208話 なんか生えてた

「……んぇ……?」


……なんかすごく良い眠りにつけそうだったのを引き戻されたと思った僕。


すっごく気持ちよかったのに、一体誰?


「………………………………」


……しばらくぼーっとしてたけども、どうやら目をつぶってるらしいわけじゃない。


真っ暗なんだ。

全部が、真っ暗。


「……あ、ブラックホール」


なんだ、生きてるじゃん。

なんとかの水平面とかいうの超えても。


まぁ幽霊になってるだけかもだけどね。


それならそれで貴重な体験だ。

記録できないのだけが悩ましい。


「……ノーネームさん」


さっきまでしがみついてたノーネームさんのでっかい首はない。


気絶して放り出されちゃった……?

それとも、僕がひと足先に幽霊さんに?


………………………………。


「……なんか、生えてる……?」


無意識で動かしてたらしい「それ」に、すごい風の中目を向けてみる。


「……はね。 ………………………………はねぇ!?」


何か変な声出た。


【!?】

【何だ今の声】

【もしかして】


……ひゅううううううっ。


途端にすごい風が僕のほっぺたを殴りつけてきて、僕は慌てて「その羽を使って姿勢を変えた」。


「あれ? 羽? ……え? 生えてる? 僕に? 背中? え??」


????


何が起きてるの……?


【ああああああ】

【ああああああ】

【ハルちゃんのお声!!!】

【お顔もちょっと映ってるぅぅぅぅ!】


【あ、ちょっと明るくなってきた】

【良かった……良かった……】

【よかったぁぁぁハルちゃん死んでなかったぁぁぁぁ】

【画面が真っ暗で声聞こえなくなったから怖かったぁぁぁ】

【さっきまでぼろぼろに泣いてたから泣いて笑ってるぅぅぅ】

【大丈夫、みんなそうだからぁぁぁ】

【泣きすぎて画面が見えないぃぃぃ】


【でもなんか生えてるぅぅぅぅ】

【朗報・ハルちゃん、羽が生える】

【天使の羽】

【朗報・ハルちゃん、天使になった】

【★100って……今はどうでも良いか! それよりハルちゃんだ!】


後ろの暗いのは、僕たちを吸い込んじゃう闇。


そう、知識と感覚で分かってるから「新しいのに知ってた感覚」で、前に前に――「僕自身の力で進む」。


加速する。


前へ、前へ。


「……はね……生えてますね……あ、白いんだ……」


【天使の羽】

【ハルちゃんに生えてるだって!?】

【ぐへへへちょっと1本頂戴ハルちゃんんんんんんん】

【草】

【お、ノーネームちゃんも生きてるな!】

【何その識別方法】

【そもそも配信ができてる時点で生きてるだろ草】


飛ぶ。

跳ぶ。


僕は跳んでいる。


「……羽が生えたら空、もう1回気持ちよく飛べそうだなって考えたことあるけど……そっか、こんな感覚なんだ」


ちっちゃいころの夢で何回か見たことある、空飛ぶ夢。

思い通りに飛べるって言う、人類の夢でもある。


あれはなんでもストレス感じてるときのらしいけども、あれはやっぱり憧れなんだ。


【もう1回って】

【もしかして:本当に天使だった】

【天使から人間になってた?】

【翼を失ってた天使……】


【堕天?】

【お酒で堕天したハルちゃん……?】

【草】

【ひでぇ】

【あり得そうで草】

【堕天使になってた理由がひどすぎる】


羽の付け根。


そこから長く伸びる、手でも脚でも首でも、今は生えてないあの棒の感覚でもない別のもの。


それを左右の対になって、一緒に動かして。


僕はまるで鳥さんのように……って、あれ。


「……何これ。 卵?」


手元には、1個の卵。

サイズは僕の両手ですっぽり包めるほど。


だから今まで気が付かなかったらしい。


【卵】

【でかいな】

【そういやノーネームちゃんはどこに?】

【さあ】

【生きてるんなら、すぐ近く飛んでるはずだけど】


……ぱりっ。


「あ」


ぱりっ、ぱりっ。


卵が、割れていく。


「あ、えっと、君。 ここ今ブラックホールすれすれのところだからさ、もうちょっと我慢しない? 出生地がブラックホール付近とか困らない?」


【草】

【ハルちゃん、もうちょっと良い言い方ないの……?】

【仕方ないだろ、ハルちゃんも何が何だか分かってないんだ】

【そらそうよ】

【俺たちも全くわからん】

【とりあえずハルちゃんが無事で、ノーネームちゃんもどっかで生きてるってだけは】


【……卵……ドラゴン……爬虫類  ……あっ】


ぱりっ。



【起】



「……もしかして、ノーネームさん……?」



【♥】



「ノーネームさんなんだ……って、なんで頭の上に字が? しかもコメントのみたいだし……」



【ノーネームちゃん!?】

【あれがノーネームちゃんだって!?】

【さっきまでのでっかいドラゴンなノーネームちゃんはどこだよ!?】

【……あのさ、ちょい前ので一瞬、「再誕」って……】

【え?  ………………………………あっ】

【どゆこと?】


手のひらの卵の中から出て来た、ちっちゃいお人形さん。


そう、お人形さん。

またはフィギュア。


人間の女の子みたいで、それなのに角と羽が生えてて、でも明らかにデフォルメされててどう見ても人間じゃないの。


黒いドレス着た女の子。


……これがノーネームさん……?


【朗報・ノーネームちゃん、生まれ変わった】

【朗報・ノーネームちゃん、生まれ変わってドラゴンっ娘になった】

【ドラゴンっ娘だって!?】

【やべぇ、かわいい】

【ハルちゃんから浮気しそうううううううう】

【草】


【お前ら、ノーネームちゃんの最推しはハルちゃんだぞ】

【気をつけろよ?  でもノーネームちゃんかわいいいいいい】

【草】

【まぁ、ノーネームちゃんったら照れ屋さんんんんんんん】



【脱出】

【距離】

【八万】



「……8万メートル……って思っときましょう……キロだとすごい距離だし。 や、メートルでもすごい距離ですけど……」


すっごく遠くにあった光は、かなり近くなってる。

でも、とても先が見えないほどには遠いはず。


【すごい】

【ちびノーネームちゃんの頭の上にコメントが】

【まぁ2文字だけ?ってのはあいかわらずだけど】

【かわええええええ】

【草】

【ノーネームちゃん! ノーネームちゃん褒めるくらい良いでしょ!!】



【ダメ】

【推】

【最高】



【草】

【あ、コメント欄でもお話しできるのね】

【生粋のハルちゃんファンで草】

【ブレなさで逆に安心したわ】

【ああ、これは間違いなくノーネームちゃんだもんな!】



【照】



【かわいいいいいい】

【草】

【恥ずかしがり屋のノーネームちゃんんんんんんん】

【ノーネームちゃんが荒ぶっている】


何かよく分かんないけど、おっきなドラゴンさんからちっちゃなお人形さんになっちゃったらしいノーネームさんは、僕の手の中で……ぺっぺっと取ってあげた卵の殻から出た彼女は、ぴとっと僕の指に張り付いている。


「……かわいい……」


【あっ(尊死】

【あっ(心停】

【おい、AED持ってこい】

【りょ】

【おいどうした始原】

【爺さんがやられた!】

【ちくしょう、こんな良いところで画面から目ぇ離さないといけないなんて!】

【草】


【そういや居るって言ってたな始原の爺さん】

【今のでとかヤバくない?】

【あ、大丈夫  「ハルちゃんが悲しむぞ!」って言ったら心臓マッサージの前に蘇生したわ】

【草】

【えぇ……】


【おじいちゃん! こんな刺激のある映像見ちゃダメでしょ!】

【それが生き甲斐だからな  あー、死ぬかと思った】

【このアカウントが爺さんなのか……】

【おじいちゃん、もっと命大事にして?】

【ハルちゃんの尊い姿を魂に刻んで冥府へ落ちる  素晴らしいとは思わんかね?】

【やべぇぞ、このじいちゃんマジもんだ】

【だって始原だもん】



◆◆◆



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