235話 僕はただ、試したかっただけなんだ

そこそこ進んだ先は、モンスターが十数体居るらしい大部屋。


……見た感じ低階層のモンスターばっかりだ。


まぁここに来るまで落ちてたアイテムも初心者ダンジョンであるようなものばっかだったし。


「あ、そういえば」


【ひぇっ】

【ハルちゃんやめて】

【ハルちゃん、何するの……】

【やめて……やめて……】


【この幼女、まーたいらんこと思いついたな?】

【今はもう幼女じゃないよ?】

【ハルちゃん駄目でしょ! 視聴者のみなさんの心えぐっちゃ!】

【ついでに子供たちのハートもえぐりそう……】

【えぐりそう】


【散々な言われようで草】

【だってハルちゃんだよ?】

【もうだめだ……】

【草】


めんどくさいし、なによりこの子たちが怯えるから、とりあえず全部倒そう。

そう思ってまたあのときの光の弓矢を取り出そうとした僕は、ふと思い出す。


――確かここって、地球寄りも魔力が濃いんだよね。


さすがにあの空間ほどじゃないだろうけども、魔王さんの故郷なんだ。

だったら……あの巨体を支えて運用できて、全力が出せる濃度はあるはず。


――だから、もしかしたら――――。


【ハルちゃん、なんで急にだんまりなの……】

【やめて……やめて……】

【もうおしまいだぁ……】

【ハルちゃん……せめてなにやらかすか言って……心の準備だけでもしたいの……】


【何か言ってハルちゃん……何をしたいのかって……】

【せめて心の準備……準備だけは……】

【大丈夫、どうせみんな泣くんだ】

【まーた阿鼻叫喚で草】

【いつもの】


僕は、後ろで……あ、君たち、昨日拾った武器とか持ってきてたんだね……構えていた子たちを手で制して、ちょっと下がらせる。


「……僕、がっかりしたんだよね」


【ひぇっ】

【こわいよー】

【何にがっかりしたのか言ってよハルちゃん……こわい……】

【あのさ  その気になればあのトカゲ並みのことできそうなハルちゃんが「がっかりしました」とか本気で怖いから止めて】


【やめて……】

【「こんな世界には失望しました」とか言われたら怖すぎる】

【怖すぎて草】

【もはや魔王の風格で草】


【まぁ魔王討伐経験あるから、実質魔王ってことで】

【魔王ハルちゃん?】

【そんな魔王の元なら暮らしたい】

【分かる】

【ハルちゃんの王国……】


【そういやハルちゃんって……あのトカゲのことも】

【あっ】

【途中から露骨に興味失ってたよね……】

【もしかして:優しいけど失望すると興味ゼロになるタイプ】

【お前ら気をつけろよ? ハルちゃんに失望されるとイモリになるぞ?】

【草】


社会人になって、ちょっと時間ができて。


ダンジョンってのが流行ってるって聞いて、今さらながらって興味持ってお役所行って、2週間くらい待って適性検査ってのを受けて。


「今どきの子なら学校で毎年やるんですよー」って言われながら良い感じの水晶玉に向かって手を載せて、どきどきして待って。


「あー。 魔法職志望とのことですが、残念ながら適性は……」って言われて。


「あ、良いんです。 僕、チキンなので遠距離なら何でも」って何でもない感じに返したけども、実はかなり傷ついてたんだ。


……だって、撃ちたいじゃん。


魔法。


ちっちゃいころからの憧れだもん。

男なら誰だって、ちっちゃいころに魔法を出そうとがんばるんだ。


【ハルちゃんが手を伸ばしている】

【こわいよー】

【ハルちゃん?】

【また指弾?】

【そういやそんな攻撃できたな】

【いや、でも雰囲気が――】


……きゅいいいん。


魔力が、周りから渦を巻いて僕の中に取り込まれていく感覚。


――ああ、そうだ。


あの、魔王さんとの戦いのときに僕、知ったんだ。


魔力を「僕の体の中からじゃなくって外から取り込んで」使う方法を。


『あるあ!?』

『のーむー!』


【子供たちが異変を感じている】

【あ、ちっちゃい子が泣き出してる】

【ハルちゃんダメでしょ!】

【子供たちと視聴者泣かせちゃ!!】

【草】


【あの……なんか……】

【こわいよー】

【カメラの故障じゃなきゃ、なんか画面が歪んで……】

【これ、どっかで観たような】


【あ、これ……魔王戦で、ハルちゃんとかトカゲが魔法放つ直前に――】


ぐぅぅぅっと、取り込んだ魔力を腕の中に凝縮。

今回は、ただの魔法……そうだなぁ。


「――――――ふぁいやーぼーる」


【!?】

【ハルちゃん、魔法使えたの!?】

【かわいすぎる声で草】

【でも、杖も無いのにどうやって】


僕の手のひら。

そこに貯まった魔力に、火の属性をイメージ。


【あれ?】

【何も起きない】

【不発?】

【いや、そんなことは】


……攻撃魔法とか使ったことないけども、多分こうだよね?


「あ、出る」


【出る】

【ハルちゃんから出るるるるる】

【草】

【ノーネームちゃんの監視は厳しいな!】


体の中でいっぱいに膨れ上がった、出したくてしょうがない感覚。


それに身を任せて、僕は取り込んだ魔力の制御を前の方向だけに開放した。


――ぐぉんっ。


『――――――!』

『!?』


周りが真っ暗になるほどのまぶしさ、でも目を細める必要のない光。

真っ白の周りに薄く青く光る光の塊。


それが、僕の手のひらの前から前に飛び出し――――――


「――――――みんな! 僕の羽の中にっ!」


とっさの嫌な感覚で、光は見つつも背中にいた子たちを包むように抱きしめる。


両手でがっちり、さらにその外側から羽で護るように。


しゅっ。


……………………どんっ。


僕たちは――ものすごい力の奔流に飲み込まれた。



◆◆◆



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