369話 ないないはおしまいらしい

「おしまい……ないないが?」


「ん」


こくり。


なんだか辛そうに頭を下げるノーネームさん。


でも、


「……ふへ」


にへら。


初めて――口元が、笑っていた。


【      】

【      】

【      】

【      】

【      】


【      】

【      】

【      】

【      】

【      】


【死ぬかと思った】

【10秒くらい心臓止まって焦ったわ】

【ああ、尊死ってこうやってなるんだなって】

【心臓って簡単に止まるんだね……知らなかったよ】

【俺……この戦いが終わったら人間ドック受けるんだ……】

【草】


【人間ドックは毎年受けようね?】

【1年に1回だよ?】

【若い人は親に借りてでも、25過ぎたら受けようね】

【若い人でも意外と病気するからね】

【おじさんたちとの約束だよ】

【はーい】

【草】


【それにしてもなにこのかわいいのほんとしにそうなんだけど】

【胸が苦しい】

【ダメだ、尊すぎてはじけ飛びそう】

【かわいいよ、ノーネームちゃん】

【どうしよう……俺、もうノーネームちゃんしか目に入らない】

【落ち着け】

【分かる】


【ノーネームちゃんが……ノーネームちゃんが笑ってる……!?】

【しかも疲れてとろんとした目で……ふぅ……】


【あ、ないないされない】

【ないないおしまいって……】

【ああ、きっと、今の爺さんたちが最後の……】

【え、でもそれじゃ、爺さんと一緒だった……】


「っと……」


ぎゅっ。


僕にしがみ付くようにしている彼女の全体重が一気に来て――僕は数メートルくらいひゅんと落ちるも持ち直す。


「……羽が……浮力が、なくなった……?」


「つかれた」


「……やすむ」


「ね?」


「……はい。 僕は大丈夫ですから……ゆっくり、休んでてください」


「ん……」


【    】

【    】

【    】

【    】


【これはしゃーない】

【骸になるのも致し方ない】

【これが、尊死……新しい感覚だ……】

【世界中でごりっと人口減ってそう】

【大惨事過ぎるけどしゃあない】


ノーネームさんの、羽が消えている。


輪っかも、消えている。


ひどい汗。


ひどい熱。


それが、抱きついた全ての肌という肌から、伝わってくる。

でも――彼女は、これまで見たことがないくらいに嬉しそうで。


「ん」


「みっしょ、ん」


「こんぷ、りぃと」


ミッション、コンプリート。


そう――口元を緩ませた彼女が、言った。


【      】

【      】

【      】

【      】

【      】


【      】

【      】

【      】

【      】

【      】


【ノーネームちゃんの笑顔が視聴者を襲う!】

【こんなの耐えられんて】

【なにこのかわいいの】

【ノーネームちゃんっていうの  百合妊娠出産したすごい子だよ】

【草】

【過去の過ちがいつまでも付いてくるね、ノーネームちゃん!】


「――GAAAA――――――!!!」

「オオオオオオ――――――!!」


下では、新しく出てきた人たちとまたポップしてきたモンスターたちがぶつかり合う。


その人たちは、今までのどの人たちよりも動きが俊敏で、遠く離れたここからでも殺気を感じるほどで。


「……これが、ノーネームさんのしたかったこと……ですか?」

「ん」


こくり。


目を閉じながら、荒い息を吐いている彼女。


「……がんばりましたね」

「ん」


僕の胸元に顔をうずめるようにしているノーネームさんは――普段よりも小さく感じて。


「……ほめ、て」

「はい。 がんばりました。 いい子いい子」


「……えへへ」


【カヒュッ】

【ア゜】

【ミ゙ッ】


【    】

【    】

【    】

【    】

【    】

【    】


【    】

【    】

【    】

【    】

【    】

【    】


【ダメだ、尊さの過剰摂取で】

【これ、マジで集団尊死しかねないぞ】

【集団尊死……斬新な概念だ……】

【始原が軒並みやられてそう】

【最寄りのAED……最寄りのAEDはどこ……?】

【草】


【あの、今……119番がえらいことに……】

【え? 冗談じゃなくて?】

【お前、同接がこの1年間トップの配信の威力を舐めてるのか?】

【ああ、そうだったねぇ……】


【ノーネームちゃんかわいい】

【かわいい】

【ないない……ないない、どこ……?】

【ノーネームちゃんがお疲れなんだ、そっとしておいてやれ】


【ていうか、あそこまで甘えてるノーネームちゃんとかレア過ぎない??】

【ハルちゃんに、ほっぺたすりすりしてて……うわぁぁぁぁぁぁ!!!】

【胸が……胸が苦しい……】

【尊さも過剰だと苦しいんだな……】


【天使……】

【百合天使、百合女神……うむ】

【お前……】

【分かる】

【ノーネームちゃんが……ノーネームちゃんが、ここまでかわいくなるだなんて……!】


【それに、まるで慈母のごときハルちゃんの目つき】

【これだけで一生困らない】

【えぇ……】

【ままぁ……】


【ハルちゃんとノーネームちゃんは  俺たちの……母なんだ……】

【これが、バブみというやつか……!】


――戦いの音が、再開されている。


さっきよりも威勢の良い人たちが、次々とモンスターを倒していて。


――ずぅん。


【ふぁっ!?】

【でっか】

【なぁあこれぇ……】


「……おっきな木のモンスター……?」


――立った状態だと――でっかい戦車なんか軽々超えるどころか、ごつい船並みの巨体を誇る木々が出現。


……なにあれ。


でっかすぎるブロッコリー……?


「……ノーネームさん、あれはちょっとまずいです、みんな踏み潰されちゃいます。 ちょっと焼いてきますから」


「ん」


ぎゅっ。


僕の袖を、離さないノーネームさん。


「ごめんなさい、離してもらわないと、あっちに」


「ん」


すっ。


彼女が、小さい指である一点を指す。


「だいじょ、ぶ」


「けど、町のビルくらいの大きさですし……動く根っこだけで、人がなぎ倒されそうだし……って、え?」


――――――ずぅん。


「……え?」


でっかい木が――すごい土埃を上げて――なぜか、横倒しになっている。


「?」


あ、あれ、遠くの空母さんとおんなじくらいの長さだ。


ってのは良いとして。


ついでで何体も横倒しになって、完全にのたうち回るだけになってるのもまた良……くはない。


え? 


なんで?


「あ、燃えた……?」


ぼぉっ。


まだ砲弾とか爆弾が届いてないはずなのに、それらは急に燃えだして。


「……一体、何が」


急にでっかいモンスターたちが出てきて。


なんか「勝手にすっ転んで」。


なんか「勝手に燃えてる」。


いや、助かるけど……なんで?



◆◆◆



ないないは、おしまいです。


少なくとも――今、この瞬間に必要な分は。



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