352話 気分は羊飼い
また上空へ戻った僕たちは、すぅっと息を吸い。
「ほら、魔法の準備してくださいノーネームさん」
「じゅんび」
ふわりと体から魔法を展開し、僕は金色、彼女は漆黒に光り出す。
【わー、すっごーい!】
【きれー!】
【すてきー!】
【ハル様、ノーム様、さすがでございます】
【草】
「じゃ、行きますよ」
「いく」
自然と背中合わせになり、お互いの羽がばっさばっさしているのを感じながら、同じタイミングで両手を広げ。
今度の召喚は大規模らしく、さっきの何倍の人と何倍のモンスターたち。
……また脳みそ酷使しそうだなぁ……早く終わると良いなぁ。
そう思いながら、その魔法を行使する。
「ホーリー」
「えびる」
僕たちの周りに、金色と漆黒の渦が浮かぶ。
あれ?
何か思ったよりも威力が――――
「――ジャッジメント」
「――じゃっじめんと」
省エネ版じゃない普通のホーリージャッジメント。
そのはずなのに、同じ出力なのに、なぜか威力が何倍にも膨れあがるその魔法は――やっぱり金と黒の螺旋を描きながら、全方向へ全目標を定めて飛翔していく。
でも、威力が何倍なもんだから、多分余って、余ったってことは余波で人が危ないかもしれない。
「――改」
「――かい」
だから、まるで――中級者になったころかな、石を1個だけとか矢を1本だけよりも、2個とか3本でやった方が効率が良いよねって気が付いたときみたいに。
「何でこんなことを思いつくし、思いつきでできるんだろう」って、やっぱり不思議に思いながら――僕たちは、打ち出したエネルギーの大半を、はるか遠くのまだ見ぬモンスターたちへまき散らした。
【わー】
【きれー】
【すごーい】
【すてきー】
【情緒が破壊された視聴者たちと平常運転の始原たちで草】
【すごい威力】
【2人の服もはためいているしな!】
【みえ……みえ】
【ないないされるぞ?】
【ハルきゅんとノーネームきゅんが、ぶらぶら空中で揺らしてる……?】
【えぇ……】
【姉御は最低な妄想してて草】
【本当に最低過ぎる】
【どうしてそんな発想に至るんだ……】
【え? あんたたちだって、ハルきゅんたちが布1枚で下はすっぽんぽんって分かったときおんなじこと言ってたでしょ? すーすーしてそうって】
【言ってたけど……】
【確かにそうだけど……】
【何も言えねぇ】
【草】
【今だって、きっと遠すぎて地上からは見れないけど、2人がおまたを全世界に公開してる素敵な場面って思ってるんでしょ?】
【もしもし始原? これ、不敬じゃない??】
【そうだよなぁ】
【ごめん、無理だわ姉御】
【やっぱり追放するしか……】
【え!? 待って待って!?】
【草】
【ばいばい姉御、楽しかったよ】
金と黒の矢を、危ない順にヒットさせ続けたから頭がくらくらする。
魔力っていう謎エネルギーはまだまだあるけども……集中力、持つかなぁ。
今の感じはあれだ、難しい専門書を読み始めたくらい。
でもきっと、もう何回もすると、それを眠かったりお酒飲みながら解読する難易度になるんだろう。
疲れるから嫌だ。
せめて1組ずつなら楽にできるのに。
集中力を使ったからか、そんなグチが頭の中に出てくるけども、ノーネームさんは必死なんだからがんばらないと。
下を見ると、僕たちに向かってぺたーっと這いつくばってる人たちの元へ、子供たちが順番に声をかけて回っている。
で、聞こえた人たちが立ち上がって子供たちのとこへてくてく歩き、元から着いてきてた人たちはてくてくと群れて歩いてるから……やっぱこれ、犬っころに吠え立てられて行き先を教えられてのこのこ歩いてる羊の群れじゃん……。
「ふぅ……ノーネームさん、大丈夫ですか」
「ん」
「無理しない範囲で、あと何回できます? 僕ならあと……10回くらいですけど」
「おなじ」
「……その回数で……足ります? ワープ?して来る人たちの救助」
「たりない」
「………………………………」
「ぜんぜん」
「……ですよねぇ」
またワープしてくる気配でげんなりする。
2回目までは分からなかったけども、さすがに3回目ともなればなんとなくで、それこそ探知スキル以前の気配ってやつで、モンスターの群れが次はどこに現れるのかが分かるようになってきた。
こうして人とモンスターが次々に出現してるのもノーネームさんの魔法なんだろうし、魔法使うならなんとなく分かるよね、この体なんだし。
「……あ、さっきの人たちよりひとまわり外にぐるりと出てくるんだ。 一応被らないようにしてるんですね、ノーネームさん」
「ふんす」
【草】
【かわいい】
【かわいい】
【どやってしてる無表情がかわいい】
「でも僕たちの負担のことは考えてないですよね」
「しゅん」
【草】
【しょげてる】
【かわいくて草】
【ノーネームちゃんがハルちゃんに話しかけられ続けてご機嫌】
【あー、それでか】
【普段より感情が出てる感じするもんな】
【こんなピンチなのにね】
【でもこのピンチ、ノーネームちゃんが作り出してるんだよ?】
【そうだった……】
【ま、まあ、ハルちゃんができるって前提だから……】
【ハルちゃんが嫌そうな顔してるのがたまらない】
【分かる】
【不敬?】
【処す?】
【ノーム様がないないされないのなら、もう現地の私たちがヤるしか……】
【そうだ、最近のノーネーム様は甘やかしすぎている】
【仕方ない、ここはプロバイダを脅して発信者を】
【ひぇっ】
【怖いから止めて ごめんなさいごめんなさい】
【怖すぎて草】
【こわいよー】
【ガチでやばい集団になってて草】
【ちょっとー、始原ってばー】
【脅かすなってばー】
【コメント欄の緊張感の無さよ……】
【ハルちゃんたちで無理なら誰でも無理だからな、もう楽しんで見るしかないもん】
【それな】
「じゃ、もっかい」
「ん」
2人同時に、輪っかを展開。
――そういえばノーネームさんの輪っか、普段は真っ黒だけどこういうときは真っ赤になるんだなぁ。
そんなことをぼうっと考えながら、僕たちは新しい救出対象たちを守るべく、魔法を広げていった。
◆◆◆
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