悪役令嬢に私はなる

悪役令嬢になると意気込んだはいいものの、いざ悪役をやれと言われてそう簡単にできるものでは無い。


「この小説の悪役令嬢は確か……」


ジル・マイヤーズ。マイヤーズ侯爵家の一人娘だ。

蝶や花やと育てられその結果、それはそれはわがまま傲慢娘に育った。

当然婚約者は王太子殿下。

ジルは心の底から殿下を愛していた為、殿下に近づく令嬢は誰であろうと許さず近づくものならば法に触れないギリギリのラインで追い詰める。

そんな折、殿下がシルビアを気に入り婚約者であるジルを蔑ろにし始めた結果、ジルはシルビアを目の敵にしてとことん虐めぬく。

最終的にジルは断罪され国外追放となるが、追放されても尚その態度を改めないと言う根っからの悪役令嬢。……というのが小説で描かれていたジルの印象。


まだ実際には会ったことがないので、なんとも言えないのが正直な感想。


「ん~~~~………………行くか」


じっとしてたところで何かが変わる訳も無い。

まずはジル・マイヤーズと言う令嬢がどのような人物なのか、この目で確認する事にした。





❊❊❊❊





「ルーファスいるか?」


ノックもなしにルーファスの執務室の扉を開けたのは団長であるウォルター。


「……ノックぐらいしてください」

「まあまあ、細かいことは気にするな」


ルーファスの言葉を無視して部屋の真ん中にあるソファーにどっかりと腰をかけた。

ルーファスは呆れながらもウォルターと向かい合うようにソファーに座った。


「──で?用件は何です?わざわざここを訪れたという事はそれなりの案件という事でしょうね?」

「あははははは!!!相変わらずだな。まあ、俺からしたら大した事ではないが、お前からしたらどうかなぁ?」


意味深な言葉で煽るウォルターに早く言えと言わんばかりにルーファスが睨みつけた。


「さっきリリーに会った」


リリーと言う単語にピクッと分かりやすく反応するルーファスにウォルターは苦笑いを浮かべた。


「また婚約を解消しろと言われたんだろ?」

「……貴方には関係ありません」

「それが関係あるんだよなぁ~」


ニヤッと不敵な笑みを浮かべるウォルターをルーファスは真顔で黙って見ていた。……が、次の一言でその表情は一変する。


「リリーが俺が婚約者なら良かったって言ってたぞ?」

「はっ?」


団長であるウォルターが思わずゾクッと身構えるほど冷たい声に鬼相の表情をしていた。


「……一体どういう事です?何故貴方がリリーの婚約者と言う話になっているんです?事と場合によってはいくら団長だろうと容赦しませんよ?」


睨みつけながら落ち着いた素振りを見せているが、内心気が気じゃないんだろう。その証拠に手が僅かだが震えている。


本当に手が焼ける。

リリーには悪いが、ルーファスを敵に回す方が後々面倒だからな。


「まあ、落ち着け。この件に関してはお前も悪いと思うぞ?」

「は?」

「そりゃそうだろ。婚約者を蔑ろにするような男だろ?他の男の方がいいに決まって──ッ!!」

「黙ってください」


最後まで言わせないとばかりにルーファスはどこから出したのかウォルターの首に剣を突きつけていた。

その表情は殺気に満ち溢れている。


ウォルターは両手を挙げ、降参とばかりに溜息を吐いた。


「まったく……いい加減にしろよ。お前がそんなんだと本当に他の男に取られるぞ?」

「冗談。私がそんな易々と奪われる訳ないでしょ?リリーの周りの男共羽虫は把握してますよ」


クスッと嘲笑うかのように微笑むルーファスを見て、ウォルターは苦々しく笑った。


本当にこいつは……


ルーファスは宰相にしておくのが惜しいほど剣がたつ。

それに加え頭もキレる。団長としてはそんな有能な人物をほっておくはずなく、何度も騎士にと打診したがいつも答えはノーだった。


「なあ、なんでお前は宰相なんてつまらんもんになったんだ?」

「…………」

「確かにお前は頭がいい。だが、リリーを守る為だったら騎士になった方が断然都合がいいんじゃないのか?」


黙っているルーファスに畳み掛けるように言うが、口を開こうとはしない。

ウォルターはその様子を見て、これ以上は何を言っても無駄だと判断した。


「まあ、気が向いたらいつでも言ってくれ。お前ならすぐに副団長クラスにはなれるだろう。ああ、団長の座は譲る気はないがな」


そう捨て台詞を吐いてウォルターは執務室を後にした。


残されたルーファスは「……何も知らないくせに……」そう呟きグッと拳を握りしめた。




❊❊❊❊




一方その頃……


「あらぁ~?貴方、このわたくしに楯突くつもり?」


リリーは悪役令嬢であるジルを探る為、マイヤーズ邸へとやって来た。

勿論、アポ無しの為隠れるようにして侵入した。立派な不法侵入だ。


庭の茂みに紛れるように様子を伺っていると、声が聞こえてきた。


見るとそこには金髪の美女が数人の令嬢を引き連れ、なにやら揉め事を起こしている最中だった。

一目で悪役令嬢だと分かる振る舞いをしている金髪美女が目的の人物、ジルで間違いないだろう。


ジルの前で土下座しているのは使用人の服を着た男性。


「申し訳ありません!!今後このような事が無いよう……」

「お黙り。お前のような者、マイヤーズ家には不要だわ。お父様に言って今日限りにしてもらうからさっさと出でおいき」


強い口調で言う姿は悪役令嬢そのもの。


その場に項垂れる男性を残して、ジルは取り巻きの令嬢達と屋敷へと戻って行った。

思った以上の悪役令嬢ぶりで乗っ取り作戦に暗雲が立ち込めるが、それはそれこれはこれ。


平穏で平凡な日常を過ごす為に悪役令嬢の座は私が貰う!!

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