339話 地上の戦い 1

「……ぷは。 よーし、良い感じに酔いも回ってきたところで魔王軍が僕の射程圏内に入ってきたね」


真っ暗な空。


その遙か遠くに――肉眼ではまだ見えない範囲へ、そろそろ魔王軍の飛行部隊、多分先遣部隊が引っ掛かり始めている。


「かり」

「うん、盛大な狩りだね」


『かり!』

『かり!!』

『かりないない!』

『ないないないない!』


【ないないやめて!!】

【草】

【子供たち、なぜか「ないない」が好きだからねぇ……】

【まぁ言いやすいし】

【「狩り」して敵を「ないない」するって物騒なはずなのに……】


「タワーディフェンス。 守るのはこの町……の、このビルで良いんだね?」

「いい」


僕たちが最初に着陸して以来、ずっと寝床にしてきたのは、この町の中でも中心近くに位置する高いビル。


ちなみに中心はあのどでかい石碑とその周りの広場だ。


だから、ここからだとどの方向へも見通しは良くって、どの方向へも攻撃が通りやすくって――全方位からの攻撃も、まとめて通る。


「勝利条件は、魔王軍の2割を削ること。 ……もう索敵範囲の外側が真っ赤も真っ赤で途切れないし。 これ、地上も空もモンスターで埋め尽くされてるから……きっと、この星に巣くってるモンスターが、みんな押し寄せてるんだろうなぁ」


一体どのくらいの数になるのやら。


多分、ダンジョンの中が平和って感じるレベルなんだろう。


ま、これだけ高くて頑丈なビルがあるんだし、押されても最悪で飛行系モンスターだけ倒せば生き延びることはできる。


「ここまで来たら、やるかやられるか。 がんばろ」

「がんばる」


【    】

【    】

【    】


【じょばばばば】

【もうおしまいだ……】

【地球でこんなことになったら……】

【もう犠牲とか先のこととか無視して、大量破壊兵器の雨だな】

【10年前……11年前に寸前まで行ったやつ……】

【ひぇぇ】


【実際、魔王軍の襲来を想定して使用準備してるっぽいし】

【「ハルちゃんたちが帰って来るから!」って説得して、どうしようもなくなるまでは使わないってなってるレベルだし】

【まぁねぇ、大国の上層部としては魔王軍が出てくるハナから撃ちまくった方が、結果的な被害は抑えられそうだしねぇ……】


【なおその場合、そのあとの大問題は考えないこととする】

【人類が滅びるかどうか、割とガチで瀬戸際だからね】

【環境と改善に、種族が滅びるかどうかだし】


【これ、ハルちゃんたちが間に合わなかったら……】

【あと、この戦いで勝てるかどうかも判断基準らしい】

【ハルちゃん&ノーネームちゃん、2人がそろって魔王軍を撃退できないってなるとねぇ……】

【もしかして:この戦い、実質決戦】

【これ次第だもんなぁ】


「で、がんばるにしても、持久戦になるんだ。 最初は全力で、そこからはじりじりと押されながらもどうにか潰されない程度を意識して」


ノーネームさんは、いつも通りに手を繋いできている。


「で、君たちはこの中から出ないようにして。 いざとなったらビルの中へ」


この子たちは、賢い。


身振り手振りで説明すれば、なんとなくでも――特に戦闘に関してはわがままを言うこともなく、理解して従ってくれる。


『ある、――!』

『ふんす』

『あるて、のーむ』

『かり、んーっ』


かちゃかちゃと、イスさんの上に山盛りにした武器を準備している子供たち。


【かわいい】

【かわいい】

【ていうかハルちゃん、どんだけ遠距離武器抱えてたの……】

【この世界に来る前に使い切っちゃってたけど、この世界のダンジョンでこれでもかってドロップしてたからね】


【ハルちゃんの収集癖がここで役立つとは】

【貧乏性では?】

【女神様なのに、地球でどうにかして貧乏生活しながらエンジョイしてたのか……】

【草】


【簡単に想像できて草】

【ああうん、ハルちゃんなら野宿とかへっちゃらだろうし……】

【いざというときのための石ころも無限レベルであるからな!】

【ハルちゃんたち、すきあらば石拾いしてたよね】


【きちゃない袋さんがドロップし直してくれたからいくらでも積めたもんね】

【きちゃない袋さん……】

【きゅんっ】

【まさか、無機物相手に恋をするなんて】

【お前……】


「イスさんのここに載せきれないくらいあったし……みんなここのダンジョンのだから性能とか種類が共通してるし、弾も矢も共有で使えるから使いやすいね」

「べんり」


『ん?』

『かり?』


僕が欲しいって言ってると思ったのか、すっと差し出される銃。


「ううん、今は良いや。 僕は基本、魔力と石がメインだから」

「めいん」


「あ、そういえばノーネームさんは通常攻撃できるんですか?」


「?」


こてん?って首をかしげるノーネームさん。


「分からないんですか?」

「わからない」


思わずで同じ方向に首をかしげちゃう僕。


だってこの子、完全に僕の2Pカラーなもんだから、鏡見てる感じで、つまりは同じ動きをしないとなんだか気持ちが悪くなるんだ。


【かわいいいい】

【かわいいいいいいいいい】

【かわいいいいいいいいいいいいい】

【かわいい  あれ?】



【怒】



【草】

【ごめんねノーネームちゃん】

【おい! ないない先はいっぱいなんだって!】

【ノーネームちゃんお腹いっぱいなんだって!】

【草】

【こんな場合なのに笑えて草】


「? なんで怒ってるんですか?」

「ない」


「僕にじゃないんですね?」

「ない」


ノーネームさん、やっぱりひとりごとをつぶやく癖があるっぽい。


僕と話してて、脈絡なく文字をぴこぴこ出してたりするし。


僕が今、こうしてなんとなくぼんやり考えてることとかと同じようにノーネームさんもいろいろ考えてて、それがぽろっと出ちゃうんだろう。


「かわいいですね」

「てれ」


全くの無表情だけども、気分とかはわりとはっきり言ってくれるノーネームさん。


「じゃ、そろそろ僕が最初の攻撃、して来ますね」


そうしてノーネームさんに子供たちのお守りといざというときの戦闘を任せ、羽を広げ。


「タワーディフェンス。 勝利条件を早く達成して」


ひゅん。


冷たい空気を切りながら、僕は上昇していく。


「あったかいお湯に浸かってお酒飲んで、ぐっすり寝たいんだからさ」



◆◆◆



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