163話 たったの5分で力尽きる体

「ふぅ……つかれた」


僕はがんばった。

この幼女の体で。


ああだるい。

僕はだるいんだ。


【草】

【えぇ……】

【ハルちゃん、まだ5分経ってないよ……?】

【ま、まぁ、1ヶ月寝続けてさらに1週間横になるくらい消費してたってことだから……】


【延々寝っ転がって、俺得なご本のお時間を1週間配信してたのって……】

【もしかして:消耗しすぎてた体力と魔力を回復するため】

【あと、ごはん食べて体戻すため】

【繋がってしまったか……】

【ああ……】


【懐かしいこの気持ち……これは一体?】

【愛だよ】

【ラブだよ】

【推しという感情だよ】

【なるほど  ちょっとハルちゃんの寝顔集動画見てくる】

【草】


【けど5分か……まぁ石投げ続けるってのも疲れそうだしな】

【確かに】

【全力で投げてるんだったら、俺たちだって5分でもキツいわな】

【ましてやレベル1の幼女だもんなぁ】

【HPとかスタミナ的には実質レベル0からのスタート、なんなら1ヶ月間寝込んでマイナス。 実質一般人、しかも幼女だもんな】


んー、肩が重い。


「こんなの、ダンジョンに潜る前までしかなかった感覚」


かつての体育のあとを思い出すね。


あれは地獄の時間だった。

よく「なんかだるいです」ってサボって本読んでたけど。


【だろうね】

【ハルちゃんにも一般人だったときがあった……!?】

【お前はハルちゃんのことなんだと思っているんだ】

【え? 最初から天使だったってまじで思ってたけど】

【草】

【露骨な人間アピールって思っちゃうよな】

【そうか、こうやって「僕は人間なんです」って……!】


とりあえずで拾った石を4つほど両手に、とぼとぼと引き返す。


「くぁぁぁ……ねむいぃ……」


【悲報・ハルちゃん、もうおねむ】

【ああ……幼女だから……】

【今ばかりはネタでも何でもなく、本当に幼女だもんな】

【つまりこの状態のハルちゃんだったら抵抗できないから俺でもももももももも】

【草】

【おっと、ノーネームちゃんが居ないかもと思って油断したな?】


うーん……久しく忘れてたこの感覚。


肩もだるいし体もだるい。

明日は筋肉痛かなぁ……。


「……あっ」


すっかり上り下りに慣れたはずの、今の拠点の真下。

そこから見上げた僕は、気が付いた。


【あ】

【ああ……】

【悲報・ハルちゃん、登れない】

【だと思ったよ】

【そうだよね、ハルちゃんの寝床はロープで登るとこだもんねぇ……】

【そら投げて疲れたんならムリだわな】

【ハルちゃん、まさかの下で野宿?】


がんばってロープを引っ張るも、利き手が僕の体重を支えられない。


……やっちゃったなぁ……まぁしょうがない。


「しょうがないので別の拠点作ります。 ……袋、ベルトに付けたままで良かったぁ……」


【ああ、あってよかったきちゃない袋】

【きちゃない袋!】

【ほんとうに大活躍しすぎてるきちゃない袋】

【そろそろ洗ったげて……】

【お風呂のときのついででいいから……】


【ちゃんと口縛っとけば中に水が入らないって言う謎仕様の収納袋なのに……】

【きちゃない袋かわいそう】

【でもなんだかんだハルちゃんに「きちゃない」って連呼されて喜んでそう】

【きちゃない袋ずるい】

【草】


大部屋。


特筆するような地形的特色も無い、ただただ広いだけの洞窟。

その中を、せっかくだからって隅から隅まで歩いてみる。


「……改めて広いです。 今の僕の脚だと、1周で……30分くらい?」


【もっとじゃね?】

【分からん】

【広角レンズだから広いとしか分からないんだよなぁ】

【せめてカメラがもう1基あれば距離感が……】

【でも幼女の足で30分か……広いな】

【ざっと1周で2キロ……いや、幼女だから1キロ?】

【そう思うとそこまでじゃない気がしてきた】

【ハルちゃんの視点が低いから遠くに感じるよなー】

【幼女の歩幅と幼女の歩行速度じゃ、俺たちの倍以上に感じそう】


ほんのりと明るい洞窟内。


ダンジョンの中の材質って、その部屋の隅から隅が見える程度の灯りがほんのりと壁や天井から染み出しているんだ。


なんとそれは、手元の本も読めるレベル。

すごいよね、ダンジョンって。


でもこれ、外に持ち出すと消えちゃうからダンジョン内限定か、それとも微量の魔力を与え続けないとダメなのかもって話。


こういうのってわくわくするよね。

新しい論文とか読みたかったのになー。


【ハルちゃんのおさんぽが今日は長くて俺歓喜】

【分かる】

【ハルちゃん的には住処を追いやられた野良猫な気分だろうけどな】

【ああ、野良猫ハルちゃん……】

【かわいい】


【かわいそうなのがかわいい】

【この、胸にじくじくと来る苦しみと温かさは一体……】

【お前、その先は地獄の性癖だぞ  引き返せ】

【上級者からの貴重な警告】

【でもなんだろう……泣きたくなるのに……】

【ぞくぞくする】

【ああ、こいつはもうだめだ】

【ばっさりで草】


この1週間。


僕は上のくぼみの中でほとんどを過ごして、1日に1回か2回降りて適当に歩く生活だった。


一応で配信風に話してはいるけども、はたしてこのカメラがちゃんと動いてるのか、カメラとマイクのどっちも機能してるのか……さらには電波がみんなのところに届いてるかも不明。


だからもしかしたらこれ、全部ひとりごとなのかも。


そうは思うけども、やっぱり誰かと一緒だって思い込んだ方が精神衛生的にも……なによりも本当に繋がってた場合に黒歴史ってのを量産しないためにも、見られている意識は必要。


だから1日に1回、危ないかもしれない下にわざわざ降りてのきちゃない袋から出した簡易シャワールームで体洗ったり。


……1日に何回かのトイレも、やっぱりカメラは置いて下に降りてきちゃない袋から取り出した簡易トイレ――工事現場のよりもずっと綺麗でウォッシュレット付きのやつ――で済ませているんだ。


うん、万が一繋がっててカメラを頭に付けたままで両方ともやってたら全世界公開だからね……恥ずかしいし、なんかみんな狂わせちゃいそうだし。


だって……ねぇ?


こんな金髪幼女のお風呂配信とかおトイレ配信とか……ぜったい捻じ曲がるでしょ。


僕?


もうとっくに捻じ曲がった。

もう遅いんだ。


何がとは言わないけどね。


【もくもくと石拾いなハルちゃん】

【ここまで熱心に石を拾う配信者はそうそう居ないな!】

【配信者どころかダンジョンに潜る人間の中でも稀少だよ】

【そらそうよ】

【スリングショット使いなんて、珍しいってもんじゃないしな】


【いや、最近じゃそうでもないぞ?】

【あー、ハルちゃんの影響でスリングショットに転向したり、潜り始めから選ぶ人増えてるもんな】


【全ダンジョンスリングショット連盟が泣いた】

【全ダンジョンスリングショット連盟が歓喜】

【そんなのあったの!?】

【ああ、この知名度よ】

【草】


【あ、確かにHPあるな】

【会員数……百何十人とかなんだけど……】

【全世界の2割くらい居るダンジョン潜りの人口に対して、あまりにも少なすぎる】

【ハルちゃんの影響力があって、それ……?】

【だって絶対、銃か弓矢か魔法の方が楽だし……】

【草】



◆◆◆



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