136話 初めてのトイレは神秘だった
気が付けば夜。
なんてムダな有休の使い方だ。
悲しい……けども、結局だらだらして本読んでたからいつもと大した違いはないけどね。
……か、カゼとか引いたって思っとこ……体の調子がおかしいってのは本当だしさ……うん。
忙しいときに限って体調崩すとかよくあるもんだし、そういうときって何日か行動不能になるもんだし。
人生長いんだからそういう日もあって良いんだ。
1日中布団でぐだぐだしてる日もあって良いんだ。
本も2冊読めたんだし、うん。
……けど、ぜんっぜんお腹空かないんだけど?
僕、確か朝もろくに食べてないよね……?
で、昼間は気が付いたら夕方までぐっすりお昼寝してて。
なんか怖いんだけどこれ……。
食べようと思えば食べられるんだけども、すぐにいっぱいになる感覚。
「おなか空いたかも」とは感じるけども、「でも別に食べなくてもいいや」って無意識で思ってるらしい。
何これ……怖。
……ま、まぁ、今日は家の中でじっとしてたり寝てただけだし?
「……………………………………」
と。
そうやってごまかしてきたわけだけども。
水分取らなきゃ大丈夫ってごまかしたけども。
そんなものは人間に、生物には通用しない。
つまりはトイレだ。
尿意だ。
生物なんだ、おしっこしなきゃ死ぬ。
恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。
犬を見るんだ、道端でしてるじゃないか。
我慢しすぎて膀胱が破裂することもあるらしいし、そうならなくとも毒が体に回って死ぬ。
だから出さなきゃいけない。
恥ずかしいとか言ってる場合じゃない。
女の子どころか犬とか猫だって、鳥さんだって虫さんだって出すんだ。
そんな当たり前の事実が、さっきから頭の中をぐるぐる回ってて……体はもじもじと、必死に我慢してきた。
でも、もうダメ。
そろそろ出さないと手遅れだ……具体的には漏らす。
漏らすのはダメだ。
男としてのプライドが完全消滅するんだ。
僕、今は女の子だけども男としての矜持は死守したいんだ。
……さぁーて。
行くか。
トイレ。
まだ別人みたいな気がするこの子には悪いけども、下手に漏らしてびしょびしょになって、きちゃなくなったそこを丁寧に何回も拭くよりかはずっと良いでしょ?
多分、普通にトイレするよりもそっちの方がよっぽどやばい。
すること自体も絵面も何もかも。
だから、もし僕が乗っ取っちゃってたりして、明日の朝戻って今日の記憶があっても……通報しないでね?
ニュースに名前と顔が載っちゃうから。
この体は僕だけどもなんだかそう願いたくなる、今日このごろのこんなご時世。
だって、今の社会で1番立場が弱いのは独身の男なんだから。
◇
しゃああああ。
朝も昼も食べてなかったからか、今ごろになって初めてなわけだけど。
しゃああああ。
……やっぱここから出るんだよねぇ……おしっこ。
「はぁぁぁ――……」
しゃああああ。
まだまだ出る出る液体。
どんだけしまい込んでたんだろうね。
と言うか、聞いてたよりもずっと我慢できるんだね。
女の子の膀胱って。
これが、僕の意識が男で男らしく我慢できたからなのか、それとも実は出る量が少なめで時間が掛かってるのかは不明。
だって男のときとは違って、量、調節できないもん。
ただただしゃああああっと出続けるのを待つだけ。
……だ、大丈夫……落ち着こう。
どんな女の子だって、つまりは世界中の人口の半分はここからトイレしてるんだ。
だから特別なことじゃないし、なんなら赤ちゃんだってしてるんだ。
そう、なにも特別なことじゃ……。
ふわっと甘い香り。
……え?
なんで?
おしっこから良い匂いするの?
糖尿病?
まさか。
そうは思ったけども、良い匂いなんだからしょうがない。
決して僕がヘンタイさんなわけじゃない。
わけじゃない。
そうだよね?
そ、そうだよ、きっと。
下からの音と香りと、うっかりのぞき込んでなんにもないおまたを見ちゃった罪悪感から、僕は別の方向に意識を投げ捨てる。
性転換。
しかも別人に。
その点で言えばむしろ、僕みたいに男が女の子になる方がダメージは少ないどころかご褒美しかないんだから当然だ。
逆に考えてみて?
女の子が男になっちゃった方が大変なんだからさ。
ほら、男のなんてまずもってにょろって出てるし?
皮剥かなきゃあちこち飛び散るし、うっかりで変な方向行っちゃうし。
タイミング次第じゃ下向かないし、何もしなくてもなるときもあるけども、敏感なもんだからちょっと触って固くなっちゃったりするし、それでトイレ失敗する可能性があることを思えば、
「……………………………………んぅっ」
ようやく膀胱が空になった解放感と、最後に残ったのを出し切りたい欲でお腹に力を入れた僕の口からやばい声。
……え。
何、今の声……僕?
僕が出したの?
今の?
幼女なのに?
なんかとんでもなく色っぽいって言うかやばかったんだけど?
え、なんか……やばいんだけど……?
語彙力が破壊された僕。
「……………………………………」
今のでおしっこの恥ずかしさは吹き飛んだ……って言うか、出しちゃえばそこまでじゃないかもって思えてきた。
なるほど、インパクトはより強いインパクトで打ち消せば良いんだね。
なんかやばい方向に向かって気がするけども、きっと気のせいだよね。
うん。
あ、でも拭かなきゃだよねぇ……。
じっとおまたを見る。
なにもないおまたを。
棒も袋も無いもんだから水面が見える空間を。
女の子のおしっこのこと綺麗だって言うけど、実際は男とそう変わらないでしょ……?
いや、でもなんだか匂いが。
「……………………………………」
なんか胸がきゅんっとしそうだったから慌てて思考を強制的に正常な思考に引き戻しつつ、無心でからからと回したペーパーでそっとそこを
「……あいたっ!?」
……普通に拭こうとしたら、普通に痛かった。
痛みのおかげでピンク色になりかけていた思考が完全に正気に戻る。
……危なかったぁ……けども、な、なるほど……。
ここ、おっぱいの先とおんなじってよりもずっとずっと敏感なのかぁ……いや、それ言うなら男の体のここの先に生えてたはずの棒の先っぽとおんなじだよね。
そうだよね、男と女って全然違うけども、機能としてはおんなじなんだから。
「……………………………………」
けども、びりってした場所の配置に少なからず怯える僕。
え、こんな真ん中にあるの……女の子の。
さっき鏡で見た配置を思い出して「なんか間違ってないのかな、これ……」って言う気持ちを整理中。
こ、こんなとこ見過ぎちゃいけないいけない、思い出し過ぎちゃいけないいけない……。
多分しっかり吸い込んだだろうってくらいになってから手を離して、ぴょんと便器から飛び降りる。
……なんか踏み台ないとトイレすら大変だな。
じゃーっと流れていく僕の香り。
……けど、うん、がんばろ。
これからは、がんばって見ないようにしないと……いつまで続くか分かんないけども、続くあいだは。
なんかこう、興奮と一緒に罪悪感がひどいから……うん。
◆◆◆
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