22-2
「……げ、みかげ。みかげええええーーーーー!!!!」
「ぅはァッ!?!?」
心地よい眠りの中から突然呼び覚まされた。
目の前に琥珀ねぇがいる。
鳥が鳴いているから朝だ。
なんで起こされたのか分からなくてぽけーっとしていると、琥珀ねぇは呆れたように腰に手を当てた。
琥珀ねぇ、黒いネイルから紫色のネイルに変わってる。
金のラメが付いていて良い感じだ。
「みかげ、ショックを受けずに聞けよ?」
「え? 何が?」
「今日はラディアント学園の試験の日だぞ」
「へ、なんで? 試験は明日のはずだよね?」
「いや、あの日から丸一日寝てたんだぞ」
「エッ!?!?」
枕元のスマホを見る。
確かに日付がおかしい。
「憔悴してたのか何度起こしても起きなかったんだよ」
「そ、そんな……」
じわぁ。と涙が出てきた。
そういえば前も魔法を使った後寝すぎちゃったことがあったっけ。
「ちなみに今八時だぞ」
「アーーーーーッ!?」
やばい!
このままだと試験にも間に合わない!!
私がパニックになっていると、琥珀ねぇはポケットからバイクの鍵を取り出した。
「送っていくから早く準備しな」
「うわーんっ!!」
ベッドから転げ落ちるように這い出て、私はすぐに身支度をした。
ヘアアレンジをする隙もないから髪はおろしたまま。
服はクローゼットの一番手前にあったウエストがゴムで絞ってあるオレンジのパーカーワンピースに着替えただけだ。
一分で支度を終えた私を乗せて、琥珀ねぇのバイクは出発した。
頭が真っ白すぎて道中の記憶はあまりない。
気づいたらラディアント学園の校門の前に着いていた。
「琥珀ねぇ、ありがとう。行ってきます!」
「おう。頑張れよ!!」
琥珀ねぇに手を振って校舎に向かって走り出す。
ふと、私は校門の前にいた人物に気がついて立ち止まった。
「あれ……百華!?」
淡いピンク色の上品なワンピースを着た百華が校門に立っている。
百華は私を発見すると頬を膨らませて両手を腰に当てた。
「みかげ、遅いです! 遅刻しますわよ!」
「それより百華、体は大丈夫なの!?」
百華に駆け寄って360度見回してみたけれどピンピンしているようには見える。
「ええ。魔法師の方々のご尽力があって核も無事体に戻すことができました」
「そっか。良かった……」
私がホッとした表情を見せると、百華は「それで」と続けた。
「一緒に黒魔法を使おうだなんて言ってごめんなさい。それから、ありがとう……私を見捨てないでいてくれて」
百華が私の手をぎゅっと握る。
私はすぐに言葉が出てこなくて、ただ首を横に振った。
「ううん……。私、最初に百華が呼び捨てで呼び合おうって言ってくれたの、嬉しかったよ。だからなんていうか、気にしないで!」
「まぁ。なんですのそれ? 許す理由にしては軽すぎますわ」
と言いつつ百華は笑った。
その声に混じるように学園のチャイムが鳴る。
まずい、あと五分で試験が始まっちゃう!
「百華、行こう!」
繋いだ手を引っ張ろうとしたら、百華は私の手をそっと離した。
「私はもうそこには戻れません」
百華は真っ直ぐに私を見つめている。
「もう魔力の声が全く聞こえないんです。感じることもできない」
黒魔法の代償……。
黒魔法を使えば何か特別なものを失う。
その事が、頭に浮かんだ。
「それに、罪を償わなければ」
「あ……」
百華は禁忌を犯してしまった。
その者がどう裁かれるのか、知っている人はいない。
知ってはいけないのだ。
リュウですら、その後の詳細は明かされる事はなかった。
でも、百華は不安を感じさせないくらい自信に満ちた笑顔を私に見せた。
「大丈夫、これで良かったんです。さぁもう行かないと間に合わせんわ」
と言って百華は私の背をそっと押した。
少し走って後ろを振り返る。
すると、そばに停まっていた黒塗りの車から百華の両親が出てきて百華の隣に並んだ。
「みかげー! 頑張ってえぇー!!」
百華は聞いた事がないくらい大きな声で私を鼓舞した。
百華のお母さんとお父さんも私に向かって大きく手をあげている。
その清々しい三人の姿を見たら私も晴れやかな気持ちになって、ジャンプしながら手を振り返した。
試験が行われる部屋は、初日と同じ教室だ。
急ごう!
息を上げて試験会場に着くと、そこには受験生達が試験が始まるのを待ち構えていた。
廊下に一列に椅子が並べてあって名前の順に名札が付いている。
私はマ行だから一番最後だ。
着席したところで、ふと廊下の奥からヒールの音が聞こえてきた。
顔を上げると、教室の扉の前にザマス先生が立っている。
「では、試験を始めます。名前を呼ばれたら教室に入ってください。まずはーー」
早速一人目の試験が始まった。
みんな緊張しながら座っていると、突然教室の扉が大きな音を立てて開いた。
「ウワァアーーン!! おがあざーーんびええぇ!!」
中から男子が飛び出してきて、そのままどこかへ消えていく。
一体何があったのだろうか?
緊張感は増すばかりだ。
それから、大きな物音がしたり、拍手と歓声が湧き起こったり、逆に一切の音も立たなかったりと、様々な場面を想像させながら試験は進んでいった。
そしてとうとう……。
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