


「うーん。そりゃもうテラも若くないからねぇ。俺とあまり変わらない年齢でしょ?白内障も進んでくるころかもねぇ」


「そうじゃなぁ。ほれあの理髪店のじいさんも半透明にみえるぞ。一昨日きてた、真ん丸眼鏡をかけた小さなおばあさんもじゃ。なんでかのう」


 すると朔也は驚きの表情でこっちを見て、そっと耳打ちしてきた。


「さっき言ってた理髪店の佐々木さんも、安達ばあちゃんも今闘病中だから快復祈願にきてるんだ。もしかすると、病を患ってる人がわかるんじゃないの?」


 その後ワシは朔也とふたりで、半透明に見える人や猫をチェックしていくとわかったことがあった。それはワシが姿が半透明に見えてしまう者は、一か月以内に死んでしまうんじゃ。なんだか自分が死神にでもなってしまったような、そんな気分になってしもうてなぁ。


 やはり死を感じとってしまうというのは、いい気持ちはせんからのぅ。それからはあまり神社に出向くこともなくなった。管理人の仕事をする朔也と一緒に、このまたたび荘で過ごすことの方が多くなり、朔也が神社で仕事をする時は、ワシはアパートに残って留守番をしておる。


 そしてワシは、またたび荘の見回りと称して、各部屋をベランダから見て回ることにした。またたび荘は、珍しく猫飼いOKのアパートじゃから、どの部屋にも猫がおる。隣の102号室のシャム猫のロックなんて、挨拶しても知らん顔じゃ。若さゆえかのぉ〜。


 そうそう。2ヶ月前に引っ越してきた咲さん達のところももちろん見て回った。


「もぅ食べ過ぎよ~フラン。いい加減にしないとお腹がパンクしちゃうんだからね」


「せっかくママンがくれたマシマシのいりこを残しちゃうのかよ~ルル。僕が食べちゃうぞ」


 微笑ましいフランさんとルルさんの会話が聞こえて、ワシは部屋をそっとのぞき込んだ。その時じゃ。ワシは初めて半透明ではなく、真っ赤なベールに包まれた黒猫の姿を目にしたんじゃ。これは信じてもらえぬかもしれぬが本当じゃ。


 それから何度か失礼を承知で、ルルさんの姿を拝見しにいったよ。遠くからのぉ。何度見ても、彼女の姿は真っ赤なベールに包まれ神秘的な姿じゃ。それは今もなお変わらぬ。


「それで心配になって、先日声をかけに部屋にいったんじゃ。年寄りの無礼、何卒許してほしい。驚かせてしまい本当に申し訳なかった。しかし今もこうしてルルさんは元気なままで安心したぞい」


 

 そこまで話終えると、テラさんはゆっくりと水を飲み始めた。きっとルルのことを気にかけてくれていたのも本当だろう。やっと話せた安堵感がみうけられる。


「うぬ。これがおぬし達に話したかったワシの持っている力じゃ。特に何かに役立てることもできんがな。ちなみに、フランさん。あんたもまだまだ透けては見えておらぬから安心せい。フォッフォフォ」


「そりゃそうだよ。まだ僕は死ぬわけにはいかないからね~。ルルもママンのことも僕が守らなきゃいけないしな!」


 私は隣で誇らしげにしているフランの丸い頭をなでる。


 すぐ横にいたルルが決心したようにテラさんの近くに歩み寄った。


「テラさん。今の私も赤いベールに包まれて見えるの?」


 テラさんはゆっくりとうなずいた。すると、ルルは私のほうを向いて少しうなずき、私とフランに話してくれた幼き紅い瞳の理由を語りだした。ずっと目を細めていたテラさんの瞳は、キラキラと輝きに満ちていた。


「おい、テラじいさん。あんまりそんな目でルルのこと見るなよ。困ってるじゃねぇか」


 フランは不機嫌そうに、モフモフしっぽを振りまわす。


「すまん、すまん。しかしじゃな。ワシに精霊の知り合いはおらんが、少し気になることがある。その精霊とやらが言っておった扉のことじゃ。少し朔也と調べてみるので、また次の日曜日にここで集合というのはどうじゃ?」


「あの……咲ちゃん。迷惑じゃないかな?俺たちも力になりたいんだけど」


「迷惑なわけないじゃないですか。よろしくお願いします!」


 こうして第一回目の集会は幕を閉じた。


 今後の連絡手段として、私と朔也さんは連絡先を交換。なんだか同じ悩みを共有できる仲間が増えたことが、なにより心強かった。



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今回は第10話を読んでいただきありがとうございます。

なんとかここまでこれました〜w


何かございましたらコメント、♡や☆もお待ちしております(*´꒳`*)


よろしくお願いいたします。




 

 

 


 





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