第6話 テラさんへの伝言
ここまたたび荘には6部屋あり。私の家は301号室。テラさんのいる管理人さんの部屋は101号室である。私はとりあえずテラさん本人に話があることを伝えて、こないだみたいにうちに来てもらえないか伝えようと決めていた。
さすがに全てを管理人さんに話してしまうのも無理があるし……。
次の日の朝、手早く朝食を終わらせ母さんを見送り洗濯も終了。私は長く伸びた栗色の髪をポニーテールに結び、スニーカーを履こうと玄関にむかう。
「今日はお気に入りの猫下僕Tシャツは着てかないの?ちょっとそのシャツだと体のラインが見えすぎじゃないかな?」
「もう!あれはパジャマでしょ。てか、どこのお父さんなのよフランは」
テラさんのところに行くということは、つまり管理人さんのところに行くわけで。それを警戒してか朝からご機嫌ナナメのフラン。
「そりゃママンだって女の子だもん。素敵な紳士の前では可愛くありたいものよ〜」
「だからそんなんじゃないし」
なんとか今回はそんなドキドキの恋愛感情を伏せて、テラさんのところに行こうとしてるのに否が応でも意識されられる始末。
そんなフランとルルに見送られ、私は部屋を後にし管理人さんの部屋にむかう。母さんと一緒に引越しのご挨拶に行ったとき以来かも。
「やばっ。やっぱ緊張する。もぅ少し後にしようかな〜」
時刻は朝10時を回ったとこ。あたりをキョロキョロしながら私はあっという間に1階までやってきてしまった。急に決心が鈍る。もう一度部屋に戻って、出直してこようとした時背後から声をかけられた。
「あれ?咲さんお出かけですか?」
爽やかな笑顔と優しい声。いっきに鼓動が早くなる。振り返ると管理人さんがほうきを片手に立っていた。
「あ〜いえ。その。ちょっと」
……どぅしよう。最初になんて声かけるのかなんて考えてなかったーー。
「あーーーそうだった。知り合いから梨を頂いたんだ。たくさんあるからいくつか持っていかない?」
思わぬところで管理人さんが助け舟を出してくれた。
「ありがとうございます!ぜひいただきます」
よっしゃー。チャンス到来!
そう言うと、管理人さんは自分の部屋に向かい歩き始めた。よかった〜これで、テラさんと会えれば任務完了だ。
それにしても後ろ姿もかっこいい。きっと彼女とかいるんだろぅなぁ〜。あダメダメ。今はルルのママンとして来たんだから。しっかりしなきゃ!
「玄関で少し待っててね」
そう言うと管理人さんは奥の部屋に消えていった。てか私、男性の部屋にひとりで来たの初めてじゃん。ひとりでソワソワしていると、ゆったりと歩くテラさんがあらわれた。
「これはこれは咲さんではないか。もぅ具合いはいいのかな?」
私は慌ててテラさんを手招きするが、まったり歩く速度は変わらない。これがまたテラさんらしい風格。私は急いでしゃがみ込み、テラさんに小声で伝える。
「テラさんあのね。手短に話すよ。ルルのことでちょっと話したいことがあるんです。後で、またうちに来てくれませんか?」
「ん?どうしたんじゃ?せっかちなお嬢ちゃんじゃなぁ〜フォッフォッフォ」
慌てて小声で話す私をなだめるようにあしらうテラさん。もぅ管理人さんにバレちゃうよ〜。そんなやり取りをしていると、紙袋を抱えた管理人さんが戻ってきた。
「おまたせしてごめんね。お母さんと仲良く食べてね」
「あ、ありがとうございます」
帰り際、ドアを閉めようとしたときに、足に擦り寄ってくるテラさん。
「後でジャマするぞ。今回はワシのツレを一緒に連れていくからのぉ。ゆっくり話そう」
猫らしくにゃにゃ〜んと言いながら、擦り寄るテラさんを思わず撫でまくる私。三毛猫も可愛い〜。
「で、では失礼します。梨ありがとうございました」
私は管理人さんに深々と頭をさげ、部屋に戻る。後はテラさんが来るのを待つだけ。
部屋に戻るとフランとルルが駆け寄ってきた。
「大丈夫だったの?テラさんには会えた?」
「ママン、それ何?」
「ちゃんと会えたから心配しないで。後でこっちの部屋にテラさん来てくれるって。そう言えば、ツレを連れてくるなんて言ってたなぁ。今度はどんな猫ちゃんが来るのかしら。梨は母さんが帰ってきてからのお楽しみ〜」
ちょっとした猫の集会みたいで、可愛すぎなんだけど。私はフラン達のからだにブラシをかけながら、その時間まで待つことにした。
お昼前くらいだろうか、部屋のインターホンがなった。テラさんなら窓からやって来るだろうし、ん?誰だろう?
慌ててインターホンをのぞくと、そこにいたのは、テラさんを肩に乗せた管理人さんの姿だった。
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