第1章

覇権ゲーに殴り込みに行こう

 ソマガのサービス終了からおよそ一ヶ月。

 今月から高校生になり、明日から世間はゴールデンウィークに突入しようとしている中、俺はある一本のゲームソフトをVRギアにインストールしていた。


『Saga of The Unknown』——略称”SOU”、”サガノウン”。


 マナという未知のエネルギーを利用することによって、現代並みの科学技術を誇りつつもファンタジー要素も無理なく取り入れられた世界で、プレイヤーは四つある陣営のどこかに流れの傭兵として所属し、迫り来る未知の脅威生物と戦ったり、世界を自由に冒険したりしながら、隠された世界の秘密を解き明かす……って感じのストーリーのVRMMORPGだ。


 去年の夏頃に発売されたゲームで、βテストによる前評判やら正式にリリースされてからの評判を見る限りの印象だが、一言で表すのであればソマガの完全上位互換である。


 グラフィック、ストーリー、戦闘、システム。

 残念なことに例を挙げればキリがないくらいには、ソマガがサガノウンに勝てる所が無かった。


 まあ、世界観からしても、文明レベルを現代並みに引き上げたことで自然に銃要素を落とし込めたサガノウンと違って、ソマガはよくあるファンタジーの世界に銃要素をとって付けたようにぶち込んだだけだったしな。


 そして、元々末期に片足突っ込んでいたのもあったが、ソマガがサービス終了に追い込まれたのは、十中八九このゲームがMMOの覇権を取ってしまったことに起因するだろう。


 剣と魔法と銃のファンタジー、という世界観が思いっきり被っている上に、ほぼ全ての要素においてSOUの方が上回っていたからな。

 事実、サガノウンが正式リリースされてからのソマガのプレイヤー人口の減り具合はそれはもう酷い物だった。


 だから去年の秋にソマガがサービス終了の告知をした時は、ちょっとだけサガノウンを恨んだ事もあったが、どっちかというと非があるのはユーザーを繋ぎ止められなかったソマガ運営にある。

 なので、色々葛藤した末に仕方ないと割り切ることにした。


 ——けど、まさか俺がサガノウンに手を出す事になるとはな。


 正直、ソマガがサ終するまでは逆張りが働いて、このゲームをやる事はないだろうと思っていた。

 でもソマガに似たコンセプトで面白そうなのとなると選択肢がこれくらいしかなかったから、重い腰を上げて殴り込むことにした。


 ソマガの完全上位互換と言われたこのゲームがどんなものなのか気になるし……それにもし、アイツらともう一度会えるとしたら、サガノウンが一番可能性が高そうってのもあったしな。


 ソマガのサービス終了から丸々一ヶ月近くもかかったのは、単純に新規プレイヤーが始められるようになるのを待っていたからだ。

 今でも月一ペースでサーバーを増設して新規勢の受け入れ体制を強化しているものの、未だに待機勢の数の方が上回ってしまっているというのが現状だからな。

 なんだかんだでパッケージ版は今でも売り切れることが多いらしいし。


 それから色々と今は亡きソマガを思い返している間に、インストールが完了する。


「……お、終わったか」


 それじゃあ、ソマガにトドメを刺した覇権ゲーのクオリティ……とくと見させてもらうとしようか。


 VRギアを装着して俺はベッドに横たわり、ゲームを起動するのだった。






   ◇     ◇     ◇






 タイトル画面から[Game Start]を選択すれば、いつの間にか俺は四方全てが真っ白な空間に立っていた。


『……生体反応を確認。認証を開始します』


 直後、どこからか機械的な音声アナウンスが聞こえてくる。


「おー……中々にSFチックな雰囲気あんじゃん」


『——認証エラー。一致する生体情報が存在しません。新たな識別情報を作成します』


 言い終えると同時、目の前にウィンドウが出現する。

 どうやらキャラメイク画面のようだ。


「凄えな……つーか何、この設定の項目数。顔の形から体型、髪型まで全部ミリ単位で設定できるのかよ」


 凝り性の人間だったらキャラメイクだけで半日は余裕で潰せるぞ。

 プリセットも数百単位であるし、見てるだけでちょっとテンション上がるな。


「つっても、見た目は固定でやってるからあんま関係ないけど」


 というわけだから、イメージに近いプリセットを原型にして少し数値を弄って、ちゃちゃっと容姿の設定を完了させる。


 そうして完成したアバターは、長身でややがっしりした体格の男性だった。

 サイドを残し、ツンツンと髪を逆立てたオールバックの黒髪と鈍色の瞳が特徴で、ソマガで使用していたアバターもこのような見た目にしていた。


「ま、ざっとこんなもんか」


 あまり見た目ばかりに時間をかけてるとキリがないし、さっさと次の設定に移るとしよう。

 重要なのはここからだからな。


「次の設定はレンジとポジション、それからクラス……か」


 サガノウンの特徴としてRPGでありながら、戦士や魔法使いといったような分かりやすいジョブが存在しない。

 その代わりに採用されているのが、ロールシステムだ。


 得意な交戦距離を表す”レンジ”。

 どの武器種をメインに据えるかを示す”ポジション”。

 それと立ち回りの傾向を決定する”クラス”。


 これら三つの要素によって構成され、総称したものをロールと呼んでいるらしい。


「……なるほど。どれを選ぶかによってステータスとか習得できるアビリティに補正が入るようになってるのか」


 例えばレンジをミドル、ポジションをガンナー、クラスをストライカーにすればMPとTEC技術力にステータスに補正がかかり、習得できるアビリティは攻撃系のものが多くなる。

 ロールはキャラを育成する上で今後を大きく左右する要素ではあるが、後からでも簡単に変えられるっぽいから気軽に決めても問題はなさそうだ。


「んじゃ……それなら」


 レンジはクロス、ポジションはガンナー、クラスはタンクで行こう。

 多分、これでソマガでの戦闘スタイルに一番近いものに出来るはずだ。


 残る問題は装備できる武器が俺のイメージと合致しているかどうかだが……うん、大丈夫そうだな。


 今のロールで使える武器を一通り確認した後、利き手側であるメインウェポンにはショットガンを、反対側のサブウェポンには大盾を装備する。

 近、中距離で高火力の範囲攻撃を叩き込みつつ、近距離アタッカーにも渡り合える為の構成——これでソマガの時と同じような戦い方を確立できそうだ。


 ロールと使用武器が決まったなら、次はパラメーター設定だ。

 このゲーム、ある程度であれば初期パラメーターを弄ることができるらしい。


 パラメーターをどう調整も悩みどころではあるが、これもソマガの時と似た感じの配分にすればいいか。


 HP体力DEF防御力をやや耐久を厚めにした技量特化ビルド。

 これがサガノウンでも通用するかは別ではあるけど、まずは慣れたやり方でやるのが一番だ。


「そんで残るは……所属する陣営か」


 東西南北に配置された四つの中から選ぶ必要がある。

 ただこれに関して言うと、どこに所属するかはもう既に決めてある。


 北の陣営——セプス=アーテル。

 ここにした理由は四つの陣営の中で一番人気が無いから、以上。


 詳しい理由は調べてないから分からないが、まあそこら辺は実際にやってみれば分かるだろ。

 一応、ロールと同様に陣営も後からでも簡単に変えられるとのことだけど、こっちは多分そうそう変えることはないと思う。

 安易に人気どころに行くのは負けな気がする。


 最後にプレイヤーネームをいつも使っているアラヤと入力すれば、これでキャラメイクは完了だ。


「よし、いっちょ暴れてやりますか……!」


 最終決定を押せば、アナウンスと共に、視界が真っ白に染まった。


『——生体情報の登録を完了しました。スキャン開始……認証完了。貴方をセプス=アーテルへ転送します。ご武運を』

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る