2-2
その声は
「ど、どうしてヘデ……っ」
ヘデラの正体を自分は知らないことになっている。
(あっぶねえ……! 変装姿を見てヘデラだってわかる人間なんてそうそういねえよな)
ゲーム知識がなければ、ダリアも彼がヘデラだと気づくことはなかっただろう。
「
「まだ全快ではないけれど、
(普通に動けるなら早く帰れよ! 今、国中でヘデラの失踪が話題になってんだぞ?)
平気そうなヘデラを見て色々と
「では、わた……僕はこれで……」
実家の暗殺
「
その言葉にダリアはピタッと足を止める。あっさりと男装を見破ったヘデラに、ダリアはゆっくり振り返って
「この国では、女性は
「……」
ヘデラはうっすらと
セリフにダリアは反射で言葉を返した。
「どうして剣を持つのが男だと決めつけられているのですか? 女であろうと実力があれば関係ないのでは? 国に
「この国で優位なのはいつだって男なんだよ。権力者は全員男。まさか君、
「そんな決まり、私が
ダリアが断言すると、ヘデラはふっと笑みをもらし、帯刀していた剣をすらりと抜く。
「その心意気、俺の忘れられない人に似ているな。君がその気なら、俺も手伝うよ」
まるで
「本当ですか!?」
「え?」
ダリアの
「……あ、いえっ、結構です!」
ひとりで素振りをしていても手ごたえがない。そう思っていた矢先に相手をしてもらえると聞いてつい飛びついてしまったが、すぐさま我に返る。
(相手がヘデラじゃなかったら喜んでお願いしたのに!)
ヘデラはそんなダリアの様子にふっと笑みを浮かべると、事情を察したように
「どうして? こんなところで男の
「それはもちろん……だけど、そもそもぼ……私、
「ああ、そうか。まだ名乗っていなかったな。今は変装しているけれど、俺はこの国の第一皇子、ヘデラ・グラディーだ」
(はい、知ってますとも! できれば
ダリアはここで自分も名乗るべきとはわかっていても
「えっと……私は……その」
「
ヘデラはダリアに近づき、すっと手を
ダリアの長い
「とても
あまりにもストレートな言葉に、不覚にもダリアは照れてしまう。
(そりゃダリアが美人なのは知ってっけど……こんなイケメン皇子にド直球で
「ダリア・アグネス
「……えっ」
ダリアの顔からサーッと血の気が引く。ヘデラに名乗った覚えはなかったが、なぜかすでに
「な、にを……」
ヘデラは驚きと混乱でしどろもどろになるダリアにさらに言葉を続けた。
「俺が忘れていると思った? 幼少期に一度、会ったことがあるのに」
「あっ幼少期……」
一度だけ
「失礼いたしました。まさか第一皇子殿下だったなんて……改めてご挨拶申し上げます。アグネス侯爵家長女のダリアです。ええ……と、それで、大変厚かましいお願いですけど、どうか今までのご無礼をお許しください」
ダリアは開き直って謝罪した。できればすべてを水に流してこのまま立ち去ってほしいところだが……。
「もちろんだよ、君は命の恩人なのだから。もう一度会えて嬉しく思うよ。それで、
「それは……確かにすごく
ダリアはありがたい申し出に頭を
「殿下は皇都に戻られなくて大丈夫なのですか? 失踪したという情報が国中に広がっているのに」
「数週間程度なら問題ないよ。
「そうだったのですね」
その襲われた事件に侯爵家が関わっているかもしれないと思うと、ダリアは気まずくなった。しかし事情を知らないヘデラはなおも
「君にとっても悪い話ではないはずだよ」
ダリアの目下の目標は、一発合格で騎士団に入ることだ。あれこれ考えている場合ではない。
「ぜひ、よろしくお願いします」
こうして、ヘデラの指導のもと、ダリアの剣術の訓練が始まった。まずはヘデラの実力を確かめようと
(負けた……のか? こんなにあっさり?)
「残念だけど、これが今の君の実力だよ」
今までの努力はすべて
(なんか
段々と怒りが
だが何度やっても結果は同じで、無駄のない動きと
「くっそ……負けた!」
ついにダリアはその場にべたりと座り込む。
令嬢らしからぬ
「少し
息ひとつ乱れていない姿を見ると、力の差は歴然。恋愛メインのゲームだったため剣術の見せ場などなかったが、ヘデラの実力は本物らしい。
ふと、ダリアは疑問に思ってヘデラに
「こんなに強いのに、どうしてあんな
数で襲われたら
「生きる気力のない人間は
ヘデラの答えになっていない返答にダリアは首を
「えっと……それってどういう意」
「知らなくていいことだよ」
それ以上語る気がなさそうなヘデラに、深く突っ込むべきではないと察したダリアは、「そうなのですね」と、その場を終わらせたのだった。
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