初陣デモンストレーション

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〜カジュアルマッチ(ソロ/フラット)対戦ルール〜


試合勝利条件

・2ラウンド先取。


ラウンド奪取条件

・制限時間内に相手を撃破。

・タイムアップ時、残りHPの割合が相手を上回っている。

※戦闘時間は1R10分。


プレイヤーのレベルは、上限がレベル50になるように調整


対戦中におけるアイテムの使用、並びに装備の入れ替えは禁止


一部装備、アビリティに制限あり

〜以下、使用制限装備〜

………………

…………

……


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「へえ、思った以上にガチガチにルール決まってるのな」


 個室に設置された端末の画面を眺めながら俺はそう呟く。


「当然だ。だからこそ対戦がe-Sports化しているんだろう」


「でもレギュレーション自体はソマガのクラシックルールと大体一緒っぽそう。なら、いつもの感じでやれば問題なさそうだね」


 あー、言われてみればそうじゃん。


 思い返してみると、ソマガも対戦ルールは結構ちゃんとしていた。

 つっても、最終的にFree-for-Allなんでもありの混沌ルールで戦るのがデフォになってたけど。

 もしかしたら運営は、ソマガをe-Sportsとして盛り上げるのを狙ってたのかもな。


「それでどうやって対戦すんだ?」


「やりたいルールを選択して、画面下にあるマッチング開始を押すだけでいい。後は自動でマッチングしてくれる」


 そう言ってゼネが操作を完了させると、程なくして画面が切り替わる。




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対戦相手が見つかりました。

まもなく戦闘マップへ転送開始します。


プレイヤー:メガルどん(ランクF)

MAP:荒野A


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「おお、マッチングが早え……!!」


 凄えな、ものの数秒で見つかったぞ。

 野良だと一回マッチングするまでに数十秒かかってたソマガと大違いだ。


「早速、決まったようだな。じゃあ、ちょっと行ってくる」


「おう、行ってこい」


「行ってらっしゃい! ドーンと凄いのかましちゃってよ!」


「ああ」


 短く答えれば、ゼネの姿が光の粒子となって消える。

 直後、部屋の壁にある大型ディスプレイの画面が切り替わり、映し出された映像の先にゼネともう一人プレイヤーらしき人物が出現した。


「きたか」


 二人がいるのは、未開領域を彷彿とさせる何もない荒野だ。

 多少、高低差はあるものの、ほぼほぼ平坦な地形に加えて遮蔽物になるものが殆ど無いから、純粋な実力とロール、武器の相性が勝敗を分けると思われる。


「……あ、すぐ始まるってわけじゃないんだ」


「不意打ち防止とかじゃないか? 転送と同時に早撃ちで頭パーンで負けとか洒落にならねえだろ」


 ソマガですら超絶早撃ち特化ガンマンがそれなりにいたんだ。

 だったらサガノウンにも似たようなビルドの奴が一定数いてもおかしくない。


「うーむ、確かに。それじゃあ、ガンナーが有利になり過ぎちゃうか」


「転送位置が固定だったらの話だけどな」


 ゼネも対戦相手もまだ実体が無いからか、姿は半透明となっている。

 ディスプレイにはカウントダウンが表示されている辺り、ゼロになった瞬間に肉体が実体化——そのまま戦闘開始になるって流れか。


 おおよそ三十メートルの距離で対面するゼネと敵プレイヤー……メガルどん。

 ゼネは短剣型の儀礼剣二振りを形成し、メガルどんは右手に片手剣、左手にハンドガンを喚び出す。


「これだけだとハッキリと型が読めねえな。パッと見だと、ガンナー寄りのアタッカーって印象があるけど」


「アラヤの見立てで合ってるんじゃないかな。見た感じ初心者っぽそうだし。ブラフは無いと思うよ」


「それもそうか」


 マッチング画面で表示されたプレイヤーネームの横にランクFって書かれてたのもあるけど、そもそもの武器の構え方がいかにも戦闘慣れしてなさそうな雰囲気を醸し出している。


 とてもじゃないが、そんなプレイヤーが見た印象から乖離した戦闘を仕掛けてくるとは考え難い。

 そういう意味だと、逆に対戦相手が可哀想に思えてしまう。


 ——今から完全な初見殺しを喰らうことになるだろうから。


 そして、カウントダウンがゼロになった瞬間だった。


 戦闘開始と同時にゼネは両手に光の弾丸を生成し、メガルどんに向けて射出する。

 まさかゼネが魔法を使ってくると思ってなかったのだろう。

 メガルどんの表情と動きがビタリと固まった。


「あちゃー、見事に引っ掛かっちゃったね」


「でもあれで本当はソーサラーですって見抜けっつー方が無理あんだろ」


 ゲームに慣れたプレイヤーならゼネの剣が儀礼剣だって気づけそうだけど、初心者帯にそれを要求するのは無理がある。

 とはいえ、完全に意表を突かながらもメガルどんは、すぐに回避行動を取りつつ、ハンドガンで光の弾丸の撃墜と応戦を試みる。

 だが、初動が遅れてしまったのと意識を魔法に割かれたのが致命的だった。


 僅かな隙を突いて懐に潜り込んだゼネに斬撃を叩き込まれ、そのまま為す術なくポリゴンへと散っていった。


「これで一本奪取。もう一回撃破できればゼネの勝ちか」


「だね! もう何となく展開は読めてるけど」


 言っている間にメガルどんが開始地点にリスポーンし、ゼネも実体が無くなった状態で再転送される。

 それから再びカウントダウンを挟み、第二ラウンドが始まる。


 今度はゼネを近づけさせまいと片手剣をハンドガンに切り替え、中距離での撃ち合いに持ち込もうとするメガルどん。

 さっきのラウンドでの流れからして、ゼネを近づけさせたくなる気持ちも分からんでもないけど——、


「そうすると射程の不利を押し付けられるぞ」


 ゼネが距離を取りながら光の弾丸を細かく分割させて射出する。

 メガルどんは二丁拳銃を乱射して、ゼネの魔法を迎撃しようとする。


 二丁拳銃とはいえ、ハンドガンの連射力じゃ捌ききれないだろ。


 俺の予想通り、光の弾丸全てを撃ち落とすことは叶わず、何発かはメガルどんを掠めていく。

 ハンドガンの射程外から一方的に放たれる光の弾丸によって、じわじわと削られていくメガルどんのHP。

 このままだとすり潰されるのも時間の問題だ。


 結局、メガルどんは中距離での撃ち合いを諦めて、距離を詰めることを選択する。

 再度片手剣に切り替え、やや強引に接近を試みるが、


「——あ」


 ゼネが放った二つの光球が、メガルどんの目の前で融合する。

 刹那——生み出された光の炸裂と衝撃波がメガルどんを飲み込み、一瞬で蒸発させるのだった。




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公式用語ではないのですが、ゼネラルや今回の対戦相手のように、二つ以上のポジションでの戦い方を兼ね備えるプレイヤーは、オールラウンダーと呼ばれ、結構人気が高いです。

ただし汎用性が高い分、パラメーター配分だったりセットするアビリティの構成といったビルド難易度が高く、そもそもの運用が難しかったりするので、下手に手を出すと器用貧乏になりかねない地雷ポジションでもあります。

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