第5話  ルルとの出会い

 ルルはそこまで話すと少しうつむき、私とフランの様子をうかがっているようだった。何と声をかけたらいいのだろう、私はルルにかける言葉を探していた。そしてその静寂をフランがやぶる。


「なんだよそのカラスのやつら!今度会ったら、このフラン様がボコボコにしてくれるからな」


 そういいながら、フランはまん丸おててでパンチする真似をしている。しかし。いや間違いなく、ルルのパンチの方が素早く的確だと思われる。ま。ヘビー級のパンチ力はあるかもしれないけどね。当たればの話。


「フランありがとう。そのカラスの奴らは、すでに私がこの手で地獄に葬ってやったわ……なんちゃって。その後は見かけてないわ。ママンと出会うまではしばらく神社の軒下に隠れて生活してたけど」


 ルルはかわいい舌をペロッとだしておどけて見せた。


「ルルに手をだそうとするなんて、本当に命知らずなカラスだな」


「フランそれどういう意味よ!」


 フランなりに、こわばったこの場の空気を和まそうとしてくれたのだろう。いつものふたりの追いかけごっこが始まった。変わらない日常がこんなにも尊いなんて。


「よくひとりで頑張って生きてたねルル。精霊さんも守ってくれて、本当にありがとう」


 そう私は小さくつぶやいた。嬉しそうに擦り寄るルルの瞳は、光をうけキラキラとルビーのように輝いていた。


 するとフランはひとり、天井の斜め上あたりを見つめ何かを考えていた。


「そういえば。ママンとルルはどうやって出会ったんだ?僕知らないや」


「私とママンが出会ったのは、それから1ヶ月くらいしてからよ」



 そう。私とルルが出会ったのは、今から2年ほど前にさかのぼる。


 山影家では、すでに3歳になるフランとの生活が続いていた。その日は、母さんとふたりでこの町に買い物にきてて。通りがかったあの神社の横を、小さな黒猫がヨタヨタしながら歩いてるのが見えた。


「母さん、あそこに黒い子猫がいたよ〜」


「このへん猫多いから気をつけて運転しないとね。もうすぐお店つくわよ」


 その後、私はショッピングモールで母さんといつもの買い物をすませ、帰ろうと車に乗り込む。私はずっと行き道で見た子猫のことが頭から離れなかった。


「ねえ母さん……」


「ダメだってば。猫には相性ってものがあるの。それにフランは男の子よ。彼なりに縄張り意識ってのもあるだろうし。母さんもそりゃ猫は大好きだけど」


 しょんぼりうつむく私を心配して、母さんはこんな話をしてくれた。


「咲にひとつ提案。もしも帰り道、また同じ場所にあの子猫がいたら運命だと思わない?」


 私達の車は、子猫のいた神社付近に近づく。私はドキドキしていた。そして、角を曲がったとき、同じ場所でちょこんと座る黒い子猫と目があった。まるで私が戻ってくることを察していたかのように、子猫は待っていたのだ。


 もちろん長い野良生活でずいぶん汚れ、痩せこけている。それでも子猫は生きようと、必死で私に向かって声なき声をあげていた。私は、後部座席に置いていたブランケットを片手に急いでその子猫にかけよる。逃げてしまうかと思ったけど、優しく擦り寄って来る子猫。これがルルとの出会いだった。


「これはビックリ、母さんの負けだわ。このまま動物病院に直行して家に帰りましょ。フランの反応が楽しみねー」


「母さんありがとう。わがまま言ってごめんね」


「わがまま?咲と同じくらい母さんも猫好きなの忘れたの?あーまた子供増えちゃったなぁ。母さんもお仕事頑張るから、咲も今年の受験頑張るのよ〜」


 そう言って、ルルを抱く私を優しく撫でてくれた母さん。その後、動物病院によって検査をしたけど、大きな病気もなく注射をして帰宅。


「そこからはフランさんもご存知でしょ?可愛らしいルルにフランはメロメロで。毎日くわえて回ってたもんね〜お母さんみたいに」


「おい、やめろよその話は。仕方ないだろぅ本能なんだからーー。あ!僕急に眠くなってきたなー」


 フランは大きなモフモフしっぽを大きく振りながら、丸くなってしまった。余程恥ずかしいらしい。


「ふたりがスムーズに仲良くなってくれて、本当によかったよ」


「だって。フランったらイビキはうるさいけど、すっごく優しいんだもん」


 ルルは照れるフランに擦り寄って一緒に丸くなった。


 私はそんなふたりを見ながら、ルルの話してくれた幼い記憶の話を改めて整理してみた。


「ねぇルル。それから一度も、炎の精霊ロシュの声は聞こえないんだよね?気になるのは精霊が言ってた、次の扉が開くまでってとこだね。なんのことだろう」


「それにそれまでってことは、ルルからその精霊は出ていくつもりなのか?それって大丈夫なのかなぁ」


「私もロシュとの出会いまでは鮮明に思い出したんだけど、その扉の意味は全くわからなくて」


 ルルは残念そうにうつむいてしまった。


「ねぇそういえば。テラさんは、ちょっと変わった瞳をお持ちのルルさんと話がしたくて来たって言ってなかった?それにテラさんの特別な力も気になる。もしかしたら何か知ってるかもしれない!私、直感的に感じるの。私が猫と話せるようになったこと、ルルが紅い目の記憶を取り戻したこと、テラさんとの出会い、すべてが何かに繋がってるんじゃないかなって」


 私はルルの不安そうな顔をこれ以上みたくないと思った。きっとルルのお母さんだって天国でそう思ってるはずだもん。だからって、フランとルルを連れて家の外に出るのはリスクが高すぎる。フランなんて土の上を歩いたことすらないんだから。


「わかった。まずは私がひとりでテラさんと話してみる。テラさんの力っていうのも気になるし。明日、早速行ってみるね」


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 今回は、本作品の5話目を読んでいただき、本当にありがとうございます。


 猫への愛情マシマシで書き進んでまいりますので、よろしくお願いいたします!





 

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