43話 『80Fダンジョン攻略RTA&救出作戦』1

「と言うことでるるさん以来の救助要請行き……あ、意外と最近ですね、救助要請」


【草】

【まーたゲリラ配信してるよハルちゃん……】

【意外と最近も何も、まだ2週間経ってないんですけどそれは】

【まぁ救助要請は待ってくれないし……】


どうしよっかなって迷ったけども結局配信することにした。


や、配信機材もダンジョン前のお店で買えるって聞いて……ほら、懐が温かくなったから試してみたくなってね?


【けど救助要請に駆け付けるって本当だったんだな】

【今日は配信の予定なかったし】

【と言うかこんなときでもひとり?】

【援軍、総勢1人!】

【しかも幼女!】


【援軍総勢1人の心強さよ】

【普通なら絶望する数だけどハルちゃんショック以降は流れが変わったな】

【ハルちゃんショックで草】

【まーたワード爆誕してるよ……】


「今日は普通に町で買い物してたらリストバンドが反応したので……ダンジョン前のお店で普通の装備買ってきてます」


【え?】

【それ普通じゃ……いやハルちゃん普通じゃない子だったわ】

【草】

【普通とは……普通とは一体……】


【お出かけってるるちゃんたちと?】


「あ、はい。 そうです、誰か2人に連絡しといてください。 急いで来たので、多分今ごろになって僕が居ないって慌ててるはずなので」


【えぇ……】

【草】

【悲報・ハルちゃん脱走癖ついちゃった】

【飼い猫かな?】

【野良猫かもしれん】

【まぁ経緯が経緯だし……】


【脱走幼女とか斬新すぎる】

【保護者はどこだ!】

【えみちゃんたちってことになってるんじゃ?】

【もうだめだ……】

【草】


【とりあえずSNSでリプ飛ばしといた。 事務所の担当がこの時間見てくれてたら気が付いてくれるだろ】

【と言うかせめてハルちゃん電話1本しなよ……】


「いえ、時間がもったいないので」


スナイパー職にとって、心拍数はかなり大切。


僕的には50くらいが1番当てやすい感じだけども、今回は結構急がなきゃいけないかもしれないってことで無理のない範囲で走る予定。


【他のパーティーは来てないのん?】


「何組か見かけましたけど、入り口で要請出した人たちの話聞いてたので置いてきました」


【草】

【草】

【ひどい】

【いや、そこは聞きなよ】

【協力すれば良いのに……】


【足手まといは置いてきた!】

【えぇ……】

【ハルちゃん、人の話……いや、ハルちゃんはもうそれでいいや……】


【ま、まあ、実力はあるから……】

【ついでにあのるるちゃんを助けた実力もな!】


【あ、じゃあ大丈夫だわ。 あの不幸っぷりを超える人なんていないだろうし】

【草】

【そう言えばもう不幸のるるちゃんって言われなくなったね】

【そのへん全部ハルちゃんが持ってったからな】


【と言うかハルちゃん……走ってる?】


「ちらっと聞いた話だと、そのパーティで取り残された人、ボスフロアだそうなので急ぎます」


【えっ】

【うわ、かわいそ】

【と言うか1人かよ……】

【あ? 見捨てられた?】


「事情はそのうち分かると思いますけど……みんなぼろぼろだったのでしんがりを引き受けたのかもしれませんね」


何となくヤな予感がしたもんだから、お店でも速攻で必要なものだけ買ったし、その人たちの話も装備してるあいだに聞いただけ。


ひょっとしたら聞き間違いとかあったかもしれないけども、今はボスフロア……何階層か分からないけども、そこに1人で。


救助要請してるってことは、その子のリストバンドは壊れてるか無くしたか……それともパーティーの誰かのために譲った可能性が高い。


――つまりは、あのときのるるさんと一緒で死んじゃう可能性があるんだ。


「と言うことで、今からこのダンジョンを最速で突破します。 あ、配信してるのは新型の配信機材に心惹かれたとかじゃなくって、最新機能がいろいろおもしろそうだからじゃなくって、えみさんたちが心配しないようにってのと現在地と状況を共有するためですから私欲じゃないですから経費にしてくださいって言っといてください」


【ハルちゃんめっちゃ早口で草】

【ハルちゃんこんな長文しゃべれたんだ……】

【よくかまないね……走ってるのに……】


【なるほど、配信機材に惹かれたんだな】

【分かる】

【新しい機械って欲しくなるよね……】

【すっごくよく分かる】


【けど新しいのって……えっ】

【あの、haruzon見たら今月発売のって3ケタ万円なんですけど……】

【経費でできるならまぁ……】

【あ、そうだったな。 もう個人じゃないんだもんな】


【ちょっと悲しい】

【始原は悲しい】

【始原しょんぼり】

【始原はしょんぼりしています】


【泣かないで】

【唐突な始原で草】

【まぁハルちゃんの配信なら来るよね……】


「じゃあウォーミングアップも終わったので全力で行きます。 画面酔いとかは……カメラの補正に期待ですね」


【OK】

【……待って、これ、今からハルちゃんの全力ってこと?】

【しかも市販品の装備で……】

【これでようやくスペックの比較が……できないか】

【草】

【ハルちゃんのスキル、ほんっといろいろおかしいから……】


「……ふっ」


ダンジョン内でレベルアップすると、普通じゃ無理なくらいまで体が鍛えられる。


それはもう、こんな幼女なのに何時間でも止まらずに走ることができるくらいには……ものすごく疲れるからやりたくないけどね。


【うわようじょはやい】

【ちょ、こんな全力じゃすぐスタミナ切れちゃう】

【あ、RTAだから石拾いとかしないのか】


【なんか普通の配信っぽいな】

【多分すぐに普通じゃなくなるだろうけどな】

【ああ、そんな信頼がある】

【絶大な信頼がな】

【草】


今日の目標は配信でもドロップでの稼ぎでもレベリングでもキャンプでも遊びでもなく、人助け。


ひょっとしたらすでに潜ってた人がその人のところに近くなってるかもしれないけども、途中で手間取ったりしてたら間に合わない可能性もある。


――僕は、なんだか知らないけども特別な力を持っちゃってる。


ついでに女の子になっちゃってる。


持ってない男のときからもそうだったけども、僕の私生活はどうでもいいとして――誰かが困ってるのに僕の力を使わないとかはできないんだ。


そういう性分だからしょうがない。


目の前で倒れてる人とか居たら、勇気があるとかじゃなくって見捨てるってのができないだけの臆病者。


【あ、モンスター】


たんっ。


たんったんっ。


【はやい】

【速攻で吹き飛ばされてて草】

【え、今ハルちゃん走りながら撃ったよね……?】


【あの、普通は今の距離のモンスター、止まってないと当たらないと思うんですが】

【そこはまあハルちゃんだし?】

【ハルちゃんだしなぁ】

【ハルちゃんってことでなんかもう何でもアリな気がしてきた】

【草】


【あ、ドロップ拾わないんだ】

【救助要請だしな】


【石拾いもドロップ漁りもしないハルちゃんが斬新すぎる】

【そもそも画面がこれだけ速く動いてるのも斬新すぎる】

【走ってるのも斬新すぎる】

【アクティブすぎてハルちゃんじゃない気がしてきた】

【草】


ドロップがもったいないって思ったのも最初だけ。


何回か倒して素通りするのを経験すると、だんだん気にならなくなってきた感じ。


【三日月えみ「この度はうちのハルがご迷惑をおかけしております」】

【深谷るる「ハルちゃん!? すっごく探したんだよ!? 誘拐かってみんな心配したんだから!」】


【あ、保護者】

【あと被保護者】

【被保護者で草】

【せめてお姉ちゃんと……ああうん、るるちゃんだからね……】


【と言うかハルちゃん、時間節約のために配信を連絡に使うとか斬新すぎん??】

【今日は斬新なことばっかりだな】

【えみお母さん、娘さんのことはちゃんと面倒見て?】


【いや、無理だろ……ハルちゃんだぞ?】

【それもそうか】

【なんかふらっと放浪してるイメージしか無いもんな】

【草】

【草だけど言われるとほんとそう】


「次の角に2体っ」


普段しないようなスピードレース。


ちょっと楽しくなってきた僕は「そういえばちゃんとした実況ってのしなきゃ」って思い出す。


「モンスターたちがこっち見てても、僕が足音立てていないので3秒は反応しませんっ」


きゅっと通路の角に到着して足をグリップにして直角に曲がる。


【そうなの?】

【知らん】

【知るもんか】

【草】


【いや普通はそもそも曲がった角の先のモンスターなんて探知しようがないんですが?】


【探知スキルあげたらできるん?】

【お前が耳を澄ませていたとして、廊下の曲がり角で動いてもしゃべってもいない人の存在を把握できるか?】


【ああ無理だわ】

【そうだよ……無理なはずだったんだよ……】

【よっぽどあげたら多少分かるかもだけど、何匹かまでかは……】


【あ、ほんとにいた】

【そしてもういなくなった】

【草】

【なぁにこれぇ……】


うん、実況ってこういうのだよね?


多分。


【と言うかさ、角の先に居たモンスター確かに硬直してたわ】

【まぁ多分人間でも同じだけどな】

【ハルちゃんこそ足音立てずに曲がり角から飛び出したんだもんな】


「で、今日はショートカットしたいので」


目の前にある下への階段の横を全力疾走。


【え?】

【ハルちゃん速すぎて通り過ぎちゃった?】

【でも今ショートカットって】


「るるさんが何回も落ちた、落とし穴の罠を使います」


【は?】

【え、今なんて?】

【うっそでしょ】

【もー、ハルちゃん冗談……え?】


【深谷るる「私はともかく危ないよハルちゃん!?」】


【るるちゃん、ともかくって】

【まぁるるちゃんだし】

【そうだったな】


【るるちゃんってなぜか致命傷だけは避けてたもんね……ハルちゃんのとき以外は】


たんっと罠のスイッチを撃ち抜くとがこっと下に穴が開く。


【マジだ】

【あの、今ハルちゃん……罠を撃ち抜いたように見えるんだけどて】


「で、ここからダイブします」


【えっ】

【えっ】

【え?】


【深谷るる「ハルちゃーん!?」】

【三日月えみ「ハル、それは危険だから止」】


普段はやらないけどもやるときはやる飛び降り。

こういうのって最初は怖いけど何回かやれば慣れてくるよね。


「落ちるときは片目閉じておいて下の階の地面がちゃんと見えるようにして」


【今落ちるって言った!】

【言ったな】

【飛び降りてる自覚はあるんだ……】

【なぁにこれぇ……】


「で、地面が迫ったら」


【ひゅんってしてる】

【怖い】

【地面が】

【上から】

【ああ! 上に! 上に!】

【ハルちゃんケガしないで】


「手を伸ばして触れる瞬間に」


ぱりんっ。


寒い冬の日、大きめの水たまりの上に張った氷を地面に叩きつける感じのいい音。


攻撃を受け流すスキル、それを慣れたタイミングで発動。

僕の自由落下のモーメントは失われて、ふわっと一瞬浮いて。


「ほらね?」


すとん。


む、着地が微妙にぐらついた……最近やってないからなぁ。


「今日は慣れてない装備ってのもあるんですけど、普段はちゃんと綺麗に着地できるんですよ?」


【草】

【どんなこだわり!?】

【えぇ……】

【本当にぴんぴんしてて草】

【高度な内容過ぎて誰も分かんないよハルちゃん】


【ダンジョンの1階層分って……何メートルよ?】

【多分5メートル……10メートル行くところもあるよな】

【大部屋だと20、30メートルくらい?】

【ここは通路だから10メートルくらいか……?】


【深谷るる「        」】

【三日月えみ「肝が冷えました」】


【だって幼女飛び降り事件だもんな】

【それなのに平気そうすぎるハルちゃん】

【なぁにこれぇ……】

【草】


「じゃあ……あ、隣の部屋にまた落とし穴」


【え、何この幼女……自分から落とし穴探してる……】

【確かに階段使うより速い……か……?】

【いや、普通はこんな方法しないぞ】

【と言うか待って、今隣の部屋の罠探知したのこの子!?】


【そもそも普通はどれだけ急いでいても階段使うよね】

【そもそも普通は飛び降りるなんて発想は無い】

【そもそも普通は落とし穴をショートカットに使うっていう発想できない】

【そもそも普通は地面にぶつかる瞬間に謎の力発生したりしない】


【と言うか今の本当……何?】

【俺たちが知るもんか】

【上位ランカーのえみちゃんとるるちゃんさえ知らなかったんだぞ?】

【いや、飛び降りたの見てフリーズしてる可能性】


ふと、そういえば女の子になってからこれやると髪の毛ぶわってなって大変なのにって思いつく。


あ、そっか。


るるさんたちに……えっと、つーさいどあっぷ……?

とにかくツインテっぽいのにしてもらったからばらけにくいっぽい。


なんか今日に限ってこの髪型で助かった感じ。


「落とし穴の中まではモンスターも追ってこないので、さっきみたいに罠を撃っちゃってさっさと落ちますね」


【ハルちゃんがアクティブ過ぎて草】

【心なしか生き生きしている】

【すっごく楽しそうだね】

【かわいいね】

【やってることはえぐいけどな】


【なぁにこれぇ……】

【なぁにこれぇ……いやほんと】

【これがRTAですか?】

【知らない、こんなRTA知らない】

【RTAってなんだっけ……】


【ハルちゃんハルちゃん、普通はね、ダンジョン攻略RTAって普通に階段使うの……階段でどれだけ荷物整理と準備できるかを競うの……】


【偽ハルちゃんたち! これは絶対に真似しちゃいけないからな!】

【安心しろ、普通の人間は試そうとすら思えない】

【普通の人間は落とし穴ですら怖いから】

【多分ドン引きしてるから安心して?】

【草】


【あっあっ】

【ボア系のモンスターがこっちに】


【あっ】

【「ぶぎー!?」】

【悲報・モンスターさん、ハルちゃんのせいで落とし穴落っこちた】

【草】

【かわいそう】

【なるほど、こんな手が……思いつけねぇよ!?】


【で、華麗にダイブするハルちゃん】

【なんか2回目だと目が慣れるね】

【そうだね、心穏やかだね】


【お前ら調教されすぎじゃない?】

【だってなんかよく分かんないけどすごいんだもん……】


【なぁにこれぇ……】

【分かる、何も考えないでそればっか言ってたい気持ちはよーく……】



◆◆◆



43話をお読みくださりありがとうございました。


この作品はだいたい毎日、3000字くらいで投稿します。

ダンジョン配信ものでTSっ子を読みたいと思って書き始めました(勢い)。


「TSダンジョン配信ものはもっと流行るべき」

「なんでもいいからTSロリが見たい」


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