423話 ぼくたちは悪い子

あれからいろいろあったけど、ぼくたちはがんばった。


すごくがんばった。

意地でもがんばった。


女神さまに魔法使わせないために、戦わせないために――恩を少しでも返そうって、がんばった。


ぼくたちもそれなりに強くなった。

みんなでの戦いにも充分に慣れた。


たとえば、大きい部屋での戦い。


キャシーお姉ちゃんによると「中ボス戦ってとこね」らしいところ。


こういうところはさすがに魔物が強すぎるから、ぼくたち5人で露払い。


そこで出てきてた怪鳥と怪物たち――は、女神さまが1人で倒しちゃった。


……そのときに魔法使ってたんだけど……うん。


一瞬で部屋中に氷の矢をばらまく攻撃は、すごく怖かった。


みんなで怒った。


そのときの困った顔が、ちょっとおかしかった。

「女神さまもこんな顔するんだ」って思った。


空っぽの宝箱もあった。


ううん、空っぽじゃなかったんだ。

なんでも出てくる袋が入ってんだ。


なんだか汚かったけど、きっとものすごく古いものだからなんだって思った。


お酒、綺麗な水場の箱――その、おしっことか出すとこだって教えてもらった――、上からお湯が流れてくる箱。


光る板、いろんな道具、お酒、あとお酒。


さすがは女神さま、なんでも出せるんだってみんなで嬉しがった。


……それに、なによりも――食べたことのない味、嗅いだことのない匂い、おなかが膨れて眠くなるっていうすごいごはんも出せるようになった。


毎日違うおいしいものを食べられて「まるで天国みたいだね」って話し合った。


それからも、女神さまは鍛えてくれた。


鍛えてくれると同時に、いくらでも入るらしいその袋へ――その場に落ちてた石1個まで丁寧にしまい込んで。


「きっと、どんなものでも役に立つんだって教えてくれてるんだよ」ってお姉ちゃんも言ってた。


そうしてどんどん深いところへ、毎日少しずつ進んでいって。


……途中、爆発する罠で床を壊して、そこから矢を投げ入れたりしてたのはさすがは女神さまって感じだったけど。


そんな毎日での「ゃんぷ」、楽しかったな。


――で、長い長い階段を進んだ先で――着いた。


着いちゃった。


あの、おっきすぎて先まで見えない、まるで外だって感じる広さの階層。


後でキャシーお姉ちゃんが言ってたところによると「大ボス部屋」なんだって。


もっとも、危なすぎるからってぼくたちはノームさまに追い回されたんだけど――


「……大丈夫、でしょうか……」

「あたしたちにケガさせないようにっていう気遣い……だと良いんだけどな」


「う、うん……女神さま、とっても強いし……」

「しかし、おひとりで本当に……だって、こんなに階段も長かったし……」


どうしても心配しちゃうぼくたち。


ううん、知ってる。


女神さまはとんでもなく強くって、ぼくたちなんか本当にお荷物なんだって。


「……でも、中ボスのとこと比べると階段の長さ的に……だとすると、敵の数が多すぎて……」


後ろからノームさまに押されながら、みんなでキャシーお姉ちゃんの独り言を見守る。


――ずぅん。


「……アルテさまが」

「戦い始めたな……」


「おねえさま……」

「……信じましょう」


それからひっきりなしに響いてくる、音と振動。


「……ねぇ、この階段ってセーフゾーンよね。 今まで1回もモンスターが入ってきたりしなかったわよね?」


「え、ええ……」

「だな。 だから逃がしたんだろ」


――ずぅん。


「うわっ!?」

「きゃあっ!?」


思わずで転びそうになるほどの衝撃。


「……あんな頑丈な壁を隔てても、こんな攻撃。 いくら上位存在な女神様だって、ずっとはムリよ……ゲーム的に言えばMPとかSPとかスタミナが持たない。 思いだしてみれば、中ボス戦だって矢が切れて……魔法使って、息が切れていたもの」


「け、けど……」


「――アタシはイヤだ」


転びそうになったぼくを支えてくれてたお姉ちゃんの手が震えている。


「もし、もしだ。 万能の女神様っつっても、今は弱ってんだ」

「う、うん……」


「ええ……そもそもノーム様がこのお姿ですから」


ちらり。


【?】


ぱたぱたと飛んでいる、手に乗る大きさのノームさま。


「本来なら双神――双子の神ですので、2人で初めて本来の実力のはず」

「……じゃ、じゃあ、アルアさまの戦う力は……半分……」


ずん。


ずぅん。


大きな音と揺れが響く。


――みんな、思っていることは一緒だ。


ただ、女神さまの言いつけに逆らいたくない。


その気持ちだけで、動けなくなっている。


……なら。


「……階段から出ないで」


ぽつり。


怖いけど、きっとみんなが考えてることを、ぼくが言う。


「持ってる矢と、使える分の魔法。 それを攻撃されないところから全部撃ち尽くして、ちょっとでも負担を減らせたら」


「だな。 アレクもたまには良いこと言うじゃんか」


わっしゃわっしゃと頭を撫でてくるお姉ちゃん。


その顔は……すっごく嬉しそう。


「……アルア様は、お優しいですから。 後で怒られようと」

「はい。 わたしたちが、どうしてもしたくって」


「そうね。 たまには怒られたって良いわよね! だって私たち、子供なんだもん!」

「ちらっと覗いて、必要なさそうなら引き上げりゃ良いんだ。 な、アレク」


「うん」


【待】


【wait】


【↑↑↑】


――ぴこぴこと出してくる記号は、多分困ってるって言っている。


「ごめんなさいノームさま。 ぼくたち、本当はやんちゃなんです」


階段を降り始めると、ぐいぐいと顔を押してくるノームさま。


けど、ぼくでさえ止められないほどの力。


――それほどまでに戦い抜いて、弱っているんだ。


なら。


「……アルテさま。 ぼくたち、今日だけ」


かちゃり。


みんなが弓を装備する音。


「――悪い子に――なりますっ」



◆◆◆



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