156話 「呪い様」に憑かれた少女 その1
「……ん。 もしもし……るる? 今日の貴女はオフだから別に連絡しなくても……え? 時間が空いたから、ダンジョンをソロ攻略したい?」
とあるダンジョンでの配信中に連絡が入った三日月えみは、普段は一緒に居るパーティーメンバーからの連絡を受けた。
なんでも今日は休みになっている深谷るるが、自発的にダンジョンへ潜りたいとのことらしい。
そんな彼女の反応はもちろん、
「却下よ。 ちゃんと休んでいなさい。 じゃ、切るわね」
『ま、待って待って待ってよえみちゃん!?』
『いえ、あなた、「呪い様」のせいでいつも大変でしょう……?』
『そ、それは分かってる! 分かってるけどね、えっとね、マネージャーちゃんと相談したんだけど!』
「……マネージャーさんと……そう。 具体的には?」
ちらりと他のパーティーメンバーを見やる三日月えみ。
彼女たち――数人の少女たち――は、危なげなくモンスターとの戦闘中。
「少し外すわね」というハンドサインを送り、深谷るるの話を聞くことしばし。
「……あー、なるほど……生え替わりの時期前、それもモンスターの出現率が低めのダンジョン……」
『うん。 私もそろそろ、こういうところでえみちゃんたちに迷惑掛けないように練習したくって。 だからマネージャーちゃんに頼んで』
「……正直、私としては反対のままなんだけどね」
『えみちゃん、そこをなんとか! だって私!』
「ええ、分かっているわ。 別に、いつもの「不幸」は貴女のせいではないって……貴女が普段からトレーニング施設でがんばっているって。 レベルだってスキルだって、ダンジョン内で知るべき知識も並みの中級者以上なんだもの」
三日月えみを始めとする彼女たちのパーティー、もとい事務所メンバーは、いわゆる「上位陣」と呼ばれる存在。
ダンジョンに入ると上がるレベルが10を超え、いくつかのスキルを鍛え、戦闘経験を積んで深い階層に潜れるようになった人間。
通常、年1回のレベル更新の際に「トップ500」として名前が出る存在。
もっともレベル更新は義務でもないし、副業だったり名前が出ると不都合な人間は非表示にできるし、なによりレベルが上がっていないだろうと思う人はレベル更新をしないため、全員が全員名前と顔を知られているわけではないが。
そして三日月えみは上位陣でも名の知れた――高校生にして新進気鋭の「アイドル」。
彼女に続く他の少女たちも、半分くらいは上位陣に入っている。
そして深谷るると言うと――「うん……『呪い様』で『不幸』ばっかり起きなきゃ中級者の中でも上だよね……すっ転ばなきゃ……」と評価される少女だ。
「呪い様」。
彼女の配信のリスナーたちが付けたその存在。
彼女が……たとえじっとしていようともどこかから何かしらが飛んでくるほどの「呪い」。
『ありがと……それに、昨日潜った人の報告でもモンスターは少ないんだって。 100階層あるダンジョンだけどアクティブなモンスターは少なめ、FOEも確認されてない。 踏破済み。 だから、レベルは最大でも「中」なの』
「……ま、るるはいつも申し訳なさそうにしているし、こっちも何とかしなきゃって言っていたものね」
『じゃあ!』
「マネージャーさんとよく相談して、あと何かあったときのために配信もしておいて。 普段みたいに私たちがいないから、緊急離脱装置も気楽に使ってちょうだい」
『やった!』
「あなたにケガさせたってことになったらファンたちから怒られてしまうわ。 くれぐれも『呪い様』には気をつけて……荒ぶってる日だと思ったら、すぐに引き上げること。 良いかしら?」
『うん! じゃあ私、今日の攻略予定をマネージャーちゃんと相談して来る! また夕方にね、えみちゃん!』
ぷつんと切れる電話。
(よほど嬉しいのかしらね……ダンジョン関係では珍しいわ)
くすりと笑うえみの元へ、戦闘を終えたメンバーが休憩時間ということでマイクをオフにして集まってくる。
「えみちゃん、良いのー? るるちゃんのこと、心配でしょー?」
「ええ、心配よ。 けど、あの子はずっと前から役に立てないって悩んでたから」
「そうだねぇ……そもそも『「呪い様」があるから』って、私たちの事務所にもなかなか入ろうとしなかったもんねぇ……確かにえみちゃんが熱心だったように、ポテンシャル高かったのに」
「ええ。 あのときもみんなが賛成してくれたから」
「いいのいいの、今じゃあの子が居ないと配信盛り上がらないんだから」
「そーそー、今日だって『るるちゃんが居ない……』って、リスナーさんたち寂しそうだもん」
「まー、あの『軽い治癒魔法で直せる程度の不幸』って、るるちゃんが明るくしてることもあって、笑い、誘うもんねぇ」
「大変なんだろうけどね。 でもるるちゃんが『笑って』って言うし、笑ってあげないとね」
「ええ。 そこから……そろそろ1年くらいになるかしらね。 あの子の立ち回りも知識もレベルも、普通なら問題ないんだもの。 マネージャーさんがOK出したんだから、たまには好きにさせてあげないとね」
「もー、そうやってお世話焼きだから『お母さん』とか呼ばれるんだよー?」
「そうそう」
「……私、まだ高校生なんだけど……」
「配信でも、今の話し方にすればちょっとは良くなるんじゃない?」
「いーや、『逆に完全におかん』って言われるかも」
「あー」
「ここに来てえみちゃんのマジメっぷりが裏目に」
「話し方変わったらやっぱ印象も変わるもんねぇ」
「……はぁ……私、リスナーさんたちの大半よりも年下のはずなのに……」
◇
「……じゃ、じゃあ! マネージャーちゃんもえみちゃんもオッケーって言ってくれたから、本日は私ひとりでの攻略だよ!」
とあるダンジョンの1階層。
ふよふよと浮かぶカメラに向かって嬉しそうに話す少女がいた。
【やめて】
【やめときなさい】
【おとなしく雑談配信しよ??】
【やだ、るるちゃん好戦的】
そんな彼女の宣言に、一斉に「止めなさい」と言う視聴者たち。
「やだ! 今日こそはやってやるんだから!」
【大丈夫? 「呪い様」フィーバーしない??】
【ま、まあ、いざとなったらリストバンド使えば良いし……】
「そうだよ! ちゃんと調べたし、装備も荷物も充分! レベル的にも命の危険なんてないんだから! いつまでも足を引っ張る私じゃないって、今日お披露目しちゃうよ!」
【ほんとぉ?】
【ちゃんとリストバンド使って……】
【もう押して良くない?】
「もうっ! まだ潜ってないよ!」
深谷るるのレベル、スキル、装備、道具。
どれを取っても、この時期のこのダンジョンには過剰戦力だった。
強いモンスターも少なく、ルートもほぼ全て情報共有されており、弱いモンスターに囲まれてもリストバンドを使うまでもなく。
よほどの不幸が重ならない限りは軽々と踏破されたはずの100階層へ到達できるはずだった。
――「普通だったら」。
◇
「えいっ!」
傷ついたモンスターが、HPが減って変わった攻撃モーションで突撃してくるのを躱しながら大きく脚で蹴り飛ばす、深谷るる。
どすんと倒れたイノシシのようなモンスターに少し警戒するが、すぐに「ふぅっ」と息を吐く。
【るるちゃんつよい】
【危なげない】
【るるちゃんがこんなに積極的なの初めて見た】
【俺も】
【るるちゃんは回避盾もできるから「呪い様」発動しなければほんと強いよね】
【本当にな】
【普段からこうなら普通に強いのに……】
【るるちゃんって近接戦は何でもできるもんな。 今だって普通に剣で戦ってからのモンクしてたし】
【不幸で鍛えられてるからな】
【たまに曲芸するもんな】
【あ、さっきの巻き戻したらふとももがががががが】
【はいはい、テンプレテンプレ】
【お前ら気をつけろよ? 「呪い様」が見てるぞ? なんてな】
◆◆◆
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