307話 全部、壊しちゃえ

【朗報・ノーネームちゃん、おっきくなった】

【悲報・ノーネームちゃん、おっきくなった】


【なにこれすごい】

【ああ、なんとハルちゃんの完全コピーだぞ】

【金髪碧眼に対して黒髪紅眼っていうオプション付き】

【羽も天使とか女神のそれと悪魔とかそっち系っていうね】


【推しに孕ませてもらって産んだ自分の分身を、推しとここまで同じにするとか……】

【しかも、あえてずらして対になるようにデザインし直すとか……】

【やっぱすごいや、ノーネームちゃん……】


【草】

【ああ、すごい執念だ……】

【ちょっとまねできない】

【大丈夫、ノーネームちゃんくらいしかできないことだから】

【百合妊娠の時点で人間には不可能な所業だから……】


僕の前で無表情に立っている女の子。


ノーネームさん。


顔は、今の僕とそっくり。


というよりも完全におんなじで、じっと見ていると鏡を見ている感覚になる。


けども、髪の毛は輝く黒――黒と青と紫と緑とが綺麗に混ざっていて、黒いのに光っていて、半透明で。


目はルビーみたいに光ってて、ただただ僕をじっと見つめてきていて。


「………………………………」

「………………………………」


「………………………………」

「………………………………」


僕たちは、話すこともなくお互いを見る。


見る。


……あ、ノーネームさんの目が動いた。


「てれ」


「あ、ごめんなさい、まじまじ見ちゃって」


あ、ちょっとほっぺた赤くなってる。

白い肌だから分かりやすいね。


【かわいいいいいい】

【かわいいいいいいいいい】

【ノーネームちゃんが真っかかかかかか】

【なにこのかわいいいきもののののの】

【ノーネームちゃんっていうんだよ、かわいいでしょょょょょ】

【草】


【怒濤のないない嵐】

【だってこんなにかわいいんだもんんんんんんん】

【え? ノーネームちゃん、ハルちゃんとおんなじ大きさになれたの!?】

【しかもおしゃべりもできるぞ!】

【声はハルちゃんと同じね】


【ハルちゃんと子供たちが大ピンチだって思ったら】

【まさか、ノーネームちゃんが人化するとはな……】

【もしかして:ノーネームちゃんが子供たち守る前提で戻って来た】

【あー】


【ハルちゃんの危険を察知してか】

【ハルちゃん自身は、時間さえかけたら……って感じだったが】

【それでも困ってるのは分かったんだろうな】


「ギィ――!」

「ウォ――!」

「ニャ――!」


「……君たちのせいだよ」


くるり。


僕は、ゆっくりと振り返る。


「ギィッ!?」

「ウォンッ!?」

「ニャンッ!?」


【!?】

【ハルちゃん!?】

【声怖っ】

【こわいよー】

【もしかして:ハルちゃん、マジギレ】

【そらそうよ……】


【ついでにびびったモンスターたち】

【すっげぇ遠いのに、全部固まったな】

【え? モンスター、怯えるの?】

【あっ】

【攻撃パターンと同じく、思考ルーチンまで複雑なのか……】


子供たちは、ノーネームさんが守ってくれる。


『あ、ある……』

『のうむ……』


「かって」


「でる」


「ばつ」


無事だった彼女たちのことを、ノーネームさんが……今度こそ、止めておいてくれる。


【草】

【ノーネームちゃんもおこ】

【子供たちに怒ってる】

【ってことは、ノーネームちゃんとしても予想外?】

【あー】


【子供たちが引き返しちゃったかー】

【まぁノーネームちゃんのぴこぴこだけじゃ、細かい意思疎通はムリよね】

【そもそも言語が通じてないからなぁ】


あれだけの魔法を――もし僕と同じ体なら、あと何発も撃てるはずだ。


なら、僕が寝ちゃっても問題無いよね。


「……ふふっ。 僕を、こんなに困らせてくれたのは」


ぶわっと、お腹の真ん中から魔力を解放する。

きんきらきんの光が、僕から溢れる。


「君たちが、初めてだよ?」


髪の毛が、服が、羽が、輪っかが、ぶわりと広がる感覚。


それで自然に笑う、僕の口元。


……ああ。


怒りをぶちまけるのって――こんなに、楽しいんだ。


僕、怒ったことなんて――そんなにないから、知らなかったよ。


「――いい加減、めんどくさかったんだよ」


しゅいんしゅいんっ。


僕の輪っかが、目の前にふわりと移動してくる。


「低いとこじゃ矢が飛んできて、高く飛べば槍でちくちくしてくるんだもん」


しゅいんしゅいんっ。


輪っかの先に輪っかが、その先にも輪っかが――それは1秒置きにどんどん広がって拡大していって。


しゅいんしゅいんしゅいんしゅいんっ。


「どうせあの魔王さんの命令なんでしょ? 僕を、困らせろって。 ほんと、意気地なしで女々しくてどうしようもない人なんだから。 あれで全然懲りてないんだね、あの図体だけでっかくって肝っ玉ちっちゃいバカな人。 だからこんなちっちゃい僕にやられちゃうんだよ、あのどうしようもない人」


【草】

【ハルちゃんの罵り力が!】

【きゅんっ】

【ぞくぞくする】

【これがあのトカゲに……おのれトカゲ! ずるいぞ!】

【草】


【炭火焼きになってもまだ懲りないのな、あの爬虫類……】

【ここにいなくてよかったね、トカゲさん】

【居たら、今度こそ致命的な精神攻撃されてたよ】

【精神攻撃で倒されるまであるよな!】

【幼女から罵られて昇天する魔王とか……】

【大丈夫、今は幼女じゃないから……】


お腹の中から渦を巻いて昇ってくる魔力を、全部全部解放していく。


それらは金色の矢となり、目の前の輪っかに吸い込まれ、その次の輪っかへと分裂しながら広がっていく。


それは、さっき作った円錐形の砲台。


違うのは、


「――だから、ちょっとぜぇんぶ……くふっ」


ああ。


笑いが、止まらない。


「――君の持ち物を、壊しちゃうね」


僕の魔力を――この力を、ぜぇんぶたっぷり込めてるってことなんだ。


【     】

【     】

【     】

【     】

【     】


【お酒を! お酒を奉納するんだ!】

【大丈夫、今近くの神社でものすごいご祈祷してる】

【家の近くのお寺でものすごいお経の声が響いてきてる】

【うちのばーさんが墓前で必死になり始めた】

【草】

【とうとうガチで信仰してて草】


【まぁ、この状態のハルちゃんがそのまま戻って来ちゃったらねぇ……】

【ガチギレハルちゃんとか怖すぎる】

【ま、まあ、人類には手出ししないはずだから……】

【大丈夫? このまま戻って来て、世界中のダンジョンに攻撃して回らない?】

【やめて……やめて……】



◆◆◆



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