338話 タワーディフェンス
【悲報・やっぱこの世界崩壊済み】
【まぁ予想はついてたし】
【子供たちが着の身着のままでダンジョンに居る時点でなぁ……】
【集団からはぐれたならまだしも、一向に上目指さなかった時点で……】
ぽつぽつと、探知スキルの端っこに映り出す敵たち。
「全方位くまなく……かなり速いのは、多分飛行系のが向かってきてる……?」
地面はあっちこっちぼこぼこになってて、普通に移動するのは相当難しいはず。
亀裂に落っこちないように迂回したり、普通の地形でもジグザグに移動するのが普通。
けども、一直線に――索敵の縁を囲むようにして現れてくるそれらは、どう見ても邪魔されない空を飛んでいる。
それに、
「この速さで、360度から僕たちへ向けて迷うことなく……索敵スキル? いや、僕でも捕捉できない遠さなのに……」
「せんきろ」
「あ、そんなに遠かったんですか。 じゃあ僕が追いつけなくってもしょうがないですね」
「ない」
【1000km先、全方位から魔王軍がいっせいに……?】
【じょばばばば】
【なぁにこれぇ……なぁにこれぇ……】
【というかハルちゃん、1000kmのちょっと手前までなら探知スキルの方が届くって……】
【1000kmの範囲内はハルちゃんの索敵圏内……?】
【ま、まあ、今は女神モードだから……】
【強化されてるもんね、なら不思議じゃ……】
【え? てことは魔王軍の中にハルちゃん以上の探知の使い手居るの?】
【あっ】
【えっ】
【……真っ直ぐ来てるってことは……そういうことだよな?】
【もうだめだ……】
【ハルちゃんよりレベルが高かったりしたら、もう……】
【そうだよな、よく考えたらこの世界、魔王軍に敗北してるんだよなぁ……】
【ハルちゃん&ノーネームちゃんが居ても……】
【この世界の文明があっても……】
【……やばくない?】
【でもノーネームちゃんがわざわざ地上に出て来たんだ、何か変化があるんだろう……そう信じたい】
ひゅううう。
嫌な風が、僕たちを撫でていく。
『ある?』
『かり?』
「……この子たちを守るには、この子たちだけでも地下に」
「むり」
振り返った先のノーネームさんは、いつも通りの無表情で説明する気ゼロで、ただただ僕を見ている。
「まち」
「きどう」
「ここが、休眠状態だったらバレてなかったんですね」
「ない」
「………………………………」
眠そうなまぶたの下の黒い毛、紅い瞳。
そこには何を思っているのか、想像させられる要素は全くない。
とはいっても、ノーネームさんは僕たちの味方。
なら、無意味に犬死にするようなことにはしていないはず。
「しょうり」
「じょうけん」
「勝利条件……?」
ぽつり、ぽつり。
彼女はいつものように、僕の目をじっと見つめながら告げる。
「たわー」
「でぃふぇんす」
「にわり」
「けずる」
「魔王軍を2割削れば。 そうすれば、なんとかなるタワーディフェンスなんですね」
「なる」
索敵スキルを、真四角のレーダーマップ的に表現してみる。
正方形のマップに、ぴったり張り付く円が索敵範囲。
その円の内側へ、染み出すように無数の赤い点々が侵食してきている。
それが、今の状態。
スキルで個体数を数えられないほど密集しているから、綺麗に真っ赤に染まっていておどろおどろしい美しさが、じわじわと正方形の内側を埋めてきている。
【タワーディフェンスか、なるほど】
【今までみたいにダンジョンに潜ったりするのとは逆のパターンか】
【この町が最後の砦ってことね】
【でもなんで2割?】
【ノーネームちゃん的に考えがあるんだろう】
【いつも説明のないノーネームちゃん】
【ノーネームちゃんだからね】
「飛行系モンスターが近づいてくるまで、あと……1時間は無い、かな」
僕は、不安そうにしてる子供たちに振り返り、おもむろにきちゃない袋さんへ手を突っ込む。
「……今のうちに、腹ごしらえしとこ。 人間は食べものと飲みものがないと戦えないからね」
これが近接職とかならご飯とか食べちゃダメなんだろうけども、僕たちはみんな遠距離職。
眠くならない程度にお腹に入れておいた方が命中率は上がるだろう。
ほら、ブドウ糖とかって集中力に関係あるらしいし。
『ごはん』
『ごはん!』
『かり?』
『んふーっ』
今は栄養とか気にせずに、子供たちの好きなものを中心にイスさんの上でご飯を広げていく。
……とんっ。
もちろん僕も、適度にアルコール入ってた方がテンションあがるから。
【草】
【えぇ……】
【悲報・魔王軍との対決におしゃけ持ち込むハルちゃん】
【ハルちゃん、ザルだから……】
【一升瓶呑んでもけろりとしてる幼女なんだ、きっと大丈夫でしょ】
【地下での戦いでもラッパ飲みして瓶をぶん投げてたハルちゃんだもんな!】
【草】
【女神様は豪快なんだよ】
【あ、また近所のお寺で狂ったペースのお経が】
【草】
【教会の鐘がうるさい】
【ああ、みんな見てるもんねぇこれ……】
【俺たちにできることと言えば、応援して祈ることくらいだし】
【あ、ご近所たちがお酒持って行き始めてる 俺も行ってくる】
【あ、俺も】
【事あるごとにお酒奉納されるハルちゃん】
【神事にはお酒って伝統だからね】
【女神ハル教は特にな!】
【草】
【ああ、配信画面でとくとくとお酒を……】
【ノーネームちゃんがお酌してごきげんだね】
【ま、まあ、タワーディフェンスって言うくらいだから長丁場なんだろうし……】
【大丈夫? 飲みすぎて戦闘中におしっこしたくならない??】
【ガタッッッッッッッッ】
【えぇ……】
【ノーネームちゃん! ないない先いっぱいってこの前言ってたでしょ!!】
【常にコメントを監視してるコピーノーネームちゃん】
【どうしてシリアスになりきれないのぉ……?】
【ハルちゃんの配信……だからかな】
【ちょっとおかしい幼女の配信時代からの伝統だしな!】
【まぁ1時間……は無いらしいが、そのあとに防衛戦なんだ、今のうちに休んどけ】
【長時間配信を追うんだから体力と集中力と飲食に排泄、睡眠の調節は大切だぞ】
【大丈夫、俺たちハルちゃんに調教され尽くしてるから】
【それ、ハルちゃんのを追ってる全世界の視聴者もじゃない?】
【俺たちは……ハルちゃんに育てられていたのか……?】
【何それ素敵】
【ハルちゃんは俺たちの母だった……?】
【ママ……?】
【ハルちゃんがママとかそれだけで勝ち組だな】
【でもアル中だよ……? 良いの? アル中の母親で……】
【草】
【アル中でも呑んだくれてるだけなタイプで無害ではあるから……】
◆◆◆
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