382話 塔
『「【以後、各建物内の1階の店舗で生活必需品の購入が可能です】」』
『「【今回の戦闘での討伐ポイントを付与してあります。 そちらをお使いください】」』
『「【ポイント――通貨の獲得には、対人の交渉のほか、規模は縮小しても引き続き登場するモンスターの討伐への貢献が必要です】」』
『「【なお、集団生活において必要とされる行動を取った方にも付与されます】」』
『「【両者合意の元でポイントの授受も可能です】」』
『「【必要最低限のポイントは継続的に支給されます。 過度な労働はお控えください】」』
全体アナウンスのような説明が、矢継ぎ早になされる。
それらは――少なくとも各人、各カメラから映る、最低でも数十万の人々に届いているようで。
神からの、直接の啓示を受けている彼らは、ひと言でも聞き逃さないようにと――ハル/アルとノーネーム/ノームへ、視線が集まっている。
【なんかハルちゃん、急いでる……?】
【けどこれって……まるでゲームみたいだな】
【おい】
【いやだって、このシステムってまるで】
『「【半数の世界の配信コメントでありますように、貨幣報酬システムは「適度な難易度のオンラインゲーム」を模倣しています。 その理解で問題ありません】」』
【えっ】
【草】
【さすがハルちゃん、話が早い】
【さすがは地球でぶらり旅してただけはあるな!】
『「【ダンジョンという環境も、モチーフとしてちょうど良いために魔王軍の侵攻に合わせて各世界に――――――――】」』
ぷつり。
話途中で、言葉が切れる。
「……ハルちゃん……?」
【えっ】
【もしかして:言っちゃいけないこと言った】
【草】
【えぇ……】
【は、ハルちゃんならありえる……?】
【あり得るからなぁ……】
【俺たちのせいで、なんかエラーが?】
『「【……休眠状態に移行します。 最後に、恐縮ですが――皆様には、この世界でおよそ11年を過ごしてもらった後、希望に応じて順次おのおのの世界へ転送――…………】」』
「……あ、ハルちゃんが!」
「お、堕ちる!?」
「えみさんっ、るるさんっ、おふたりを――」
最後まで言い終えず――天上の2人の片翼がそれぞれ消失し。
『「【■■通信管制――限定解、じょ……】」』
完全に脱力したためか手もほどけ、そのまま空から降ってくる双神。
「……わぁっ!?」
「だ、大丈夫!?」
「……先ほどは、あれでも滑空していたからまだ良かったんですね……」
――どさっ。
堕ちてきたふたりを、レベルで強化された身体能力で何とか受け止めたるるとえみ。
「……わ、ハルちゃん……すごい熱……!」
「こ、これがノーネームたん……胸が、あるのね……」
「最低です三日月さん」
「せめて名前で呼んで!?」
「最低です」
「名前すら!?」
「人として正直どうかと」
【草】
【草】
【うん……擁護できないよえみちゃん……】
【えみちゃん……】
【意識後ろって落ちてきたノーネームちゃんに対する第一声だもんなぁ】
【あ、くしまさぁんがえみちゃんから】
【ノーネームちゃんを無理やり引っぺがしてら】
【草】
「触れないでくださいね」
「え、でも」
「これ以上言わせないでください」
「………………………………はい……」
【かわいそう】
【えみちゃん……】
「――アル様とノーム様はご無事だろうか……」
「分からぬ……聖女様方の言語は難しいらしいからな……」
「聖女様とお付きの方たちが受け止めてくださったから大丈夫では」
「だと良いのだが……」
そう――周囲の「異世界人たち」が話し合う。
【ん?】
【あれ?】
【今……】
「あ、ハルちゃんたちは大丈夫……だと思います!」
「熱は38℃と、高いですがまだ大丈夫だと思います」
そう――るるとちほが、彼らへ「返答」する。
「そうか、良かった」
「しかし、簡単な意思疎通すらできないとなると……」
「翻訳魔法を使っても駄目だったからのう」
「恐らくは神による会話の禁止だとは思うのですが……」
「あちらの魔法文明……少しでも互いの知見を共有できたらなぁ」
「翻訳AIでも、解析できたけど再現不可能という原理不明の現象が……」
「……あれ?」
「む?」
「おや?」
「耳の丸い人族の言葉が……?」
「エルフの声が……?」
と――お互いに、はたと止まる。
【!?】
【もしかして……】
【話せてる……?】
【あの、ハルちゃんの最後言いかけてたやつ】
【あっ】
【通信管制……?】
【もしかして:これまで子供たちが簡単な単語いくつかしかできなかったのって】
【……ハルちゃんorノーネームちゃんが……?】
【けど、なんのために……?】
「――町の中心を見ろ!!」
誰かが気づき、そう叫ぶ。
――その言葉を「聞こえる範囲に居た全ての人間が知覚し」、彼の目線を追う。
そこには――――――――
「……あの町の中心に……」
「……塔……が……?」
【ふぁっ!?】
【でっっっか】
【なぁにあれぇ……】
【……あの町の中心って……】
【ハルちゃんたちのでっかい石碑……だったよな……?】
【確かな……】
【もしかして:バベル】
【あっ】
【世界統一言語……それを破壊した、バベルの塔の破壊……】
【まさか……】
【いやいや……いやいやいやいや】
【けど、あれ、先が見えないぞ……?】
【わぁ、どう見ても数百メートル、もっと先まで伸びてるぞぉ】
【すごーい!】
【哀れな……】
【ちょ、いろいろありすぎて何が何だか】
【大丈夫、ハルちゃんもノーネームちゃんもすやすやだから】
【草】
【あの、2人とも熱出てるって】
【大丈夫だろ、きっと】
【そうそう、起きたら……薬局に置いてる、病気のときに飲むタイプのお酒、奉納してくるか……】
【草】
【冗談のようだけど、多分ハルちゃんには抜群に効きそうなのがねぇ……】
【ハルちゃんはお酒関係の神様だもんな!】
【お酒関係(呑む専】
【草】
◆◆◆
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