2 単刀直入に言って良いかな?
「みかげちゃん、大丈夫?」
「あ。瑠璃ねぇ! うん、大丈夫だよ」
瑠璃ねぇが上の階からやってきた。
魔法省のローブ姿は家では見ないから新鮮だ。
シルバーの刺繍とヴァイオレットの深い色がよく似合っていて、瑠璃ねぇの美しさが引き立っている。
「三日月さんの知り合いですか?」
と美青年は尋ねる。
私も三日月だけど、たぶん瑠璃ねぇに。
「ええ、末の妹なの。みかげちゃん、こちらは私の後輩のシトアくんよ」
「え!? 後輩!?」
私はテンパった。
美青年がローブを着ていなかったから、魔法省の人だとは思わなくて。
「あの、えと、三日月みかげです。姉がいつもお世話になっていましてまして、まする!」
「いえ。こちらこそ」
うわ、頭が空回っておかしな事を言ってしまった。
でもシトアさんは気にしていないようで良かった。
シトアって、苗字かな? 名前かな? 聞き慣れない響きだし外国の人?
というか、彼は社会人というには随分若く見える。
……あ! もしかして魔法省の後輩じゃなくて瑠璃ねぇの母校の後輩なんだ!
それで、インターンシップってやつで魔法省で働いてるとか?
と私が勝手に納得している頃、瑠璃ねぇが上品な仕草で腕時計を見た。
「みかげちゃん、私たちそろそろ行くわね。またお家でね」
「うん!」
もう少し瑠璃ねぇと話したかったけどお仕事の邪魔をするわけにはいかない。
だから私は素直に手を振ってお別れした。
「瑠璃ねぇー! 今日の夕飯はグラタンだよー!」
って、小さくなっていく瑠璃ねぇの背中に一言だけ声をかけて。
瑠璃ねぇは笑って手を振り返してくれた。
うちは少し特別な事情があるので、仕事が忙しい瑠璃ねぇと琥珀ねぇの代わりに私が家事をしている。
ちなみに料理は結構得意。
文化祭で出店した屋台には大行列ができたこともある。
「って、まずい! 早く面談室に行かないと!」
私は走った。
目的の部屋は廊下をまっすぐ進んだ突き当たりにある。
その扉をノックすると、中から「どうぞ」と松田先生の声が聞こえた。
「失礼します!」
元気よくドアを開ける。
でも、その中の光景に私はギョッとたじろいだ。
何故か松田先生の隣にデプッとした校長先生が座っている。
なんで校長先生までいるんだろう?
嫌な予感がする。
あ、そうだ。
進路志望の紙をまだ出していなかったからきっとその話だ!
私は気を取り直して席についた。
ここは先手必勝だ。
「松田先生。高等部への進学の件ですけど、私は魔宝石コースに進みたいです!」
”魔宝石”とは、魔法で作ったクォーツという鉱物に魔力を閉じ込めて作る人工の宝石のこと。
込められた魔力によって便利な道具になったり、身につけるとその人の能力が上がったりする。
人間は魔法が使えると言っても実際は上手に使いこなせる人は極わずか。
だからそれ以外のみんなは、”宝石師”と呼ばれる特別な人たちが作った魔宝石を使って便利に暮らしている。
私の言葉を聞いた松田先生は、私を見たり校長先生を見たりとオドオドしていた。
「あ、えっと。三日月さん、それはつまり宝石師を目指したいってこと?」
「はい! 私は魔宝石のファッション性に注目しているんです。道具としてではなくて、アクセサリーのように身につけられたらなって」
もっと身近で、毎日選ぶのが楽しくなるような魔宝石を作る。
それは私の小さい頃からの目標だ。
「それは良いね。でも宝石師は魔法師の上級職だから、まず魔法師の資格を取る必要があるのは知っているよね?」
松田先生は私が答える前にひとつ頷いて、再び口を開く。
「しかも宝石師になるための宝石師学校は国からスカウトされないと入学できないから、覚悟がいるよ。たとえ魔宝石コースで良い成績を残したとしてもスカウトされるとは限らな」
オホン。と校長先生が咳払いをして、松田先生の話を遮った。
「松田先生、それより本題に入ってください」
「あっ。そうでしたね校長」
「え? 本題って進路のことじゃないんですか?」
松田先生を見ると、先生は緊張感を醸し出すようにごくっと生唾を飲んだ。
「三日月さん、ショックを受けるかもしれないけど……単刀直入に言ってもいいかな?」
「えっこわ!? なんですか!? 嫌です!」
「うん、じゃあ言うね」
嫌って言ったじゃん!
聞いちゃいないよ!
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