206話 ノーネームさんと、逃避行

「……あっ」


がくんっと速度が落ちて、シートベルトで圧迫される。


「……ロケット……最大出力、それもここの魔力込めてとんでもないスピードだったので、もう持ちませんか……」


後ろを見てみると、はるか遠くで真っ暗な何かに飲み込まれるトカゲさん、その手前には噴射口から火を噴いてるロケットさん。


……ずっと使い続けたのと、見るからに歪んでる空間のせいで魔力の流れとかめちゃめちゃだろうしねぇ……むしろ爆発しなかっただけマシかな、適当に作ったし。


『姫! 貴様は必ず我が妃に――――――』


【あっ】

【あっ……】

【あの、今、魔王さん飲み込まれて】


「あり合わせの部品で作ったにしては充分過ぎる活躍でした。 ありがと」


【草】

【ハルちゃんひどい】

【完全無視で草】

【いや、本当に気にしてないんじゃ?】

【もはや視界に入っていない魔王さん】

【かわいそうな魔王さん】


【ハルちゃんを失望させたからな、しゃあない】

【「君には失望したよ」って言われたら最後だもんな】

【あんだけ温厚って言うかのんびりしてるハルちゃん怒らせたんだもんな、そらそうなるよ】


ふぃぃぃぃんっと、イスさんを操作して切り離し。


ロケットさんは火を噴きながら後ろに流れていって……ばぁんっと、ばらばらに分解して爆発した。


「またね」


【ロケットさん……】

【ぶわっ】

【魔王さんより丁寧に見送られたロケットさん】

【ちゃんと最期が認識されたロケットさん】


【ハルちゃんの手作りだもんな!】

【どうでもいいトカゲなんかよりずっと大切だもんな!】

【草】

【ひでぇ】

【またハルちゃんに作ってもらえるロケットさんの方が、トカゲさんよりランクが上って言うね】

【追い打ちで草】


「……さすがにこのイスさんじゃロケットさんみたいには。 ……ノーネームさん?」



【乗】



「念のためにイスごと着地しますね。 ……背中広い」


ノーネームさんが、僕の下……主観でね……に来てくれたから、出力落としてイスさんを軟着陸。


「ノーネームさんはおっきいですね。 ちょうどいい大きさです。 僕はこのくらいが好きですよ」



【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア】【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア】【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア】【HELP】【HELP】【HELP】【HELP】


【推】


【尊過】


【尊死】【アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア】



【草】

【もはや叫び声と化したノーネームちゃん】

【がんばれノーネームちゃん!】

【ハルちゃんに良いとこ見られてるぞ!】

【まじでノーネームちゃん、これまでで1番輝いてるよ!】


【ここで男を見せるんだノーネームちゃん!】

【え? ノーネームちゃんってオスなの?】

【さぁ?】

【確かに……どっちだろ】

【あ、でも、ノーネームちゃん、ハルちゃんのお風呂シーンカットしたりしてたぞ】


【……メスじゃないと許さないぞノーネームちゃん!!】

【ノーネームちゃん! 今ここでちゃんと白状なさい!】

【事と次第によっては始原総員、落とし前きっちりつけさせてもらうからな】

【ハルきゅんのお風呂見たかったのに!!!】

【草】

【揃いも揃って私欲まみれで草】





どんどんと歪んでいく空間。

だんだんと迫ってくる気配。


「……ノーネームさんでも、追いつかれますか」


僕と併走してたときよりも速くなってるノーネームさん。

それでも、さっきまでより爆縮ってののスピードは上がってきてる。


「爬虫類さんが飲み込まれたことで制御不能になったんでしょうか」


【ああ、とうとう爬虫類さんに】

【ハルちゃんの無関心度が】


世界が、崩壊していく。

前しか見てないのに、それが分かる。


そんな感覚。


第六感……ううん、多分魔力で感じてる感覚。


……けど、これ、ほんとどうしよ……間に合うのかな。

って言うか、冷静になってくると……僕、やっちゃった?


あの爬虫類さんはたくさんの世界のたくさんの軍隊の王様で、遠征用の体で来てたもんだから、多分今ごろは元の体に戻って……怒ってる。


すごく怒ってる。

めっちゃ怒ってる。


「全軍に通達! これよりあの小娘の世界を滅ぼすぞ!」……とか普通に言いそう……だって、うん……ちょっとイラッと来ていろいろ言っちゃったから……。


や、反省はしてるよ?


してるけど……だって……ねぇ?


世界で1番強い生物の王様が、あんな男としてダメダメなのだなんて思わなかったんだもん。


だって、ドラゴンさんにとって人間なんてのは、人間にとってのありんこみたいな存在。


そんな相手に執着した上に、ちょっと噛みつかれたからってあんなに怒って踏んづけてこようとするだなんて……ねぇ?


だからつい……女の子としていろいろされちゃうながらも「せめて相手は強すぎてかっこ良すぎてどうしようもない存在に」って思いたかった僕の心が、つい反発しちゃったから。


ま、しょうがない。


時間は過去には戻せないんだ。

なら、僕は前を向くだけ。


どうにかして帰ってなんとかしよう。

きっとなんとかなるはず。


よし、自己解決。


「……ノーネームさん、後どのくらいですか? そろそろなんか後ろの方が」


滑空するようにしてすごい速さのノーネームさん。


……でも、後ろから迫ってくる気配の方が、ずっと、速い。


「……あと、もうちょっとなのに……」


【ハルちゃんが振り向いた先には真っ黒な空間】

【こわいよー】

【怖すぎて草】

【視界のほとんどが真っ暗で怖すぎる】

【ブラックホールのイメージ映像そのまんまだな】

【真っ黒な土星が近づいてくる感じ】


【真っ黒ででかすぎる土星と、まばゆいリングが恐ろしすぎる】

【画面越しでこれなんだから、ハルちゃんたちなんて】

【あのトカゲ! 最後っ屁とか卑怯だぞ!】

【爬虫類! だからハルちゃんに女々しいとか言われるんだぞ!】

【あ、ノーネームちゃんはドラゴンだから大丈夫だよ】

【草】


【視聴者からの扱いもひでぇ】

【だってハルちゃんにいかがわしいことしようとしたやつだし……】

【おのれ爬虫類! 二度と来んな!】

【そのまま一生自分の魔法の中に閉じ込められてろ!】

【草】


感覚的には、あとちょっと。


もうちょっとだけノーネームさんが……イスさんなバイクさんよりもずっと速いノーネームさんが、あとちょっとだけ速ければ突破して別の空間に逃げられそうなのに。


「ここまで来て……」



【大丈夫】



「……ノーネームさん?」


ノーネームさんから何か言われた気がした途端、ノーネームさんがさらに加速。


「……やめてください。 魔力、なくなっちゃいますよ」


ノーネームさんから急速に抜けていく魔力の感覚。


……そっか、周りから吸えなくなってるから、使ったら使った分だけ減っちゃうんだ。


つまり、このイスさんも、僕も。

さっきまでで吸ってた分が尽きたら、すっからかん。


それは、ノーネームさんも。



【護】


【好】


【愛】


【必】



【ノーネームちゃん……】

【ノーネームちゃん、がんばえ】

【がんばえー!】

【ノーネームちゃん……お前、消えるのか……?】

【消えないで】


【消えたらハルちゃんが悲しむぞ!】

【もう完全に忘れられてるあのトカゲみたいにならないで!】

【草】

【ひどすぎない?】

【あの爬虫類には全視聴者の怨念が籠もっているんだ】



◆◆◆



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