学級委員長と不良少女

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学級委員長と不良少女 Ⅰ

 一時限目。数学。開始早々。


 最後列、窓側から二番目に座る私の、ひとつ前。

 彼女は今日も、ぐっすりと居眠りをしている。

 半袖から伸びる細い右腕を前に垂らし、左腕を畳んで枕にし、傷んで跳ねた長い黒髪が、机の上でぐちゃぐちゃに広がって寝顔を隠し、小さな肩がゆっくりと上下に動いて、とても穏やかな寝息を立てている。


「こら、白銀しろがね!」

 先生が、そんな彼女の脳天を教科書で叩いた。パァンという乾いた音が教室に響くと、クスクスとクラスメイトの笑い声が広がった。

「まだ授業中だぞ!」


「……」

 白銀さんはゆっくりと上体を起こした。両手で目を擦る。堂々と伸びをして、欠伸あくびを隠しもしなかった。先生の額に、血管が浮く。

「お前はいつもいつも……来年は高校受験なんだぞ。もっと自覚を……」


 ガタンと大きな音を立て、白銀さんが立ち上がる。

 椅子で床を擦る嫌な音が、先生の言葉をさえぎった。


「あーうざ」


 白銀さんはきびすを返し、私の横を通って、スタスタと教室の扉へ。

「かっけー」

「やっぱ白銀の眼力やば」

「先生ビビってんじゃん」

「もっとやれー」


 ささやき声と、笑い声。

 彼女はそんな声援に得意げな笑顔で小さく手を振って、なんと本当に教室を出て行った。


「……ほら静かに! 授業を続けるぞ」


 白銀魅月みづきは中一の頃から問題児だった。

 いつからか先生達も彼女の指導を諦め、授業の進行を優先するようになっていた。


「先生」


 私は立ち上がる。

 その勢いで、白銀さんの時よりもうるさい音が響いた。


 もう、我慢できない。


 あの女はすれ違い様、私にウインクをしたのだ。

 あろう事か学級委員長である、この私に。


 冒涜ぼうとくだ。

 真面目に勉強している、全生徒への。


 挑発だ。

 真面目に授業を受けている、私への。


「私が連れ戻します」


 先生の返事を待たず、私は教室を飛び出した。

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