174話 ひとりぼっちで1ヶ月 攻略がんばって、るるさんのとこ帰ろ

「……るるさん、今ごろどうしてるんでしょう」


モンスターだけどモンスターとは違って、明確に「命」を奪った感触が何時間も続いた僕は、なんだか寂しい。


だから、これまで全然感じなかった寂しさからふと、るるさんたちのことを思い出す。


「すっかり忘れてましたけど、僕、るるさんたちからしてみたら、ダンジョンの崩落?で生死不明なんですよね……まぁこの配信が通じてたら普通に生きてるって分かってるんでしょうけど……」


九島さん。


あのダンジョンの途中で「私たちは足手まといですから」って言って撤退しちゃってから、ずっと会ってない子。


えみさん。


よりにもよって配信中にヘンタイさんやらかしちゃって、全世界にヘンタイさんバレ……あれ、逮捕されてないかなぁ、大丈夫かなぁ。


……そして、るるさん。


「別に心配されなくても、僕は僕ですからなんとかなるんですけどね。 でもやっぱり、女の子って心配する生き物ですから」


【ハルちゃんも女の子でしょうが】

【僕っ子だけど女の子だもんな】

【音声だけ聞いてると、マジでショタに感じるときあるもんなぁ】

【あら、才能あるじゃない】


【やめて姉御、やめて引きずり込まないで】

【やめて姉御とその仲間たち……急に来ないで……】

【大丈夫。 うちのサーバー、男も増えてきたから】

【ひでぇ……】

【草】


【お姉様たちが怖すぎる……ハルちゃん男の子説は封印だぞ】

【保身のためにな】

【男の娘説は?】

【サーバーの招待状送る?】

【こえーよ!!】

【新しい脅迫ができてて草】


母さんもそうだったけど、女の人はとにかく心配性。


「勉強は大丈夫か」とか「学校は大丈夫か」とか、「いじめられてないか」とか「友だちいないけど大丈夫か」とか。


「ひとり暮らしで困ってないか」とか、「会社でパワハラ受けてないか」とか「彼女居たことないけど結婚は大丈夫か」とか「孫はまだか」……最後のはちょっと違うか。


るるさんたちに押しかけられたから、ちょうどいいやって説明押し付けたけども、そうしたら今度は「女の子になって困ってないか」とか「おトイレちゃんとできてるか」とか、「かわいい服選びで困ってないか」とか。


……全く、もう。


みんな、25にもなってる男のことを何だと思ってるんだか。


【あの、思いついたんだけど】

【やめて】

【帰れ】

【二度と顔を見せるな】

【ひどくない!?】

【草】


【で、どうしたよ】


【ああ  ……よく考えたらさ? ハルちゃん、自分のこと「僕」って言うし、今まで1回も自分のこと、「女の子だ」って……言ってなくない?】


【は?】

【え?】

【!?】

【いや、ないだろ】

【ないない】

【ありえない】


【待て待て、るるちゃんたちみんな女の子扱いしてただろうが】

【そうだぞ、ハルちゃんのコーデで盛り上がったりしてたぞ!】

【でも確かに、なんかノリはちょっと違ったような……?】


【思い出せ  ハルちゃん、るるえみリリくしまさぁんとお風呂入ったって言ってたろ】

【語呂悪くない?】

【草】

【ああうん、入って来られたって言ってたな】


【だから女の子に決まってるだろ、って言うかるるちゃん、普通に「かわいい女の子」とか「お姫様」とかハルちゃんに対して言ってたろ】

【確かに】

【もはや懐かしすぎて思い出せんが、多分】


【でもさ? もしそれが……男の子なハルちゃんのお風呂に突撃したんだったら……?】

【つまり……るるえみリリくしまさぁんは、ハルちゃんに生えているのを知ってお風呂に全裸で……!】


【!!!!】

【!?!?】

【天才か】

【おねショタ?】

【おねショタハーレム!?】

【マジ?】

【人類の夢?】


【おねショタと聞いて】

【ようやくハルきゅんの魅力が受け入れられ始めたのね?】

【こっちにおいで】

【大丈夫、男の人もそれなりに増えてきたから】

【大丈夫大丈夫、誰でも剥いて確認するまでは男の子にでも女の子にでもなれるのよ】

【なんなら男の子だって簡単に女の子になれるの】


【うわ出たよお姉様方】

【こわいよー】

【大丈夫、怖いのは最初の一瞬だけだから】

【男の子はね、誰だって素質があるのよ?】

【ショタっ子もお兄さんもおじさんもおじいさんも大歓迎よ?】


【ハルちゃんが男の子ですって!?】

【いいわね】

【ようやく私たちの主張が世間に認められ出したの……】


【ひぃっ……】

【あの、一瞬でスクロールしきれない量のコメントが】

【あの、一瞬で数百人増えてるんですけど……】

【姉御とその眷属こわいよー】

【ダメだ! やっぱハルちゃんショタっ子説は禁句だ!!】

【逃げろ逃げろ】

【ノーネームちゃん助けて!!!】

【お尻! お尻がひゅんってする!!】


【姉御ォ!】

【私のサーバーは100万人よ。 多すぎて5つくらいの支部に、数十カ国のコミュニティーがあるわ】

【こぇぇよ!?】

【何かあったら物量で通報するから。 分かったわね?】

【草】

【何この人……こわ……】

【逃げろ! 奴らの餌食になるぞ!!】





「ふぅ……」


あー。


お風呂に入ってお酒呑んでたらようやく気分が楽になったー。

やっぱりお酒とお風呂は大切だね。


これが温泉だったらなぁ……地下だから湧かないかなぁ……。


「………………………………」


ぴちゃん。


シャワーのお湯を張ったでっかい桶でしばし、あったまる。


――ここへ来て、もう1ヶ月。


ダンジョンひとり暮らしにも慣れたってのもあるけども……なによりも、セーフゾーンっぽい部屋で寝泊まりはするけども、万が一はあり得る。


だから最初の数日以外、お風呂はシャワールームの外だ。

カメラも遠くに置いて、さらに布を被せてるから大丈夫。


……こういうのもきちゃない袋に詰め込んでたおかげで、こんなに楽々できてるけども。


生活用水……一応飲めはするらしい……は、まだまだあるはず。

少なくなってきたらタオルで体を拭けば、かなり持ちはするはず。


でも。


「……もしこのまま何年も、このままだったら」


そう、思うこともある。


……最初は楽観視してたんだ。


ダンジョンなら、モンスターさえどうにかできたらドロップで食料も手に入るし、水フロアで飲んでも平気なお水がいくらでも手に入る。


でも。


「……そーゆーの、なさそうだもんなぁ……」


このダンジョンは、「普通のダンジョンじゃない」。


その可能性が高くなりすぎてる以上……もっと攻略速度を上げるべきかもしれない。


それに、僕の孤独耐性だって……そんなに持たないかもしれないんだ。


今でこそ、カメラに話しかけたりして正気を保ってるけども……もしそれが何ヶ月も続いたら。


だんだんと「他人」が存在しないことで、僕は壊れていく。

そんな気がする。


「……明日から、がんばろ」


あくまでも無理はしない範囲。

でも、自力で脱出しないとね。


なんとか這いだして、まずはるるさんを安心させなきゃ。


「……んくっ」


ぷはぁっ、と吐いた息からは、上質のお酒の香りがした。



◆◆◆



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