人妻としえ、異世界をイく

館西夕木

プロローグ

 1



「くっ……」


 丸太のように太い腕、石のようにざらついた肌の奥にはいったいどれほどの筋肉が詰め込まれているのか。


 オーク。


 二メートルは優に越すその大柄なモンスターは、としえが今まで会ったどんな男よりも屈強で、精悍で、そして狂暴だった。


「オラっ」


 大振りで迫る棍棒がとしえの杖をへし折る。


「きゃっ」


 防御魔法を張っていたおかげで大きなダメージはなかったが、衝撃でとしえは地べたに崩れ落ちてしまう。


 放つ魔法を全て耐えられてしまい、杖まで折られてしまっては、としえにはもうなすすべがなかった。


「ぐへへへ。よく見りゃ、いい女だ。尻も乳もでけェぜ」


 オークは舌なめずりをし、としえに近づいていく。


「今夜はお楽しみだな」


「……」


 としえは動けなかった。


 今すぐ立ち上がり、逃げ出さなくてはいけないのに、体がいうことを聞かない。蛇に睨まれた蛙とは、今のとしえのことをいうのだろう。四肢に力が入らず、それでいて意識ははっきりと現実を認識している。


「へっへっへ」


 自分はここで終わりなのか。


 せっかくこの世界に来て、夫の手がかりを見つけたと思ったのに。


 オークはその雄々しい体を見せつけるかのようにとしえの前に立つ。


 としえの中の女の部分が掻き立てられるような圧倒的な雄。


「……あなた、ごめんなさい」


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