137話 お酒を呑む幼女 うん、犯罪的だね
「ん――…………ぷはぁ」
夜。
夜と言えばお酒。
夕方と言えばお酒。
そういう訳でお試しのお酒。
思ったよりも酔わなかった。
幼女なのに。
や、酔ってはいるんだけども……昨日までとおんなじ感じ。
なんならカゼ引いたりしてるときよりは酔わない感じ。
良いよね、僕、法律的には成人してるし。
肉体的には幼女だけども法律的には成人だもん。
会社なのに法人格とか付けて税金安くするのが合法なんだから、幼女でも成人って言い張ってお酒呑んでも良いよね。
大丈夫、しょせんはただの1個人だし、かわいいもんだから。
「あー……おいし」
口の中で味わって、喉で味わうお酒。
いい香りと刺激が僕を包み込む。
高いお酒はやっぱ良いよね。
普段は安酒だけども、こういうときのためにって冷蔵庫の中はついもスタンバイしてるんだ。
やっぱり高いのは違う。
安いのもおいしいけども、高いのだって呑みたい。
それが働くモチベなんだ。
僕はそのためだけに生きているんだ。
「それにしても女の子かぁー。 こんなことになるなんて思ってもみなかったぁ」
ひとり暮らしになるとひとりごとが増える。
だって何日もしゃべらないでいると、とっさの受け答えで「あ……あ……」とかしか出せなくなったりするんだもん。
だから声帯を使っておくことは大切。
断じてこの子の声がかわいいからとか、僕がこの声を出しててなんかぞくぞくするとかそんな理由じゃ決してない。
ないったらない。
多分ね。
けども、ダンジョンの願いの泉っぽいところで女の子に。
いやまあこれ、超レアケースだろうから他になった人とかいないかもだけどさ……今の僕のこと考えたらゼロとは限らないよね。
もしかしたら、この世界には無数の幼女がいるのかもしれない。
みんながそれぞれ、大事になるし、どうせ信じてもらえないからって隠したまんまになってる系幼女が。
なにそれ怖い。
無数の幼女。
しかも中身は男。
……そう思うと幼女の価値が大暴落する気がするからやめとこ……。
でも多分、そんなにはないだろうとは思う。
だって僕が、こんな女の子にだよ?
こういうことが普通の人の身に降りかかったら絶対騒ぎになるって。
僕だって隠蔽スキルなきゃ、そんなに経たないうちに誰かには見とがめられて問題にされるもん。
僕は多分大丈夫だろうけどね。
隠蔽スキル様々、つまりはダンジョン様々だ。
「あー、お酒は良いなー」
これからどうしようとか将来の不安とか、ぜぇーんぶ吹き飛ぶもん。
「……………………………………」
……なんかこの体、酔いとは関係なしに感情が上下しやすいらしい。
今はこのくらいで。
お酒を置いてお水を1杯。
「ふぅ」
ほろ酔い過ぎると本読めなくなるから、がんばってセーブセーブ。
けども、意外とこの体も呑めるんだなぁ……改めて。
見た目はちっこいけど中身は大人のままなのかな。
ちらりと鏡を見る。
お酒でちょっととろんとしてて、顔がちょっと赤くなってて、汗をちょっとかいてて、髪の毛もちょっと乱れてて服もちょっと乱れてる金髪碧眼幼女がいる。
やばいね。
アルコール入ってるから、ただ「かわいいなー」としか思わないけども。
……けども、中身が大人のまま。
つまり、第二次性徴も?
「……………………………………」
女の子。
第二次性徴。
それで浮かぶスプラッター。
……血が出て来たら考えよ……あ、でも、生理用品とか買っといた方が良いのかなぁ……?
母さんの買い物で荷物持ちするとき、薬局とかで普通にそういうの買ってるのよく見てたし……割と使うんだなぁとは思ってたけども。
まぁいいや、そのときはそのときで。
ある日おまたから血がだばぁしてから怖がればいいんだ。
今怖がったって、ただの杞憂にしかならないもんね。
「ふぅ……」
ぽーっとしたまんま、部屋がちょっとふわふわする感覚を楽しんでた僕は、それが思ったよりも早く引いて行ってるのを自覚する。
ふと思って、回復魔法。
僕のは初級だけども、二日酔いとか偏頭痛程度にはよく効くから重宝してるそれを行使。
ダンジョン外だと効きが相当落ちるのが魔法だけども、軽いのには使えるんだ。
……けども、治癒魔法……思ったより威力上がってる……?
なんか普段より少ないMPで酔い、醒めたんだけど。
じゃあもう1杯。
僕はぐいっとお酒をあおる。
……ま、これについては損しないけども……それならもうちょっと弱めにしないと、せっかくの酔った感覚なくなってもったいないなぁって。
せっかくのお酒が泣いちゃうよね。
うん、気をつけよ。
……けど、こんな見た目じゃ外は危険だ。
普段のスーパーとかでの買い物も全部ネットってことに。
……いっこいっこカートに入れて……めんどくさぁい……。
ま、明日には戻ってるかもしれないしそこまで心配しなくて良いだろうけども。
そうだといいな。
戻ってて?
こんな田舎でこんな見た目の女の子がひとりで歩いてたら……それだけでおばさんとかに、ありがた迷惑にも手とか繋がれてお巡りさん、連れてかれちゃうよねぇ……。
うん。
控えめに表現してもかわいい女の子。
幼女。
被保護対象。
男の僕でも、庇護欲をかき立てる見た目なんだ。
男の人以前に女の人にも見つかりたくないかなぁ……とと、トイレトイレ。
お酒でぽーっとしてるからか、ふらふらと歩いて行った先のトイレに入って、便器におしり向けたところで「そういや普通に座れないんだった」って思い出して、よいしょって全身を使っておしりを乗せて、それで――。
しゃああああ。
お酒臭。
お酒しか出てない錯覚。
「……ふぅ」
……あんなに恥ずかしかったのに、もうすっかり慣れた僕ってすごいのかどうなのか。
まー、世界の半分の人がコレだって考えたら普通なんだろうけどさ。
◇
「……あしゃ……」
こつんとお酒の瓶に頭が当たって目が覚めた僕。
お布団の周りで酒盛りしてるとこうなるよね。
大丈夫、思いっ切り強打したときに比べたら何てことはないから。
「……………………………………」
もそもそと起き出す。
――布団についたちっちゃなおてて、ちっちゃな足、細い脚に……ぷらぷらしない、穿いてない、すっきりしすぎているおまた。
うん。
「体、戻ってないなぁ……くぁぁ……」
……こりゃあ長引くかもなぁ。
女の子になるっていう、とんでもな「これ」。
「……あー、また有休ー……僕の今年の分がぁ……」
ま、しょうがない。
ダンジョンの中でFOEに絡まれて一撃死とか、半身不随とかが残る類いのとかじゃない。
五体満足……ある意味全部失って全部新しくなった感じだし。
長い人生、こういうこともあるよね。
気持ち、切り替えないと。
――僕は女の子になってる。
下手すると何日、何週間……何ヶ月このままで。
ってことは、この姿でどうにか生計立てなきゃいけないんだ。
……顔も何もかも変わってるんだ、DNAとかも完全に別人のはず。
つまり現状、僕の記憶でしか僕の連続性も確実性も保障されない。
僕自身ですら疑問に思わなくもなって来たし?
怖いから考えないようにしてるけども。
ダンジョンの中で起きたこともないようなこーんなの、ダンジョン協会が信じてくれるとも限らないし、父さんたちが信じるかすら怪しい。
んじゃ当然お巡りさんとかもダメ。
下手すりゃ何も聞いてくれないまでありそう……だってこんな子供だし。
ダンジョンのせいで大人の男がこんなかわいい、
「……………………………………はっ!?」
……鏡に映った、金色でおしりまである髪の毛が盛大なことになってる、蒼い目のちっちゃい姿を見た僕は、息が止まるくらい見つめ合ってたことに気が付く。
……鏡もあんまり見ないようにしとこ……で、でも、こんなかわいい子になったとか普通じゃ納得できない。
少なくとも僕なら信じられないよ。
例えば父さんがこうなったとか言われても、よっぽどのことがなきゃあねぇ……。
「あー」
こういうときに友達……しんゆーとかいるんだったらなんとかなるんだろうけども、僕、そんなのいないからなぁ……いや、知り合い程度ならいるけど。
突拍子も無いこと信じてくれるような素敵な人はいないかなぁ。
「……こんなところでぼっち気質があだに……」
今ってこういうの、陰キャとか言うんだっけ?
いや、違う。
陰キャさんたちだって群れるんだ。
本気で本が友達だった僕みたいなのは、陰キャってのすらなれなかったんだから。
全てにおいて世界からつまはじきな存在。
悲しきは致命的に希薄な人間関係。
……うん。
男に戻ったら、なんとかして友達作ろっと……。
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