408話 「私たちが『女神さま』と出会う前のこと」 3

「……なるほどな。 お前たち……悪い、お姫様たちのとこも魔王に……か」


「構いません。 わたくしたちも、この世界では身分などありませんから」

「おねえさま……」


なんでも、どっかの世界のお姫様だったらしい白色の髪の姉妹。


国ってのはいまいち分からないけど、でっかい部族の長の娘ってことらしいな。


服は確かに見たことない模様だったり細かい刺繍があるし、何よりしゃべり方が聞き取りづらい。


魔力もすごかったし、これがお姫様ってやつなのか?


あたしたちにはよく分からないけどなぁ。


「ぼ、ぼくたち、助かりました。 ここの魔物って強くって……」


「あたしたち2人なら、疲れてさえいなけりゃなんとかなる位階の奴らなんだが……急にこんなとこ来たしなぁ」


……そんな2人と比べると、弟のアレクの着てる服がみすぼらしく見えるな。


まぁあたしも似たようなもんだし、お姫様ってのと比べちゃしょうがないしな。


「……魔王……王国……もう分かんないよぉ……うぅ、ママ、パパぁ……」


「……んで、お前は魔王に目ぇつけられたばっかのとこと」


「キャシーだもん……お前じゃないもん……」

「……悪い。 口悪いんだよ、あたし」


んで、上から降ってきてからずっと泣いてるのが、赤髪のやつ。


「テレビ」とか「スマホ」とか「連邦国」とかよく分からないことばっか言ってたけど、落ち着いてきたら話は通じるみたいな女だ。


「……改めて、お互いに名乗りを致しませんか?」


「んなかたっ苦しい言い方するなよ、お姫様」

「お、お姉ちゃんっ」


「……あー、分かったよ」


気を抜くとすぐにガラが悪くなるのは、小さいころから周囲の大人にも年上にも注意されてた、あたしの悪いクセ。


……さすがに、つい昨日おとといで自分たちの世界が魔王軍――魔物の大群に襲われたやつらに対しては、確かに良くない。


聞いたところ、親とか食われたみたいだしな……そりゃかわいそうだ。


せめて、この赤髪を泣かせない程度には優しくしないとな。


「悪いな。 あたしはアリス、アリステア。 この通りに初歩の闇魔法しか使えねぇ」


「ぼ、ぼくはアレクシオス……お姉ちゃんと同じ……」


弟を立たせたあたしは、焚き火を囲む3人に――泣いてるアレクをあやすときくらいに声を抑えて話し出す。


「あたしたちの部族は、5歳になったら放り出されてな。 魔物と戦って生き延びる力を自分で何とかしろって言われるんだよ」


「お、お姉ちゃんは去年から……ぼくは今年からで……でも、まだぼく、上手に何もできなくって……」


アレクは弱い。


だからあたしが姉として生まれた。

だから、守ってきたんだ。


「んで、あたしの狩り場とか魔物との戦い方とかを弟のアレクに教えてたとこで、ここに迷い込んだってわけだ。 急にな。 帰り道探してたら魔物に囲まれて、んでお姫様たちに助けられた」


「……こちらは、あなたたちの世界の地下……ということでしょうか」

「いんや、魔力の質が違ぇ。 あたしたちも転移したってことらしい」


「たしかに、そうかも……」

「……そう言われてみると、そうですね……」


3人の中――白髪の姉の方、唯一落ち着いてまともに話せそうな彼女が、あたしを見上げてくる。


「実際、ここの魔物たちはかなり強いしな。 しかも数が多い」


「あの……魔物とは、モンスターのことでしょうか」


「ん? そう……じゃねぇか? さっきのだろ?」

「わたくしたちの知るモンスターは、死した後に屍を残すのですが……」


「死した……あー、死んだらってことか。 んじゃ、ここも何かしらの上位存在の領域なんだろ」


「上位存在……?」


「あたしたちんとこじゃ、大精霊とかだったけど……あんたたちのところには? なんか貢ぎ物とかしたら魔物から守ってくれるのって居ないのか?」


「……アルアさま……のこと……でしょうか?」


「ええ、わたくしたちの……世界では、女神アルア様のご加護がありましたが……確かに、神域周辺では先ほどのように宝石のように……」


「そうそれ、アルア……様ってのだろう。 存在がでっかいのに近いとそうなんだよ。 なんでかは知らねぇけど」


なんかちぐはぐな感じが気味悪いけど、一応話は通じるから我慢だ。


「んで? お姫様たちは?」


「……改めまして、ヴィヴィアン・ソレイユと申します」


「リリー……あ、エリザベス・ソレイユです……」


名前が長げぇ!


あと聞き取りづらいし言いづれぇ!


「……お前んとこは名前がいくつもあんのか?」

「ええ、場面により。 ……そうですね、こちらでは『ヴィヴィー』と『リリー』でお願いします」


「言いにくいから、お前のことはビビーで良いか?」

「構いません。 よろしくお願いします」


「んじゃビビーたちの歳は?」


「わたくしは今年で8、リリーは5です」

「んじゃ、リリーとうちのアレクは同い年ってことか」


「……そうなの……?」

「そう……みたい……?」


リリーとアレクが、同い年と聞いて初めて目を合わせ、こてんとふたりして首をかしげる。


……おっかなびっくりなアレクと似た感じだし、こいつらならすぐ仲良くなさそうだ。



◆◆◆



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