270話 光の弓矢と僕

僕は、ある重大な事実に気が付いた。



【?】



コップを手にしていたノーネームさんが、首をかしげている。

そう、コップを――その中のお酒を呑んでいたノーネームさんが。


……君、ただの動くお人形さんじゃなかったんだね……いや、だってほら、今まで食事とかしてなかったし……。


「………………………………」


僕たちの目がしばらくぴたっと合い続ける。


「………………………………」


なんとなくでお酒の瓶を持ち上げたら、さっと逸らされた。


「………………………………」


僕は、ちょっと傷ついた。


【何、今の緊迫感】

【さぁ?】

【よくわからんが、それよりなんだよさっきの】


【ああ、たいしたことじゃない  ただダンジョンの宝箱とかドロップって、ダンジョンで落としたものとかもレア度に応じて再ドロップすることがあるんだ】

【あー】


【あんまりないけど、たまにあるよな】

【落とし物のスマホとか財布とか武器装備とかな】

【つまり?】

【あの謎空間で吸い込まれたのが、なぜかここで回収されてドロップ】

【まぁトカゲの居た世界っぽいし】

【ってことは、もしかしたらイスさんもいずれ……!】


【ハルちゃんたちがこっちに出てきたのは偶然じゃなかったのか……】

【良かった……きちゃない袋さんが意志持ったわけじゃないんだね……】

【ハルちゃんだよ?】

【もうだめだ……】

【草】

【諦めが早すぎる】


【ハルちゃんに関係したものは神性とか帯びてそう】

【あー】

【増殖する眷属……】

【もうだめだ……】

【草】

【信頼感と恐怖の抜群なワードだな!】


それにしても、みんなに連絡できない……僕が生きてるって伝えられないのは残念だけども。


これで、一気に生活が楽になる。


「………………………………」


最近ぼんやり考えていた、このあとのこと。

それが、はっきりと頭に浮かぶ。


そのためにも……出た途端に地上のモンスターに囲まれて、引き返そうとしたらダンジョンの中からモンスターにも襲われるってことのないように。


「じゃ、このダンジョンの――最下層の撃破。 しましょっか」



【!?】



【えっ】

【ハルちゃん!?】

【いきなり爆弾発言】

【ノーネームちゃんもびっくり】

【コップ取り落としそうになってたの見たよノーネームちゃんんんんんんん】

【ノーネームちゃんったら恥ずかしがり屋さんんんんんんん】

【草】


「ちょっと方針転換です。 まずは上の階層戻って、捨ててきたアイテムを全部回収」


取り出したいろいろを、きちゃない袋さんにないないしながらノーネームさんへ思いついた予定を告げる。


「で、子供たちも育てつつ……でも外の状況も知りたいので」


全部しまった僕は、いつも通りに……む、いつもよりは服が替わってるし、背も伸びてるし、お胸もちょっとだけ育ってるか……でもなんとか腰の紐にくくりつけられたきちゃない袋さんを、いつもの位置に収め、ぽんっと叩く。


「モンスターはどうせ無限湧きでしょうからレベリングは後回しで。 ここからは光の弓矢で……さくっと制圧します」


【悲報・ハルちゃん、やる気】

【即決過ぎる】

【スイッチが入ってしまった……】

【もうだめだ……】

【えぇ……】

【なぁんでぇ……?】


【ハルちゃんハルちゃん、おしゃけも戻ったんだし、もうちょっとのんびりして良いんじゃないかなぁって】

【そうそう、俺たちの心労を軽減するためにもゆっくりとだな】


【でもさ、ハルちゃんが地球に戻ってこないと……魔王軍来たら地球、おしまいよ?】

【そうだった……】

【もうだめだ……】

【まだ早すぎるぞ草】

【なんか諦め早くなってて草】

【だって、抵抗してもムダだし……】


【しかしようやく目的ができたか】

【これまでは子供たちの保護、からの子供たちの育成だったもんな】

【その子供たちも、もはや中級者レベル……多分15くらいにはなってるだろうし】

【このダンジョンクラスなら20階層程度まで楽々だしな】


【この子たちには幸せになってほしい……でも、ハルちゃんにも帰って来てほしいんだ】

【ああ……】

【帰ってきて、るるちゃんたちと再会して……普通に、楽しそうに話してる姿を見たい】

【見たい】


【もう異世界で1ヶ月だもんな、ハルちゃん】

【トカゲが迷い込んでくるまでの地下も含めると2ヶ月だし】

【こっちでもいろいろあったんだから、そろそろ戻って来ないと浦島になっちゃうもんねぇ】

【確かに】


宝箱のある台座、そこからちょっと歩いたところ。

そこには、さらに下へと続く階段。


「ここが何階層まであるのかは分かりませんし、上も何階層なのか分かってませんけど」


とりあえずで光の弓矢を両手に。


「……まずは、この子たちの居たこのダンジョンを完全に制圧。 ボスさえ倒せば、生え替わりまではモンスターも減るはず」


ぎりぎりぎりぎり――――――――ひゅんっ。


【えっ】

【ハルちゃん!?】

【いくらハルちゃんでも階段の上から下の階へ矢を放っても……】


僕は、いつからかできるようになってた遠距離攻撃の先――今は光の矢の先端に、目をつぶって視界を切り替える。


「そうすれば僕も、るるさんたちのところに戻る手段を探しに……この子たちから離れることもできるし」


階段を滑空して行く矢。

その先には下の階層。


薄暗い洞窟の中も、矢自身が光り輝いてるからまぶしいくらいに隅々までが見える。


「地上に居る……って思いたい、他の人たちにとっても、一時的にでもここの湧きが減るのは助かるはずだし」


廊下をうねうねと通り、ところどころで見かける巡回中のモンスターたちに対し、そのたびに矢を数本分裂させての攻撃。


「……今の、この体の僕がどこまで通用して、どれくらい強くできるか。 やっぱり、知りたいもんね」


矢はフロアを金色に染めながら飛行して行って――また、吹き抜けの場所へ。


「下の階層も、上とおんなじように半分くらいが吹き抜け……なら」


そこで矢を分裂、一気に数百の矢が吹き抜けの上空を埋め尽くす。


その矢は――僕自身は、そのままひゅんっと下へ下へと落ちて行き――見えて来た地面と、見えて来たモンスターたち……多分100体を超えるそれに、10本ずつくらい向かって行って、ずぶりとモンスターたちに入り込んで――真っ暗に。


「……ふぅ。 とりあえず回収は当分先だけど、結構倒せた。 下の階層もまた吹き抜けだったね」


【えっ】

【????】

【悲報・ハルちゃん、なんか強化されてる】

【なぁにこれぇ……】

【ハルちゃんだよ?】

【遠距離攻撃の女神ハルちゃんの特殊能力だよ】

【人間には決して再現できない所業だから安心してね】


【良かった……思わずないないされるところだった……】

【草】

【イイハナシダナー】

【こうして1人の人間がないないされずに済んだのか……】


視界が体に戻ってきた僕が目を開けると……まーた地面にへばってる子供たち。


「……いや、起きてよ。 ちょっと攻撃しただけじゃん」


【ちょっと???】

【ちょっと(女神基準】

【そして平身低頭よ】

【そらそうよ……】

【光の弓矢だもんねぇ……】


【崇める天使が神器を使用したんだもんな!】

【確かに神器だよなぁ……】

【光り輝く武器だもんなぁ……】

【固有魔法、神器……何でも良いけど、きっと上位種族はこういうの持ってるんだろうなぁ……】



◆◆◆



新作の『ユニコーンに懐かれたのでダンジョン配信します……女装しないと言うこと聞いてくれないので、女装して。』https://kakuyomu.jp/works/16818023211929600076は120話を突破。男の娘にもご興味のある方は、ぜひお読みくださいませ。



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