7 疑惑の入学試験


 マットな手触りの封筒は真っ白なリボンと一緒にシーリングスタンプが押してあって、どことなく高級感が漂っている。


 誰からだろう?


 おそるおそる開けてみると、中にはパール加工されているカードが一枚入っていた。


『三日月みかげ様


あなたはこの度本校の特別入学候補生に選ばれました。

入学試験受験希望の場合は下記の日程に本校へお越しください。


ラディアント魔宝石学園』


「え!? うそ、なにこれ!?」


 ラディアント魔宝石学園って言ったら名門中の名門、しかも瑠璃ねぇの母校だよ!?


 瑠璃ねぇは仕事は魔法省の職員でも、出身は宝石師学校だ。

なんで宝石師にならなかったのかは分からないけど……。

でも、そういうのって珍しいことではないらしい。


 ちなみに琥珀ねぇも一度は国から宝石師学校にスカウトされたけど、興味ないって断ったのだとか。


 私は目の前の手紙がまだ信じられなくて、何度も何度も読み直した。

大丈夫。小さく「うそでーす」とか書いたりしてない。


 でも、どうして急に?

しかもスカウトじゃなくて試験があるんだ?

あ、まさかロイヤル魔法学校みたいにお姉ちゃん達が優秀だから私もそうだと勘違いしてるとか?


 うん、絶対そうだ。

そうに違いない。

だけど……このチャンスを逃したらダメだ!


 私はまるで大金を目の前にしたかのように、手紙を持つ手を震わせながら顔を上げた。


「瑠璃ねぇ、琥珀ねぇ、私ラディアント魔宝石学園の入学試験が受けられるんだって……!!」

「え!? それ、本当なのか!?」


 琥珀ねぇは私から手紙を受け取って目を通す。

その後、勢いよく私を振り向いた。


「良かったじゃんみかげ!! きっと日頃の努力が報われたんだなぁ」


 琥珀ねぇは少し涙ぐんでいる。

だから、「きっとまた私が優秀だって勘違いしているんだよ」とは言えなかった。


「瑠璃ねぇ、私試験受けてもいいよね……?」

「もちろんよ。もうお父さんに許可はとってあるわ」

「え? 瑠璃ねぇはこのこと知ってたの?」


 大きく瞬きをしていると、瑠璃ねぇは質問には答えずにっこりと笑った。

あ、そう

瑠璃ねぇは魔法省で働いてるから何か知ってたのかもしれない。


 試験までの準備期間はたった五日しかない。

私はそれから毎日寝る間を惜しんでロイヤル魔法学校で使っていた教科書を読みふけり、お父さんにも電話で魔力の事を聞いたりして頭に詰められるだけの知識を詰め込んだ。


 魔法の技術は今更どうこうできるものでもないから、せめて私は知識で特化しないと関心を持ってもらえないだろう。


 そしてーー。

とうとう運命の試験日を迎えた。

猛勉強の成果で教科書は全部暗記できたし、あとは緊張しなければきっと大丈夫。


 当日の早朝、私は意気込んで勝負服を身に纏った。

トップスは赤いギンガムチェックのブラウスとケーブル編みの白ニット。

それにデニムのフレアスカートを合わせて、

靴は最近お気に入りの編み上げブーツを履いた。

ブラウスはフリルが付いたビックカラーがポイントだ。


「それじゃみかげ、頑張れよ!」

「うん! 琥珀ねぇ、送ってくれてありがとう!」


 私はラディアント魔宝石学園の校門の前で琥珀ねぇのバイクから降りた。

琥珀ねぇはウィンクをすると、ヘルメットをかぶり直してかっこよく去っていく。

その姿を見送ってから、後ろにそびえ建つ校舎を振り返った。


「それにしても……」


 豪華な学校ー!


 校門も校舎もロイヤルブルーに白金の装飾が施されている。

敷地が広大で、お花の咲き乱れる花壇や噴水が煌めく風景はまるで貴族のお屋敷みたいだ。

私は映画の中に入った気持ちになってドキドキしながら校内を歩いた。


「ここでいいんだよね……?」


 少し歩いてたどり着いたのは試験会場の201号室。

ここまでは案内の看板があったからスムーズに来ることができた。

でも少し気になるのは、誰ともすれ違わなかったこと。


 辺りは静まり返っている。

アンティーク調の金の取っ手がついた扉を、私は緊張しながらそっと開けた。

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