409話 「私たちが『女神さま』と出会う前のこと」 4

「お姫様たちがビビーとリリー。 あたしたちがアリスとアレク。 ……んで、あー……」


「……ずっと泣いててごめん。 もう大丈夫……すんっ……私はキャシーって言うの」


すっかり真っ赤になった目元をこすりながら、それよりも真っ赤な髪の――うん、こう、独特な服を着たやつが言う。


なんか薄っぺらい布だけどやけに形がはっきりしてて……やっぱ独特だな。


「連邦国の……州っていうところに住んでたの……ある日、映画の撮影かって思うような爆発とかが各地で起きて……本当にモンスターが現れたんだって、テレビで言ってて……ネットでも、怖い映像ばっかり流れてきて……」


……やっぱよく分かんねぇ言葉ばっかだ。


「話の途中で申し訳ありません、キャシー様」

「え? う、うん……」


「――わたくしたちへ。 翻訳魔法が働いている……様子です」


「翻訳魔法?」


「って」

「なに……?」


翻訳魔法。


知らない魔法だ。


「……わたくしの……故郷では、全域に、女神アルア様のご加護により。 ……ええと、簡単に申しますと……異なる言葉でも聞き取れる魔法、でして」


「んじゃ、ここにもそのアルア様ってのが?」

「いえ……異なる世界でしょうし、さすがに届かないとは思いますが……」


ふーん、アルア様ねぇ。


人に恩恵もたらしてくれる大精霊なら、1度で良いからお目にかかってみたいものだねぇ。


「た、ただ、お互いに知らないことはよく分からなくなったりするの……知らないことは、知らないままだから……ですね、おねえさま」


「ええ。 便利ですけど、誤解も起きやすいのが翻訳魔法です」


お姫様姉妹が、あたしの知らない魔法について語る。


「……なるほどな、だから分かったり分からなかったりすんのか」


「ええ、ですから、分からないものは分からないと、お互いに口にしませんと」


「分からないってことがわからねぇってことか……ややこしい」

「で、でもお姉ちゃん、おかげで話せてるんだし……」

「分かってるって、アレク」


部族で1番頭いいヤツよりも、もっと頭が良さそうなビビー。


正直、言ってることすら良く分からないけど……とりあえず「それ分かんないんだけど」って言えば良いのか?


ぱちぱちと火花が飛び散る。


……ビビーたちの魔法がなけりゃ、木くず見つけてもあったまることすらできなかったな。


「――とにかく、ここを出るまではあたしたちは仲間だ。 互いに協力しねぇと、出る前に死んじまう。 こん中で最年長だし、何か偉いって言うヴィヴィアをまとめ役に」


「あ、あのぉ……私、9歳……」


「えっ」

「あら」


「あ、あぅ……」


……この中で1番弱っちそうなのが年長か……いや、確かに背もあるけどよ……てか翻訳魔法の説明で普通に忘れてたわ、こいつ――キャシーのこと。


「あ、でも、私は何もできないし……」


ぽそぽそ。


赤毛のキャシーがおずおずと手を上げ、でもやっぱ下げる。


「………………………………」

「………………………………」


ビビーとあたしの目がぱっちりと合う。


「……慣れるまでは……わたくしたちより経験もレベルも高そうな、アリス様にお願いしても……?」


「良いけどよ、様はやめてくれ」


互いに探り探り、まだよく分からねぇしここもいつ魔物が侵入してくるかすらわからねぇから気が抜けない空間。


そんなところで、あたしたち5人は知り合ったんだ。





「……マジかよ」

「お、お姉ちゃん……」


「……こ、こんな軍が」

「おねえさま……」


「……あれ、CG……じゃ、ないのよね……これ、本当に生きて人間を襲ってくる、モンスターなのよね……」


――あたしたちは、水場と木の実を探すために5人で動くことにした。


けど、どこへ行くにしても洞窟の中ってことには変わりない。

そして、ここが魔物の縄張りな以上、どこへ行っても襲われる。


ビビーは魔法が強い。


魔法を使うときだけ髪の毛が光って銀色になって、なんかこう……綺麗だ。


お姫様って言ってたもんな。


んで、リリーもビビーほどじゃないけど魔法が使える。


一方で、体は弱い。

足も遅い。


だからアレクとあたしが敵を見つけて飛び出して引きつけて、2人に始末してもらうってのを繰り返した。


……ちなみにキャシーは魔法も使ったこともないし、魔物を見たら漏らしてた。


みんなで気づかなかったフリはしてやったが……気も弱いみたいだしなぁ。


まぁ初めて見るみたいだし、仕方ねぇか。

アレクも最初のころにやらかしてたしな。


でも、キャシーは……多分、すごく頭が良い。


もしかしたら勘が良いだけかもしれないけどな。


ここは虫の巣みたいに道が分かれてて、どこも似た作り。

だからすぐに場所が分からなくなった。


けど、赤髪のは場所を全部覚えているばかりか「次はこっち」だとか「あっちの方が良さそう」だとか、すらすらと言ってのける。


……まぁそれが「ゲームでマッピングしてるみたいだから」ってのは分からなかったけど。


で。


「……風が抜けるし、魔物の気配も遠いからって来たけどよ……」


――目の前には、崖。


そのはるか先――暗いのに見渡せる、でっかい洞窟。


その先には――数え切れない数の魔物が居た。


いや――並んでいた。


「これが……魔王軍……」

「ち、ちじょうしんこう部隊……なのでしょうか……」


――――――――あれは、やべぇ。


「あ、あんな数の魔物……お姉ちゃん……」


あたしもちびりそうだ。


あの1体1体が、あたしたちが束になっても――攻撃すら届かずに、食べられる。


まだまだ子供のあたしにでも、分かるんだ。


「……私たちのこと、気づいてない……? 索敵スキルとかあって、その射程外だから……? 条件は高さ……? それとも距離、あるいは両方……気づく前に声とか普通に出しちゃってたけど、単純に遠いから? 確かこういうゲームでは……」


……けど。


こんなのを見て、また盛大にやらかすかと思ったキャシーは、また変なことをつぶやきつつも冷静に観察しているらしい。


「さっきモンスターを倒したら、結晶と、粗末だけど明らかに人工物の袋とかが出てきた……ハズレでも木くずとかだから、焚き火にはできる……なら、モンスターを倒すとお金になる結晶と、ドロップ品が出るタイプ……伝統的なRPGを想定すれば……?」


……ふぅん。


足の速いあたしたちに、魔法の使えるお姫様たち、んで全体を見ているちょっと変な服のやつ。


……これなら、ここから脱出するまでなんとかなるかもしれねぇな。



◆◆◆



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