145話 幼女な体でのお買い物

「ほぇ――……」


2度目でも思わず声が出るくらいに町はおっきかった。

やっぱり、このちっちゃい体に対してはなんでもおっきいね。


今はさっきとは違ってちゃんと服も着て、痴女スタイルでも痴漢スタイルでもないから安心。


もうあんな思いはしたくない。

危うく僕が僕じゃなくなる危険まであったんだ。


「ふぅ」


家からは離れた駅前まで来て、隠蔽を少しだけ落としてっと。

その途端に人の目がちらちらと向くようになってくる。


本当、隠蔽スキルってすごいね。


昔から存在感薄いって言う似たスキル持ってたけども、あれとは明らかに違うんだもん。


最初は近くを歩いてた人の目がぽつぽつと、そしてだんだん通り過ぎてからちらっと振り返ってから。


おっと、これは落としすぎか。


ただでさえ幼女、あんまり落としすぎるとおまわりさん呼ばれちゃう。


「……………………………………」


みんなの様子を見ながらいい感じに調節。


さっきもちゃんとできてたけども、ちょっと慣れたらもっとうまく隠れられる。


僕は隠蔽のスペシャリストになりたいんだ。

具体的には怖いヤンキーとかに目を付けられない感じにね。


周りの人たちの反応見ながらこうして落としたけども……やっぱ相当スキル上がってるっぽいなぁ。


町中では使ったことないけども、ダンジョンではいつも起動中のこれ。

このくらいかなって感じから3割くらい意識して落とさないとって感じ。


落としすぎるとぶつかられちゃうからね。

人として認識されないのも良し悪しだね。


で、今は……「そのへんに居てもおかしくない小学生」程度。


時間帯的にもこれくらいで問題ないよね。

うん。


ぷらぷら歩きながら観察すると、男はあんま見てこなくって、女の人はよく見てくるらしい。


……この体と同世代な子たちからはよく見られるね……まぁ当然か、そもそも背丈とか視点が近いもんね。


けど隠蔽のおかげで多分、つかみどころもないモブっぽい感じになってるはず。


隠蔽スキル様々、ダンジョン様々だね。


けど、やっぱ女の子ってなると、ほんと女の人とか女の子。

あとはこの見た目で気を引くっぽい同世代の男子……あと多分ロリコンさん。


その人たちからの視線が向いてくると「視線が痛い」って言葉が体験できる。


電車の中でくしゃみしちゃったときとか、教室でペン落としちゃったときみたいなあの感じ。


対人恐怖症とかは発症してないはずだけども、これ、ずっと続くとなりそう。


あー、美人さんでメンヘラさんが多いとか嘘じゃないかも。

本当かどうかなんて、万年彼女無しには分からないけどさ。


男の僕はそこら辺にいるメガネなモヤシ。


でも意識して普通に振る舞ってるから「変な奴」とすら認識されず、存在感はほぼ無かったはず。


でもこの体になってると、おんなじことしてても……ただでさえ小さい女の子って属性で注目されて、その上洋画とがに出て来そうな見た目だもんなぁ……。


……早くスーパーで買って帰ろ。

今の僕は夕飯が必要なんだ。





「……重い」


何がって、そもそも買い物カゴから重い。

あと、でかい。


何?


これ、普通の買い物程度しか買ってないのに、両手で持つと転びそうなんだけど……買い物ってこんなに大変だったっけ……?


こりゃあ極力配達で済ませた方が良さそうだなぁ。


できたら野菜とかは見て買いたいけども、この体はデメリットがおっきい。


ちっちゃい体って不便よねぇ……。


でも、思い出す。


『あらー、小さいお客さん』

『お母さんのお手伝い? 偉いわねー』


『あなた、どこ小? あんまりこの辺で見ない顔だけど!』

『本当はこれダメなんだけどねぇ……でもお料理用だから内緒ね?』


普通に出かけても話しかけられることなんてなかった僕が、たった1回の買い物でこれだけ立ち塞がる敵に出会っただなんて。


……疲れた。


もー二度と行かない……いや、人の居ない時間帯で若い男とかの店員さん相手なら大丈夫かぁ……けど何さ、あの怒濤の声掛け事案。


ほっといてほしいって言ってるじゃん。

言ってないけど。


僕は繊細なんだ。


みんなのばか。


「ぐす」


あ、ちょっと涙出て来た……この体、本当メンタルが繊細になりすぎてない……?


でもそうだよね……あんなに人から話しかけられるのって学校卒業して以来だもん……。


……隠蔽しててもおばちゃんおばあちゃん、お母さんくらいは容赦なく話しかけてきて同世代の女の子は「どこ中よ?」みたいな軽いノリで話しかけて来るし……なんなのあれ。


この町ってこんなに治安悪かった?


分かってる。

分かってるよ。


子供属性、しかも女の子属性。


町で見かけた初対面の相手に遠慮なくぐいぐい行く系の人にとっては「声かけなきゃ!」って思う対象だよね。


……そういや普通に生活してても、僕みたいにひとりで歩いてる女の子とか、ナンパとかじゃなくても店員さんとかに話しかけられてるもんなぁ。


普段はそそくさってその横を通って逃げてるけども、今回はそう行かなかった様子。


「ふぁ――……疲れたぁ」


なるほどね。

ロリ属性ってだけでここまでか。


……うん。


買い物中も隠蔽、人として認識される程度にしよ……間違っても今日みたいに「お試しで……」って出来心で隠蔽解除したりしない。


もうやだもん。


けど、お会計のとき、ダンジョン産の隠蔽使っても割ってくる母性パワー強すぎ……あ、でもそのおかげでお酒買えたのかな。


ただの料理酒だけど。


……ぺこっ。


「んくんく」


んー。


非常食のお酒版な料理酒も、ちょっとならこれでなかなか……


「……………………………………はっ!?」


ばっと周りを見る――けども、幸いにしてちゃんと擬装してたし、そもそも僕を見てる人はいなかった様子。


……危なかったぁ……!


いけない、つい無意識でストレスでお酒に手が伸びるとか。

しかも外で、しかもしかも幼女姿で。


「……………………………………」


……僕って、もしかして……ちょっとやばい……?


いや、大丈夫。


ストレス社会に適応したサラリーマンならごく自然にカップ酒あおって帰るくらいは普通普通……。


だよね?



◆◆◆



今年も今日でおしまい。お付き合いくださりありがとうございました。来年もできるかぎり毎日投稿&新作の予定もありますので、追っていただけたら嬉しいです。


明日からも大体13時過ぎに投稿&次章は1月13日前後から開始です。年末年始はまだのんびりとTSシーンをお楽しみくださいませ。


なお、作者ページからフォローしていただけますと書籍化の進行具合や発売日の情報をいち早くお知らせ&ハルちゃんを含めTS要素のイラストで少しだけお得になるかもしれません。


良いお年を。また来年もよろしくお願いします。あずもももでした。


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