162話 最盛期を知った状態でゼロからのスタート

「……えいっ」


……こつん。


【飛ばない石さん】

【石さんかわいそう】

【石ってかわいそうなの?】

【さあ?】

【草】


「……スリングショット……でもっ」


ひゅっ……こつっ。


【そこそこ】

【飛びはするな】

【だけど数メートル?】

【10メートルはないな】

【大切なパチンコが】

【あってよかったスリングショット】

【弾だけなら無限だから……】


まずは石をそのまま、次はスリングショット付けて投げてみた。


……すっごく疲れたし、スリングショットの付けるやつが重い。

狙ってるあいだに腕が疲れそう。


【しかも高品質のスリングショットであれだろ?】

【だろうな】

【ま、まだ弓も銃もあるから……】


「……じゃあ、次は弓……なんですけど」


ぐっと構えてみる。


……………………………………。


「……変な方向に暴発しそうなのでやめます」


【えらい】

【かしこい】

【ああ、その発言で弓矢の危険性知ってるんだって分かるな】

【そりゃあスペシャリストだもんな】

【スペシャリスト(空飛ぶバイクの上で流鏑馬してた】

【ああうん、世界で唯一無二のスペシャリストだな】


【弓矢って事故りやすいからなぁ】

【ボウガンならまだ……】

【そういやハルちゃん、ボウガン使わないのね?】

【そういやそうだな】

【あ、それ、多分ダンジョンでドロップしにくいからだと思うぞ】

【なるほど】

【あとそもそもハルちゃんの筋力じゃ……】

【矢を装填できなさそう】


弓矢……矢は数えるほどだけどもきちゃない袋に入ってた。

けども、そもそも弓が重いし、多分引き込めない。


……初心者用の弓なら……や、それだと威力がなさ過ぎて。


「……じゃあ、銃」


【お】

【銃なら力は……要るか】

【要るな……反動に対する】

【い、一応そういうの少ないのもあるから……】

【ハルちゃんなら構え方も大丈夫だろうし】

【拳銃ならなんとかってレベル?】


「……なんですけど、弾、あのとき使い切っちゃってるのでないです。 拾い物ならいくつかありますけど」


【あら】

【そういやそうだったな】

【弾が尽きて矢も尽きて、だから最後のるるちゃんとのゼロ距離射撃だったんだもんな】

【ああ……】

【つまり?】


「……僕の攻撃手段……ありませんね」


きちゃない袋の中をごそごそと探してみる。


銃は……拾っただけの未鑑定のも含めたら何種類か入ってるし、数発ずつならありそうな感じもする。


でも試し撃ちすらもったいない状況、しかも僕の射撃スキルが落ちてるって考えるべき。


いや、下手をすると完全にゼロになってる可能性すらある以上、僕がケガする可能性も高いし、なにより使おうとして駄目だったらその時点でモンスターさんが近くてゲームオーバー。


【悲報・ハルちゃん、本当に幼女】

【ぺろぺぺぺぺぺぺぺ】

【おっと、今は過激な発言NGらしいぞ】

【草】


……最悪の場合の自衛は、出たとこ勝負の拳銃。


しかも強さも弾数もランダム、撃った衝撃で肩とか痛める確率も、ちゃんと撃てる可能性もまたランダム。


「……ダンジョンに潜り始めた頃を思い出して……わくわくしますね」


うずうずする腕を、ぎゅっと握ってこらえる。


【えぇ……】

【草】

【朗報・ハルちゃん、バトルジャンキー】

【悲報・ハルちゃん、やっぱりハルちゃん】

【だってハルちゃんだよ?】

【だってハルちゃんだもんなぁ……】


【しかしこの絶体絶命で燃えてきちゃうハルちゃん】

【さすがは天使】

【ああうん、1ヶ月寝たままでけろりとしてる時点でもう立派に人間じゃないよね】

【ハルちゃんが天使だということが証明されてしまったな……】

【ああ……】


「じゃあ、しょうがないので」


さっき投げた石を拾って、目の前にふぃんっと投げてぽとりと落とす。


「まずは投石スキルから地道に鍛えていきます」


【えっ】

【朗報・ハルちゃん、マジで燃えてる】

【草】

【ポジティブ過ぎない??】

【ハルちゃんだもん】


ふぃんっ。


ぽとっ。


ふぃんっ……あ、もいっこ見っけ。


「元々ここ、ダンジョンの深いとこですし、それだけでもじわじわ強くはなっていくはずなんです。 で、ダンジョンの中で延々攻撃動作していれば、そのうちに戻れると思います」


昨日までの強さになるまで……前は3年くらい掛かったけども、今回はいろいろと違う。


まずもってこの特殊な幼女なこと。


どう考えてもノーネームさんのせいでなってるダンジョン産のものだから、レベルとスキルの上がり方は相当早いはずだ。


さらに。


「だって僕、『どう練習してどのくらいやったらどうなるか』って知ってますから」


【なるほど】

【一応考えてのことなのね】

【ハルちゃんったら理論派】

【そりゃあ最低でもるるちゃんと同い年だし】

【やめろ】

【やめて】

【ハルちゃんは幼女なの!】

【ハルちゃんはちっちゃくってぼんやりしててご本の知識で大人っぽくなってるだけなの!】


【ばか!】

【人でなし!】

【草】

【落ち着け】

【どうしていきなり幼女になる視聴者が居るんだ】

【同情してやれ……彼らはハルちゃんに情緒を壊されたんだ】

【かわいそう】


石を拾う。

投げる。

拾う。

投げる……ちょっと休む。


【でもそうだよな、ハルちゃん、1回は人類の頂点に行ったんだもんな】

【そうだった】

【ドラゴンノーネームちゃんとのあの戦闘とか、紛れもなく再現不可能だしな……他の誰にも】

【できてたまるか】


【フィジカルはほんとうにからっきし、すぐにおねむになる】

【多分魔力は全部筋力の補助とか防御に回してるから、魔法での攻撃もほとんど無し】

【ただただ射撃スキルで頂点だったんだもんな】


【そう思うと意外と実現可能?】

【ならお前、できるか?】

【むり】

【ゆるして】

【現役のプロでも初心に返るレベルにどうやってたどり着けと?】

【ごめん】

【いいよ】

【草】


投げては拾ってして前に歩くほどに、どんどん集まってくる石。


こういうのって良いよね。


「そうなると索敵スキルも機能してないってことになるんですけど……こればっかりはもうしょうがないので、このままこの大部屋を出ないで鍛えます。 モンスターが入って来ちゃったらもうどうしようもないってことで」


休み休みで石を投げる。


今、僕にできることはこれだけだ。


【まぁ、そうなるな】

【いつモンスターが来るか分からないのに冷静なハルちゃん】

【素敵】

【このメンタルの強さは見習いたい】

【ポジティブって大切よね】

【早く強くなれると良いな】


【もっとも、その階層で出て来るモンスターなんて高レベルすぎるだろうし……弱いモンスターでのレベリングとか、パーティー組んでのパワーレベリングとかできないけどな】

【ハルちゃんは定石を無視するからハルちゃんなんだ】

【そうだそうだ】


【お前ら、逆に考えろ。 ……これ、見方を変えたら――ハルちゃんがあの強さになるまでの、再現可能なRTAになるぞ……?】


【!?】

【天才か】

【ここに天才が居た】

【この瞬間から目の色が変わるダンジョン関係者】

【やはりハルちゃんはハルちゃんだったか……】



◆◆◆



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