239話 魔法……撃ちたいのに 大丈夫なのに
僕は両手を羽交い締め……子供の体重を乗せられて動けないまま。
だから、子供たちの戦闘をただ見てるしかないんだけども、どうやら何とかなるっぽい。
ならなさそうなら無理やりにでも手を出すけどね?
【ここより20階層から下は、昨日ハルちゃんが殲滅したみたいに中級者ダンジョンクラスのモンスター……で、ここは初心者ダンジョンクラスのモンスターか】
【そのあいだのレベルがどうか分からないけど、まぁ順当に行けば中難易度のダンジョンって感じか】
【なんとなく分かってきたな】
【何割かが吹き抜けだったり迷路みたいなセーフエリアあったりするけど、モンスターの構成的には低層が優しい感じの中級者ダンジョンなのね?】
【で、油断した初心者たちがずんずん行っちゃうとあっという間にレベル不足でリストバンドってよくある流れのだな!】
【誰しもが1度は通る道……うっ、頭が】
「はぇー……すごいねぇ」
それにしても見事な連携だ。
いや、僕が普段はソロで、連携してる戦いなんてノーネームさんに呼ばれて行った500階層のあれくらいしかないんだけども。
……遠距離攻撃の2人は、ひたすらスライムを攻撃してた。
そのあいだに短剣の子がひらひら舞ってバットを足止めしてて、スライムが片付いたら短剣を投げて撤退したところに矢と魔法……僕が撃ちたかったファイヤーボールを集中砲火で倒してる。
命中精度は低いけども、数で補う感じかな。
相手はたったの2体……1匹増えたバットだし。
3人はお互いにかけ声くらいしか口にしてないし、前に出てた子も後ろ見なかったし、多分それなりに一緒に戦ってるんだろう。
【レベルはともかく、ちゃんと連携して戦える】
【装備とアイテムさえ整えば、もっと深いところで強いモンスターでもいけるんじゃね?】
【だよな? この子たちも、黒髪の子たちでさえ戦闘では連携取れてるっぽいし】
【なら、なんでハルちゃん見つけたとき、あんなぼろぼろで装備もほとんどないまま出てたの?】
【さぁ……】
【浅い階層でのドロップ不足が原因か?】
【いや、水と食料が少なかったのかもしれん】
【それか、モンスターの数が多かったり最初は誰かがケガしてたり】
【あー】
【それか、実はまだここに来て日が浅いとか】
【戦闘自体はみんなが最初からできるんなら、あとは連携だけだしなぁ】
【でも、こんだけ騒いでも他の人間が……】
【大人がひとりも来る気配ない時点で、多分他の人間は……だし……】
『……あるてー!』
『あるあ!』
「あ、終わったんだね。 ……2人とも、もう離してね」
戦ってた3人が、疲れ切った顔で戻って来る。
……戦い自体はできてたけども、レベルは低いのかな。
「3人のは分かったけども……2人は?」
『?』
『ある?』
まだ腕に捕まってる2人が僕を見てる。
……だからもう大丈夫だって。
【しかしこの子たちもかわいいな】
【白髪ロリはいいぞ!】
【あれ、お姉さんの方!】
【あ、ほんとだ、銀髪になってる】
【あー、魔法使ってたから】
【じゃあ白髪ロリの方も銀髪ロリに?】
【切り込んでた黒髪の子の髪の毛も、紫色になってる!】
【この子たち、ダンジョン適性あるんだな……そりゃそうか】
【なかったら戦えませんし】
【今戦ってた3人はともかく、捕まってこっち見上げてる2人は】
【ちょっと待ってやっぱかわいくない!?】
【片方は男だぞ?】
【何か問題でも?】
【<URL>】
【しっしっ】
【露骨な誘導はやめろって言ってんだろショタコン!!】
なんとか大丈夫って身振りで伝えつつ、今の僕より年下な2人の両手をそっと離してようやく動けるようになった僕。
「……魔法……撃ちたかったな……」
【✕】
【✕】
【✕】
【✕】
「分かってますって……もー、みんな信じてくれないんだから」
【✕】
【✕】
【✕】
【✕】
「分かってるってばぁ」
【草】
【必死のノーネームちゃんガード】
【そらそうよ……】
【ハルちゃん? さっきしでかしたこと忘れてない?】
【忘れてそう 多分忘れてる】
【ああ、ハルちゃんなら忘れてるな、とっくに】
【ダンジョンの壁を融解させるとか、ハルちゃんの初級魔法の威力ちょっとおかしすぎるんよ】
【こわいよー】
【あんなの見たら、そりゃあみんなで必死に止めるわな】
【ノーネームちゃんも「✕」連打してるし】
【かわいい】
【ノーネームちゃん、必死な顔】
【本当だ、あんまり表情変わらないお人形さんなのになんか必死】
【子供たちもみんな必死だよ】
【必死じゃないのはハルちゃんだけだよ】
【ハルちゃん!】
【どうにかしてこの元幼女を止めないと……】
【でもハルちゃんだよ?】
【もうおしまいだ……】
【草】
【ハルちゃんに対する負の信頼が厚い】
……なぜかみんなが止めるから、しぶしぶで諦めとこ。
このへんのモンスターはこの子たちだけで大丈夫っぽいし、危なさそうなら介入する形ってことで。
「……あ、モンスター、結晶になったよ。 取らないの?」
『?』
『ある?』
ふとさっき戦ってた場所を見ると、3つの結晶。
あとドロップは……ただのヒモとかのがらくた。
それを指差すも、子供たちはよく分かってないっぽい。
あれ?
君たち、モンスター倒して結晶とかドロップとか集めないの?
「……あ、そっか。 結晶集めても換金できるわけじゃないんだ」
【あー】
【あー】
【そうか……忘れてたな】
【ああ、そうだよな ダンジョン協会で管理されてるダンジョンだから換金システムがあるわけで】
【そういうのがないんだったら】
【……つまり、このダンジョンって管理されてない】
【じゃあやっぱり地上は……】
【悪い方向に繋がってしまったな……】
【繋がっちゃったねぇ……】
【ま、まあ、まだこの子たちが偶然ここに迷い込んでなんとかサバイバルしてる可能性もなくはないし……】
【そうだといいがな】
【それが1番心安まる展開なんだけど……多分なぁ】
【ダンジョン……脱出しても攻略しても、その先が……】
でも落ちてるものはとりあえず回収。
きちゃない袋さんはもういないけども、今日は何も持ってきてないから落ちてるヒモとかのがらくたくらいなら持って帰っても平気だし。
「……ヒモは何にでも使えるんだから、いくらあってもいい。 即席の罠にもできるし、洗濯した服吊したり、手作りで弓だって……あ、石。 こっちにも石」
【草】
【ああ、ハルちゃんの職業病が……】
【ガチの職業病で草】
【あ、子供たちもハルちゃん見ながら】
【女神がわざわざ石を拾いだしたからね、信徒も当然習わなきゃね】
【信徒なのか?】
【信徒だろ だってよく平身低頭して儀式してるし】
ころころと両手に貯まっていく小石の感覚でほっこりする。
けども……ふむ。
……僕は、よく分からずにここに落っこちてきた。
脱出手段は分からないけども、もうしばらくはここに居ることになるはず。
そのあいだずっと、この子たちのために食料調達とかして来る予定だったんだけども。
――この子たち。
せっかく1回面倒見ちゃったんだし、いつ別れても後味良いように――ちょっと、育ててみよっか。
◆◆◆
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